大阪弁護士会が知的障害者ら心身に障害がある人の特性を理解し、弁護できる専門弁護士養成に乗り出す。全国初の取り組みで、11月にもプロジェクトチーム(PT)を設立し、具体的な検討を始める。新規受刑者の約2割は知的障害の疑いがあるが、十分な弁護をされていない可能性がある。そのため、来年5月の裁判員制度施行を控え、知的障害者らへの誤解や偏見を取り除き、正当な権利の保障を目指す方針だ。
知的障害がある人の特徴として、見たり聞いたりしたことを整理、表現することが苦手なケースが多いとされる。また、相手に迎合し、誘導に乗りやすい面がある。強盗容疑で逮捕された知的障害の男性が警察官の誘導で自白調書を作られたとされ、公判中に真犯人が見つかり、05年3月、宇都宮地裁で無罪判決が出たケースもある。この事件を含め、弁護士が障害の特性に気づいていない場合が多いとみられている。
法務省の矯正統計年報によると、知的障害の疑いがある「知能指数70未満」の新規受刑者は07年で約6700人に上り、全体の約2割を占めている。
こうした背景を踏まえ、大阪弁護士会は06年4月、全国の弁護士会に先駆けて「知的障害者刑事弁護マニュアル」を作成した。知的障害がある場合は、具体的な事実を問う▽短い文章で質問する▽仮定の質問をしない▽時間の順を追って質問する−−など具体的な弁護方法を紹介している。
今回のPTは、このマニュアルを活用し、刑事裁判の当番弁護士に登録している人を中心に研修を実施。研修を受けた人を専門弁護士として名簿化し、障害のある人から依頼があった場合に派遣に応じるための仕組み作りを検討する。
マニュアル作成時の座長で、PTのメンバーにも入る辻川圭乃(たまの)弁護士は「知的障害のある人は冤罪(えんざい)に巻き込まれやすい。また、罪を反省していても、裁判でうまくそれを伝えられず、厳罰化されやすい。目や耳が不自由な身体障害者も視野にいれ、対応できる専門弁護士を来年中にも養成したい」と話している。【玉木達也】
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