ターニングポイントとは
現在活躍している理学・作業療法士、教職員、研究者の方々へのインタビューです。
今までの医療(教員)人生での、転換期・ターニングポイントについて語ってもらいます。
さらに、学生時代の経験を織り交ぜながら、 勉強に励んでいる学生さんに向け、熱いメッセージやアドバイスを伝授してもらいます。
ターニングポイント
アメリカでPTに必要なスキル(全5回) 第3回
2008/08/20
杉原 弘康
アメリカでPTに必要なスキル 第3回
第3回の今回は、「文書作成スキル」です。
文書作成 (documentation) スキルというのは、英語に関わったスキルのなかでも特に重要度が高いかも知れません。
どんな職種に限らず、文書作りというのは記録・証拠を残すということですからその後になにか問題があった時には、責任問題の話し合いはそれらの文書をもとにおこなわれます。
特にアメリカは「訴訟社会」ですから、文書作成にはいつも注意が必要なのです。私の妻(日本人)はこちらの小学校の教員なのですが、彼女も小学校での子供達に関しての様々な文書を作成する時はいつも以上に気をつかう、と言っています。
アメリカでPTが作成する主な文書には、理学療法評価(開始時、終了時、そして週間)、日ごとの理学療法記録やPT所見(提言)などがありまして、多くの場合それらを紙面とコンピュータ(電子カルテ)に記録していきます。
それらの文書は、例えば急性期病院では患者さんの「安全性」の観点から法的に大きな力をもっています。
私の現在の職場ではカルテ監査委員会がありまして、ほぼ1ヶ月に一回は私が作成した紙面とコンピュータ両方のカルテの文書がチェックされています。
この結果は次の年の査定や昇給にも影響するのでこちらも必死です。このようにPT業務の上で文書作成にかなりの比重が置かれるのは、アメリカ理学療法の特徴のひとつでしょう。
私自身、職場からの給料の半分(もしくはそれ以上)は、理学療法のカルテ記入やその他の文書作成のためにもらっているのかなと、時々感じてしまいます。
「ペンは剣に勝る」という言葉もありますが、では、説得力のある文章を書くコツにはどんなことがあるのでしょうか。
PTとしての提言とその根拠をシンプル・明確に書くこと、「患者さんの安全」などの重要事項を理由に含めること、言葉選びの際に相手が好んで使う言葉を自分も使うようにすること、などが含まれるかもしれません。
例えば、「to prevent with fall」 と書くと却下されてしまうのに 「to minimize risk of fall」 と書くと受理されると聞きます。
両方の表現の言いたいことは同じなのに、不思議ですよね。
説得力のある文書をつくることができると、特殊なリハ器具を保険で払ってもらえることがあったり、 理学療法の保険適応を延長が許可されたりするなど、理学療法を患者さんに有利に進めることができるのです。
先日、私の勤務先で、ある患者さんの理学療法がその方の回復の遅れから打ち切りになりそうになった事がありました。
そこで、「家族の介護スキル」の訓練に焦点をあてて文書を作成して理学療法の延長を認めてもらう事ができたのです。
普段は文書作成には苦労させらることが多いのですが、この時ばかりは大喜びして、また文書の強さというのを実感しました。