ニュース: 生活 RSS feed
【産科医解体新書】(8)地方も都市も厳しい勤務環境
大病院から多くの産婦人科医が地方の病院へ派遣されます。地方にある病院や開業医のクリニックが、どんなに立派な建物で産科医がたくさんいるとしても、ほぼ例外なく他の病院から応援の医師が来ています。それぞれの病院が自前で十分な数の常勤医を確保するのは困難なためです。
ただ、中にはたった1人の医師が、24時間365日、地域医療を支えているクリニックもあります。一瞬のうちに事態が急展開する産科医療では、大病院で働いているときでも気が抜けないことがあります。ですから、たった1人で、小児科や麻酔科のバックアップもほぼ受けられず、終わりなき連続業務を強いられる場合には、なおさら不安が大きくなります。
医師数の多い都内でも、外勤の当直先で患者さんが急変した際に、バックアップの医師が誰もつかまらないことがあります。バックアップの医師もそれぞれが他の病院で働いていれば、おのおのの医師がなんとかするしかないわけです。
僕らは先輩たちに事故を起こさないように、そして訴訟に巻き込まれないように、細心の注意を払って診療にあたるように再三注意を受けています。
ぼくは今まで、上司たちが「訴訟に気をつけなさい」というのは、民事訴訟のことだと思っていました。しかし、システム上の欠陥によると思われる事故や、純粋に医療的側面からのやむを得ない状況で起きた事故でも、刑事事件となる可能性がある時代になってきました。
地方の病院から産科医が次々に撤退しています。その理由は、小さな病院での産科医療がハイリスクだということが分かってきたことで、産科医療の集約化を目指すために、医師を一カ所に集め始めていることが原因だと思います。
一時的にせよ、地方の産科医療が崩壊寸前になっていることは事実ですが、同時に都市部でも産科医療を取り巻く環境は厳しいのが現実です。地方でも都市部でも、僕らは毎日、薄氷を踏む思いで日常診療にあたっていることに変わりありません。(産科医・ブロガー 田村正明)