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社説

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株価急上昇―反発力を次への布石に

 「金融危機に対して、協調して断固たる対応を取る」という主要国のメッセージが歓迎された。日米欧市場で株価は記録的な急反発を見せた。

 先週末にワシントンで開かれたG7(主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議)は前例のない行動計画を打ち出した。これを受けてすぐ、欧州各国が銀行への公的資本注入に踏み込んだ。英国が大手3行へ計6兆円以上を投入すると決め、ドイツ、フランスも注入策を決めて追随した。

 株式市場が最も歓迎したのは、各国が相互に触発しあうように、スピード感をもって危機克服への政策メニューを次々と整備している点だ。先週に世界を襲った連鎖株安の流れを、対策の連鎖が押し戻す構図が見えてきた。この反転の力を大事にしたい。

 だが、克服策はまだ動き出したばかりだ。金融も景気も数多くの困難が待ち受けている。各国とも素早く対策を続けていかなければならない。

 その意味で第一に望みたいのは、危機震源地の米国が早く公的資金の注入を実現させることである。

 欧州に背中を押される形で、米政府は金融救済法で認められた公的資金70兆円のうち、政府裁量で使える25兆円の枠をまず資本注入に充てる。記者会見したポールソン財務長官は、主な9金融機関が公的資金の注入受け入れを約束したと明言した。

 ただ、米当局が強調するように、資本注入で信用収縮がすんなり反転するかどうかは不透明だ。救済法の大胆な拡大解釈で注入することには議会の反発があるなど、実現への難問も残る。打開に手間取るようだと、市場が失望して混乱へと逆戻りしかねない。

 また実体経済面では、住宅など資産価格の世界的な下落基調がやまない限り、悪化に歯止めがかからない。G7各国は経済や財政の状態に応じつつ、景気が冷え込まぬよう万全の目配りをしていくことが必要だ。

 日本も政策の総点検を急がなければならない。中小金融機関への資本注入を容易にする金融機能強化法を復活させるよう、与野党が協力する方針だ。金融機関から注入の希望がなくても、必要なら強制的に注入して混乱を未然に防ぐなど、復活と同時に制度の機動性を高める必要があろう。

 日本は90年代後半の金融危機で、銀行の一時国有化や預金の全額保護、銀行間の資金取引への政府保証などを設けた。いま欧米が先を争うようにこれらを導入しているが、日本では危機が去り撤廃されたものも多い。

 いまのところ日本の金融市場は危機に直面してはいないが、世界的危機がいつ波及しないとも限らない。いざという時に備えて、金融破局を防ぐ方策はすべて、いまのうちから整備しておいた方がいい。

海自隊員死亡―組織が壊れていないか

 自衛隊でまた事件が起きた。いかに大きな組織だとはいえ、これだけ事件や不祥事が続くと、根本的なところに欠陥があるとしか思えない。

 今度は、海上自衛隊の特殊部隊の格闘訓練中に、若い隊員が頭を強打されて死亡した。15人と50秒ずつ格闘する訓練で、14人目のパンチで倒れた。

 空手と柔道を組み合わせた自衛隊独自の「徒手格闘訓練」の最中だった。防具とグローブはつけるものの、実戦を想定した激しい訓練だ。通常は2〜3人程度を相手に行われ、15人というのは異例の多さである。

 しかも、犠牲になった隊員は特殊部隊を辞めたいと言い出し、2日後に異動することになっていた。

 海自幹部は遺族に「はなむけのつもりだった」と説明したというが、一連の流れを見ると、部隊を抜けようとする者への見せしめのリンチだった疑いが浮かぶ。教官2人が立ち会っていたというのだから、組織的なものと思わざるをえない。

 驚いたことに、今回の事件の2カ月ほど前にも、16人の隊員を相手にした「訓練」で、1人の隊員が歯が折れるなどの負傷をしている。この隊員も特殊部隊を辞めようとしていた矢先の「訓練」だった。

 相次ぐ事件は、特殊部隊という密室性のゆえなのか。考えたくはないことだが、旧日本軍の暴力的な体質を受け継いでいるのだろうか。

 管轄する呉地方総監部は事故調査委員会を設けた。現場だけに任せず、防衛省内局や海上幕僚監部も積極的に原因の究明に当たるべきだ。

 訓練中の事故ということで、警察ではなく海自警務隊が捜査している。警務隊からの送検を受ける検察には、「訓練」の実態を明らかにするよう強く求めたい。

 それにしてもこのところ、防衛省・自衛隊の不祥事は、とどまるところを知らない。官僚のトップである防衛事務次官の汚職、最新鋭のイージス艦と漁船との衝突事故など、根底には組織全体のたるみがあるとしかいいようがない。

 さらに最近では、自衛隊員の自殺の多さが問題になっている。10万人あたりの自殺者数が一般職国家公務員の約2倍である。しかも、自殺の動機の半分が「その他・不明」とされている。「いじめ」が原因として遺族が裁判に訴えるケースも出てきた。

 自衛隊は年間予算4兆8千億円を持ち、25万人を抱える巨大組織である。その自衛隊は、万一のときに日本と国民を守るためにある。その重い任を担う組織が、こんな危うい状態では安心できない。

 今回の特殊部隊の事件を機に、政府は自衛隊の抜本的な点検を急がなければならない。

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