子どものころ飲みたくて仕方がなかったのが、噴水型の自動販売機の冷たい飲み物だった。ガラスボトルの中でオレンジジュースがノズルから噴き上がっていた。
国立科学博物館(東京)が、科学技術の発達の上で見逃せない役割を果たし、次世代に引き継ぐべき重要科学技術史資料(愛称・未来技術遺産)の登録制度を新設し、第一回の二十三件が選ばれた。
ジュース自動販売機もその一つだ。愛知県の電機機械メーカーが一九六二年に製作した。冷えたジュースをおいしく見せる効果が抜群で、自販機の全国普及につながった点が評価された。
このほか電卓普及のきっかけとなった電子式卓上計算機、世界標準となったVHS方式の家庭用ビデオ、工場の組み立てラインに欠かせない小型産業用ロボットなどもある。
戦前では、日本人が初めて実用化した無線電話機、世界初のブラウン管式テレビで映された被写体の雲母板なども選ばれている。日本の技術開発の厚みを実感させられる。
戦後の日本が高度成長を遂げたのは、明治以来培ってきた「ものづくり」の技術があったからだ。しかし産業構造の変化や生産現場の海外移転、団塊の世代の退職などにより、技術の成果は急速に失われつつある。未来技術遺産への登録をきっかけに見直したい。