ターニングポイントとは

 現在活躍している理学・作業療法士、教職員、研究者の方々へのインタビューです。
 今までの医療(教員)人生での、転換期・ターニングポイントについて語ってもらいます。
 さらに、学生時代の経験を織り交ぜながら、 勉強に励んでいる学生さんに向け、熱いメッセージやアドバイスを伝授してもらいます。

ターニングポイント

アメリカでPTに必要なスキル(全5回) 第5回

2008/09/24
杉原 弘康

アメリカでPTに必要なスキル 第5回


 最終回(第5回)の今回は、「適応力」の話です。

 「適応力」というのは、新しい状況に自分を柔軟に合わせながらサバイバルする(生き残る)ための能力であると私は考えています。 私自身を振り返ってみると、7年前にアメリカのボストン市に単身で渡って以来、この適応力を試される毎日の連続だったような気がしますし、これからもきっとそうでしょう。アメリカに渡って、こちらの病院で働き、こちらの患者さんを英語でPT診療をしていくーそんな時に大切だなあ、と普段から感じるのが今日のトピックの「適応力」なのです。つまり、PTとしてサバイバルするために、どう自分を変えていくのか、ということが今回のテーマです。連載コラム最終回の今回は、どんな考え方や捉え方をすると適応力をつけることができるのかをお話ししたいと思います。
 
 アメリカでPTとしての適応力をつけるために、私がまず最初に思い浮かぶのは、自分の強みを知ること、そしてその強みをアメリカ社会や職場で応用するといことです。私は、アメリカ社会に適応するということはアメリカナイズ(アメリカかぶれ)するということではない、と思っています。特にアメリカ社会は、それぞれが自分の得意なことをやるのが社会全体にも良い、と考えている社会ですので、自分の日本人としてまたは個人としての強み・長所を知り、それを生かしていくことがとても大切なわけです。まさに、「己を知れば、百戦危うからず」です。私がまだ大学院生だった頃に、私の臨床教官が私の強みのひとつは「とても丁寧で、キチンと仕事をしようとしていること。」だと教えてくれました。それ以来、その姿勢は崩さないようにいつも心がけています。このことは日本人が仕事をする時には当たり前のことですが、こちらではそういう姿勢が見えにくい人も実に多いのです。私の場合、日本人らしい丁寧なPT診療は、アメリカ人の患者さんとのよい信頼関係(ラポール)を築くのにとても役立っています。
 
 自分の強みや長所を知った上で、アメリカでPTとして適応していくために大切なこととして思い浮かぶことは、自分の職場でのPTとしての業務内容や特に重要なノルマをしっかりと把握しておくことです。そうすることで、自分の強みを実際にどういう形で応用していくかを考えることができます。例えば、私のPTとしての強みのひとつは先ほどお伝えしたように丁寧なPT診療である一方、勤務先からは決められた業務を一日8時間の定時内で終らせることを要求されています。ちなみにアメリカでは、残業というのは倫理面などのそのほかの問題が出てきてしまうことがあるため、嫌が応でもPTの業務をかなりのスピードでこなしていかなくてはなりません。そんな中で、私の強みの「丁寧さ」と勤務先から要求された「スピード感」を両立するために、私は「準備 (preparation) と整理 (organizing) 」を工夫するという形で自分の長所を応用することにしました。このようにして、私はアメリカの医療業界に自分を適応させてきました。

 私自身アメリカ社会で生活し様々な環境に適応しようと知恵をしぼってああでもないこうでもないといろいろ考えるわけですけれども、7年経った今でも試行錯誤の毎日です。そんな中で思うのは、自分ができることをしっかりと考えて実行した後は、「人事を尽くして天命を待つ」と言うと大げさですけど「今の自分ができることはすべてやったのだ」と自分自身に満足しストレスをためないことも大切なスキルのひとつだということです。そうでないと、身体も心もとても持ちません。自分の置かれた状況を的確に判断し、ストラテジック(戦略的)に知恵を絞り、そして自分らしさと共にベストを尽くす! 流れの速い医療現場に「適応」するためには、この考え方は我々PT自身のためにも、そして私たちが理学療法を行う患者さんの回復のためにも大切なのではないでしょうか。

 全5回にわたって、ご閲覧いただきありがとうございました。海を越えたこちらアメリカで私がPTとして感じていることが、日本のPT学生の皆さんへのメッセージとして何かしらの参考になれば幸いです。

追記:この写真は私の職場から見えるサンフランシスコの風景です。こんな風景を見ながら、試行錯誤をくりかえして理学療法に携わっています。
 


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