海上自衛隊によるインド洋での給油活動を一年間延長する新テロ対策特別措置法改正案が、今国会中にも成立する見通しとなった。強く反対している民主党が早期採決の方針に転じたためだが、重要法案の駆け足審議には大きな疑問を感じる。
同法案はアフガニスタンへのテロリストや武器の流入阻止に当たる米英などの艦船への給油活動を通し、テロ根絶への貢献を目指すとする。活動は「非戦闘地域」に限る。政府は活動の実施計画を国会に報告する義務があるが、国会承認は不要となっている。現行法の期限は二〇〇九年一月十五日で、その延長を図ろうというものだ。
これに対し、民主党は「給油活動は戦争そのもの。国連のお墨付きがない中での活動は違憲だ」と反対する。昨年来の国会では徹底審議を求めて参院で否決し、与党が衆院の三分の二条項による再可決で成立させた経緯がある。
それほど徹底抗戦した民主党が、反対の姿勢は変わらないとはいえ、早期採決へと大きく方針を転じた。これにより、衆院テロ防止特別委員会で二日間審議して採決し、二十一日の衆院本会議で与党の賛成多数で可決、参院へ送付される見通しだ。参院では多数を占める野党の反対で否決されても、衆院での再可決で早ければ今月中にも成立する可能性があるという。
方針転換の背景には、衆院解散・総選挙をめぐる与野党の駆け引きがある。民主党としては、審議を理由に麻生太郎首相や与党に解散時期を先延ばしさせないとの戦略だろう。与党の数の力による強引な国会運営を印象づけたい狙いもありそうだ。与党側にもテロとの戦いで民主党を攻めたい思惑がある。
選挙に戦略はつきものだ。しかし、アフガンでのテロとの戦いに日本がどうかかわっていくのかは、国際的な立場や今後の針路にかかわる重大な問題である。どうすることがアフガンの平和と安定に寄与できるか与野党が真剣に考えるべきだ。
政府案については給油活動がアフガンのためにどれだけ貢献しているのか。さらには文民統制の機能などについて聞きたい。民主党も国会に、アフガン本土での民生支援や、自衛隊派遣に事前の国会承認を必要とすることなどを盛り込んだ対案を提出しており、政府案とともに審議される。治安が一層悪化する中で実効性はどうなのか。
法案の内容より、選挙の駆け引きに走って審議の形だけ整えたのでは本末転倒だ。政治を担う根本姿勢が問われる。
米政府は核計画申告の検証方法で合意したとして、北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除した。しかし、北朝鮮の揺さぶりに六カ国協議での非核化プロセスの崩壊を懸念した米国側の譲歩が色濃く、今後の展望は不透明だ。
米国のテロ支援国家指定は、国際テロ活動を支援している国を指定し、経済援助の禁止など制裁を科すものである。大韓航空機爆破事件の翌年の一九八八年に指定された北朝鮮は「米国の敵視政策だ」と反発し、指定の解除を強く求めていた。
今年六月、北朝鮮が六カ国協議の合意に基づき核計画を申告したのを受け、ブッシュ米大統領が指定解除を議会に通告したが検証方法をめぐって協議がもつれ解除は延期された。これに対し、北朝鮮は核施設の無能力化作業を中断して再稼働へ動くなど揺さぶりをかけていた。
主な合意内容は、検証はプルトニウム計画だけでなくウラン濃縮や核拡散活動も対象とする。検証方法は近い将来六カ国が最終承認するなどである。
米国が指定解除に踏み切ったのは、ブッシュ大統領の任期切れが迫る中で一定の成果を挙げたいとの思いがある。そのため妥協も受け入れた。例えば北朝鮮が難色を示した未申告施設への立ち入りについては北朝鮮側の同意を必要とした。停滞した流れを動かすことは大切だが、これで実効ある核検証が可能といえるのか疑問だ。
指定解除は、拉致問題を抱える日本にとって重要なカードを失ったといえよう。日朝間で合意した拉致被害者の再調査委員会の設置もまだで、拉致問題が取り残されないかとの懸念が広がっている。米国は「日本の立場を理解している」と再三協力を約束してきた。より積極的な実践を求めたい。
(2008年10月13日掲載)