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    殺 害 く ま さ ん(ホラー)タイトルNO.78349
    もみじこ 09/26(金) 15:19 IP:219.160.198.99 削除依頼



あなたのもとに、くまの人形はありませんか?





NO.1 もみじこ 09/26(金) 15:21 IP:219.160.198.99 削除依頼

一一いますか?

いたら確かめてみてください。

首のまわりに白いリボンがしてあるか。

そして、それに赤い染みがついていないかどうか。


NO.2 もみじこ 09/26(金) 15:23 IP:219.160.198.99 削除依頼



☆+゜どうも、もみじこです(ω)

前の小説もそのまえの小説も挫折してしまったので
今回は頑張って完結させようと思います!

ちなみに、フィクションですので
くまさんがいても大丈夫です(・∀’)笑

NO.3 もみじこ 09/26(金) 15:42 IP:219.160.198.99 削除依頼




騒がしい朝から物語は始まる。


「わーーーーーー、遅刻!!!」

ドタドタと階段を駆け下りる。

「ちょっと!莉子!!うるさいっ」

下からお母さんの罵声がとんできた。

でも、そんなの気にできるぐらいの暇が、ない!


時計は、無残にも8時を指している。

朝ごはんは冷め切ってしまったようだ。

「あんた昨日ねむいーとか言って9時に寝たくせに」

「なんでか知らないけど寝不足なの!」

そう、あたし、相模莉子(さがみ・りこ)は

なぜか最近学校でも眠くて、家でも眠いという

よくわからないことになっているのだ。


冷めたロールパンをくわえながら靴下を履く。

「あ、あれだ」

朝のニュース番組を眺めていたお母さんが呟いた。



最近、マスコミを騒がせているある事件が報道されていた。




NO.4 魁姫 09/26(金) 15:50 IP:61.86.22.53 削除依頼
どうも!ネク希望ですー^^怖いですね・・・・
うちにもそういうクマさんいます・・・・

NO.5 もみじこ 09/26(金) 15:51 IP:219.160.198.99 削除依頼


ふとソックタッチを塗る手をとめてそちらへ向く。

『眠るようにゴミ捨て場で死んでいた女子中学生
              いったい、その時何が』

あたしは部活に入っているのであんまりニュースや新聞は見れない。

だから、このニュースの内容はよく分からないけど、

確か、隣町で殺人事件があったとか。

しかも、殺された女の子は、眠るようにゴミ捨て場で死んでいたらしい。

さらに、身体に痕が全くなくて、警察も捜査が難航しているとか。


ふっ、とお母さんがこちらへ振り返り、

「ほらッ、あんたも中学生なんだから気をつけなさいよ」

「へいへい」

ぼーっとニュース番組を眺めていたせいか、ソックタッチを塗りすぎたようだ。


はっ、と今の自分の状況を思い出す。

時計の長針は『2』を指していた。

「うっわ、やばっ、行って来ます!!」

バン、とまたリビングのドアを強くあけてあたしはでていく。

「ちょっと、あんたっ!」


NO.6 もみじこ 09/26(金) 15:53 IP:219.160.198.99 削除依頼


>>魁姫サマ

わああ(・∀・)+゜
コメ&ネクありがとうございます!!

いたら怖いですよねー;;笑

NO.7 もみじこ 09/26(金) 16:03 IP:219.160.198.99 削除依頼



『…私は学校まで全力失踪しました。しかし校門は無残にも校務員さんによって閉められました』

「で、続きは?」

『…私は、もう金輪際遅刻しないことを誓います』


…カランッ…


「お…終わったあ…っ」

「お疲れ、莉子」

案の定あたしはあの後遅刻し、反省文を書かされる羽目になった。

「もー藍も少しは手伝ってよおー」

「やだね。あたし遅刻してないもん」

あたしと今話しているのは幼ななじみの内藤藍(ないとう・あい)。


そしてもう一人の幼ななじみ…

「あっれ七緒は?」

「あっちあっち」

女子に囲まれてキャーキャー言われている男子。

桜井七緒(さくらい・ななお)。


あたしに気づいたのか、ひょっと机から腰をあげ、

取り巻きの女の子の円を掻き分け、こっちに近づいてきた。

「よっす、莉子」

「うるせーチャラ緒」

ははっ、と七緒は笑い飛ばして、

「チャラくてごめ〜ん」

「お前なんかゴミ捨て場で眠るようにし ね」

「ひっどー!藍、なんか弁解して」

藍はニヤけながら首を横に振った。


まあ、あたしら3人は家がみんなお隣同士ってことで

こんな感じの付き合いがある。

NO.8 もみじこ 09/26(金) 16:29 IP:219.160.198.99 削除依頼


「実は、あたし事件のことよくわかんないんだけどね」

「えっ知らないの?」

藍が聞いてきた。

「俺も俺もー」

七緒がはーい、と言うように手を挙げた。

「ニュース見ろ」

「…ハイ」

藍が教えてくれることを実はちょっと期待していたのだけれど。


「まあ、あの事件は本当ひどいよ」

藍は続けた。

「自分らと同い年の人が痕もなく殺されたんだっていうんだからね」


…あ れ ?

たった今、脳内に浮かんだ映像。



女の子が横たわっている。

生気なく閉じられた両眼。

青い唇。

強張った身体。



………これは、



死 体 … … ?



「…莉子?」

気が付くと、藍があたしの顔を覗き込んでいる。

「どした?」

「顔色わりいぞ」

七緒も心配してこちらを見つめる。

「ん、なんでもない」

NO.9 もみじこ 09/26(金) 16:40 IP:219.160.198.99 削除依頼


それから一日、あたしはテンションがあまり上がらなかった。

あの、不気味な映像が頭の後ろにいて、

あたしが笑うのと同時に脅かしてくるような感じがして。


「莉子〜今日やっぱなんか変」

今は7限、体育の時間だ。

バスケで、試合の番でないときに藍が話しかけてきたのだ。

「えっ、そう?」

「遅刻したからってそんなに凹んでたら生きてけないよ」

「はは、そんなんだったらもう既に七緒はこの世に居ないはずだね」

藍は、やっぱりあたしのことをよく分かってくれる。

さすが。

そうしてしみじみしていると、


「ねえねえ何の話してんの〜麻紀もまぜて〜」

後ろから声がした。

「あ、麻紀ちゃん」

藍が引きつった声を出した。

なんてったって、この子は藍がクラスで一番苦手な子だ。

まあ、あたしもそこまで好きじゃないけど…


「ねえねえ、麻紀ね〜昨日カレシにテディベアとってもらったんだ、ほら!」

この子はあまり空気が読めないらしく、いきなり自慢をしてきた。

そして、取り出したのは結構大きめのテディベア。

白いリボンが首元にかわいらしく結んである。


…つーかこいつどうやって体育の時間に持ってきたんだ、とは思ったけれど

そこはあえてつっこまないことにしておく。

「いいね〜可愛い」

と、あたしが乗ると、麻紀は、

「えへっ、いいでしょ」

はにかみながらベアを撫でた。


…このとき、なぜか、あたしの心はざわついていた。


NO.10 もみじこ 09/26(金) 17:02 IP:219.160.198.99 削除依頼

その日の帰りだ。

血で染まったように赤い夕焼け。

その中を麻紀とそのカレシの樹(いつき)が手を繋ぎながら帰っていた。

麻紀の繋いでいないほうの手には、例のベアが居た。


「このテディベアすごい可愛くて好き」

樹を上目遣いで見ながら、麻紀が言った。

「そう?」

「うん」

「それは、よかった」

なにしろ、このベアは樹がゲーセンで1000円かけて麻紀のために取ったものだった。


影が長く長く伸びて永遠の時間を創りだす。


「…あ、じゃあ送ってくれてありがと」

「うん」

「ばいばーい」

「ばいばい」


パタン、と麻紀の家のドアが閉まる。

それを見送ったあと、樹は自身の帰路についた。

「やべっ」

紅の空は、夜の闇に押しつぶされかけていた。


NO.11 もみじこ 09/26(金) 17:12 IP:219.160.198.99 削除依頼


麻紀は、樹からもらったベアを部屋でじっと見つめていた。

ふ、と笑みが零れ、ベアに向かって笑いかける。

「うれしいなーっ」

心の声が、つい表にでてしまう。

にやけながら、また正面からベアを見つめる。


ベアの白いリボンが崩れていた。

「あっ」

左右対称ではなくなっていた。

せっかく樹にもらったやつだもん、ちゃんとリボンぐらい直しておかなくちゃ、と

麻紀はリボンを付け直そうとする。


しゅっ


勢いよくひっぱりすぎたせいか、床にリボンが落ちてしまった。

よいしょ、と椅子から降りてリボンを拾う。


「なに、これ?」


リボンの裏側に書いてあったのか、不可解な数字が書いてあった。



『23.09.09』



「にじゅうさんてん、きゅう、てん、きゅう?」

何の数字だろう。


わからない。



「…ま、いっか」



麻紀は、その数字を、

その日は、

意味のないものと考えた。



NO.12 もみじこ 09/26(金) 17:23 IP:219.160.198.99 削除依頼

*

「おはよー」

「おはよー莉子」

「だんだん寒くなってきたねえ」

「うん、てかなんでうちの学校まだ半袖以外禁止?」

「なんでだろーねー」

他愛もない会話をして、あたしは藍と教室へ入っていった。


ガラリ、と重たい教室のドアを開けると、

「おはよお〜」

麻紀だ。

うげっ、とあからさまに嫌な顔をする藍。

「ん、はよ」

あたしは適当に返事を返しておいた。


「麻紀今日当番なんだけど〜」

麻紀があたしに話しかけてきた。

まあ、あたしの席が麻紀の後ろだからしょうがないのだけれど。

「えー大変じゃん」

うーん、と麻紀は唸ったあと、あたしに聞いてきた。

「今日何日だったっけ」

「今日?9月23日でしょ」

「せんきゅー」

麻紀は学級日誌に書き込み始めた。

「2009年9月23日っ、と…」


ふ、と後ろを向くと藍がものすごい剣幕をしてあたしのほうへ
おいでおいでをしていた。

「あー朝っぱらから気分わりっ」

あはは、とあたしは笑って返した。

「まあ、あたしはそこまでじゃないし」

「でもなんか嫌なんだよね、あの声とか」

藍の人の好き嫌いは激しい。


「あーあ、跡形もなく消えてくんないかな」


「藍ー、それは言い過ぎ」



…この藍の言葉が、まさか

あんな形で帰ってくるとは、

あたしにも、

想像がつかなかったけど



NO.13 もみじこ 09/26(金) 17:31 IP:219.160.198.99 削除依頼


*

昼休み時間のことだ。

樹の机に、ひょこひょこと麻紀がやってきた。

「ねえ樹ー」

「なに」

「このベアのリボンに変な数字書いてあったんだけど」

なんてことないような口調で麻紀は樹に言った。

「えっ、なんて」

「23.09.09だって」


…。


それは、明らかに、

「今日の日付じゃんか」

「うん」

「お前書いたんじゃなくて?」

「うん、てかなんでわざわざ書くの」

「だよな…」

麻紀ははい、とベアを樹に差しだして、

数字を確かめてもらった。


綺麗にプリントされた文字。


しかも、随分前にプリントされたような感じがする。

樹は、莉子と同じように『嫌な感じ』を読み取った。


「お前、これ捨てて」


愛くるしいベアにつきつけられた言葉。

「な…っ」

麻紀の、とても気に入ったベア。

「どうして…」

「なんか、嫌な感じする。捨てて」

樹は冷たく言い放った。


周りの男子、女子がにわかにざわめく。


「ちょっと来て」


樹は、麻紀の手を引いて教室から出た。

NO.14 もみじこ 09/26(金) 18:34 IP:202.253.96.233 削除依頼


どうも、もみじこです(ω)
携帯から投稿します;;


*

「ちょっ…いつきっ」

樹はずんずんと進んでいく。

向かった先は、


焼却炉。


「樹っ、やめてっ…」

「これは処分しないと、まずい」

麻紀がしっかりと手にしているベアをとりあげようとする樹。

「こっち渡して」

「いや…」

「渡してっつってんじゃん」

「嫌だよ…っ」

ぐい、とお互いが引っ張り合った瞬間、



ブ チ ッ … !



「あっ…」

ベアの片腕が切れた。

中綿がふんわりと地面に落ちる。

…沈黙。


「…」


そして、

この沈黙を破ったのは、樹。

「それ貸して」

麻紀は、ベアの本体を樹に差し出した。

じっ、とベアを見つめる。

愛くるしい表情をした、ただのぬいぐるみ。


彼は、燃え盛る炎の中に

ベアを、放り込んだ。


ちぎれた腕は、静かに地面に佇んでいた。


NO.15 もみじこ 09/26(金) 19:49 IP:202.253.96.233 削除依頼

麻紀は、涙を目に溜めながら樹を睨みつける。

「樹のっ、…ばあかっ!」

涙がぱたぱたと地面を濡らす。

麻紀はくるりと逆方向を向き、校舎へと戻っていく。

樹は、しばらくその場に立ち尽くしていた。



*



終礼が終わった。

ふう、と溜め息をついて七緒は席に座り直す。

「なあ七緒」

そう話し掛けてきたのは樹だった。

「俺、麻紀に嫌われたかもしんない」

「えっ」

びっくりして、思わず七緒は席から立ち上がった。

「なんでだよ」

「…あのな、」

樹はゆっくりとそのいきさつを話しはじめた。

話の軸は、例のテディベアだ。


「俺、麻紀を悲しませた」

「そうだな」

「最低だ…」

そう言ってしゃがみ込む樹を、七緒は黙って見つめていた。


しばらくの沈黙。


「…こうぜ」

「え?」

俯いた顔をあげて樹が七緒に聞き返した。

「麻紀ちゃんに、謝りにいけばいいだろ。行こうぜ、俺も行くよ」

NO.16 もみじこ 09/26(金) 20:32 IP:202.253.96.233 削除依頼


「…行くぜ」

七緒は樹をぐい、としゃがんだところから引っ張った。


妙な胸騒ぎ。

外履きに履き変えて、向こうの空を睨む。


そこには、どす黒い煙。


もくもくと立ち上って、秋晴れの空を汚していた。



ま さ か … ?



二人の心臓が同時に早鐘を鳴らし始めた。

人間の第六感は、怖い。

急いでそこへ向かう。

麻紀の家の近く。


正確に言うと、近くではなかった。


ちょうど、その場所だったから一

NO.17 09/26(金) 20:44 IP:118.16.3.244 削除依頼
初めましてー!

小説頑張ってください
ネクスト!

NO.18 もみじこ 09/26(金) 21:00 IP:202.253.96.233 削除依頼


>>茜サマ

ネクストありがとうございます!!

本当励みになります(;ω;)!!

がんばりますね☆+゜



NO.19 もみじこ 09/26(金) 21:11 IP:202.253.96.233 削除依頼


*

麻紀の家は炎で紅に染まっていた。


あたしは、呆然と立ち尽くす。

「莉子っ!?」

声のほうへ振り返ると、七緒と、麻紀のカレシ君がいた。

「な…なお」

「おまっ、なんで此処に…」

「ふ、普通にコンビニまで行こうとして…」

そしたら、と続けるつもりだったが、喉の奥から突き上げる何かに

言葉を発することを妨げられた。

「うわあ…っ」

七緒は、黙って泣き叫ぶあたしを見つめた。


しばらくして七緒はゆっくりと、こう言った。

「…莉子、

俺は樹のとこ行かなくちゃ」

そういえばカレシ君はいなくなっている。


そしてあたしは何を思ったのか、

「あたしも行く」

と口走ってしまった。

NO.20 もみじこ 09/26(金) 21:26 IP:202.253.96.233 削除依頼


なぜか、あたしの涙はすっとひいた。


燃え盛る紅蓮の炎と黒い煙の真ん前に、

樹くん(七緒に名前教えてもらったんだ)は真っ直ぐ立っていた。

樹くんの髪の毛が少し焼けて焦げ臭いにおいがたちこめる。

ああ、と思って彼に近寄ろうとした瞬間だ。


ご ろ ん、と鈍い音がした。



ふと下を向く。

そこに在ったのは、


人 の 片 腕 …。


この炎の中なのに全く焼けている形跡はなくて、

肩があったであろう部分からは白い骨と血で潤った肉が顔を覗かせている。

すぐにそこは血溜まりと化した。

腕には、見慣れたブレスレット。

麻紀、のだ…


「…まき?」


血溜まりをびしゃ、と踏みながら樹くんは腕に近づく。

彼の目からぼたぼたと大粒の涙が零れ落ちた。

NO.21 もみじこ 09/26(金) 21:40 IP:202.253.96.249 削除依頼


しばらくして、大きなサイレンを鳴らしながら

救急車と消防車が同時にやってきた。


炎の紅は消え、炭と化した家の黒が残る。

その中に、麻紀はいた。

誰だかわからないぐらい真っ黒だった。

というよりは、肉が見え隠れして赤黒かった。

髪の毛は焼け焦げて異臭を発していた。

勿論、綺麗に片腕はなかった。



麻紀は、死んだ。



そして、あたしは、それをなぜか素直に悲しめなかった…。



*



次の日、学校は黒かった。

雰囲気もそうだし、皆の服装もそうだった。

まるで、昨日の黒く潰れた麻紀の顔を象徴するかのように、あたしには見えた。

樹くんは、来なかった。


さすがの藍も、今日は悪口を言わなかった。

ただただ、沈黙を守っていた。



一なんでだろう、

あたしは、この感覚を

味 わ っ た こ と が あ る …


あたしは、葬式なんかに出るのは、初めてなのに…

NO.22 % リコ...* [URL] 09/26(金) 21:50 IP:202.177.72.228 削除依頼
next!

NO.23 もみじこ 09/26(金) 21:50 IP:202.253.96.225 削除依頼


「あたし、ちょっと腹痛いしトイレいってくる」



*



樹は、家にいた。


一麻紀が、死んだ。

信じられない。

信じられない。

信じ、られない…

「う…ッ」

涙がぼたぼたと部屋のカーペットに落ちては染み込んでゆく。

「麻紀ィ…っ」

涙は、止まることを知らない。

どうしたら止まるだろうか。



…あのベアか。



あのベアが、俺と麻紀を裂いた。

あれさえなければ…

実は、樹は麻紀とお揃いだと思って、もう一つベアをとってきたのだった。

愛くるしい表情。

今は、憎くてたまらない。


八つ裂きに、してやる…

NO.24 09/26(金) 21:52 IP:202.71.73.215 削除依頼
はやまるなぁぁぁぁ
ネク♪

NO.25 もみじこ 09/26(金) 21:53 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>% リコ...*サマ

ねくすとありがとうございます!!(^O^)/

頑張ります(・ω・)

NO.26 もみじこ 09/26(金) 21:54 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>苺サマ

樹はやまっちゃってますね〜←

ねくありがとうございます(・∀・)!!

NO.27 もみじこ 09/26(金) 22:05 IP:202.253.96.233 削除依頼


裁縫用の、鋏。

一度、しゃきん、と音を鳴らす。

いい音だ。


これなら、大丈夫。


手始めに耳を切り落とす。

…中々綺麗に切れる鋏だ。

プラスチック製の目玉を、えぐる。

顔を、真っ二つに裂く。

首を、少し端を残して切る。

胸から、縦に切れ目を入れて中綿を出す。

あとは、手足も切り落とす。


じっくり、やることで

怒りを押さえられる気がした。


案の定、怒りはある程度おさまった。


「樹ー、降りてきなさい」

階下から母の声。

「んー」

ゴミ袋に無造作に八つ裂きになったベアを放り込む。

樹は、階下へとパタパタと降りていった。


白いリボンが、ゴミ袋の中に入りきっていなかった。

NO.28 もみじこ 09/27(土) 09:52 IP:202.253.96.233 削除依頼


「あっ、莉子」

遅かったじゃん、というように藍があたしに駆け寄る。

「どした、顔色わるいよ?」

「…」

「ん?」


…あたし

藍のそばを離れて、

どこかに行ってたんだ?

そんなの、

知らない…よ?


「…莉子?」

気がつくと藍があたしの顔を覗き込んで、心配そうにしていた。

はっ、と現実に戻る。

「…ん?あ、ちょっと気分わるくて、さ」

こんなところで『あたしどこも行ってない』なんて言ったら、

ややこしいことになるから、やめておいた。


「そう。…じゃ集会はじまるし行こ」

「うん」

あたしと藍が体育館へ向かおうとしていたときだ。


「…藍、莉子!」


七緒が肩で呼吸をしながら、あたしたちに話し掛けてきたのだ。

NO.29 もみじこ 09/27(土) 10:10 IP:202.253.96.225 削除依頼


はあはあ、と七緒が呼吸を落ち着けようとしている。

「…いっ、樹みてねえ?」

樹?だれそれ?というような目で藍があたしを見る。

「樹くん…?見てないよ」

「そか。やっぱ…あいつ来てないのな」

大きな溜め息をついてから七緒は言った。

藍はあたしが何の反応も見せなかったので、

「ねえ、樹って誰?」

と七緒に直接尋ねた。

「あ?…麻紀ちゃんの彼氏だよ」

藍の顔は一瞬だけひきつったが、「そう…」と言って哀しい表情になった。


あたしの心は落ち着いていた。

至って、落ち着いていた。

世間一般の普通の人間なら、ここは心配するところだ。

なのに、あたしの心は風のない湖のように静かだった。


「七緒…」


後ろから、男子生徒の、声。

NO.30 もみじこ 09/27(土) 11:20 IP:202.253.96.249 削除依頼


「いっ、樹!」

樹くん、だ。

「おまっ、大丈夫なのかよ」

「うん」

とは言っていたものの、樹くんの顔は真っ白だった。

血の気は、ない。

「…さっき、麻紀のお母さんから電話あってさ。麻紀見送ってくれないか、って」

樹くんの口調は、死んでいた。

「…そうか」

「…」

あたしと藍は、その会話を静かに聞いていた。

藍は、すごく申し訳なさそうな顔をして、樹くんを見ていた。


心から、悲しめない自分。

あたしだって、悲しいよ。

悲しい。

悲しい。

なのに…



「…おう、じゃみんな行くぞ」

七緒の一言。

あたしは、一体何を思っているんだろう。

わからない。

NO.31 もみじこ 09/27(土) 11:57 IP:202.253.96.249 削除依頼


*

学校での、真っ黒な集会は終わった。

あとは、明日の葬式。

樹は、深い深い溜め息をつく。


泣きすぎて、涙は枯れてしまった。

麻紀のために、泣きたいのに…


家のドアノブを回す。

「…ただいま」

家はしん、としている。

玄関には母のスリッパが無造作に脱ぎ捨てられていた。

「母さん?いないの?」

沈黙。

ふっ、と短い溜め息をつく。

いないらしい。

麻紀のお母さんでも訪ねにいったのかな…

スニーカーを脱ぎ、玄関をあがる。


階段を上る。


いや、上ろうとした。


そこには、


バラバラになったテディベア。


背筋に悪寒が走る。

誰だよ、こんなとこに置いた奴…

樹は、自分は関係ないとでも言うように階段をのぼっていく。


不意に、

後ろからの視線。


ばっ、と振り返ると

プラスチック製のベアの目玉がこちらを向いていた。

目玉の中に歪んだ自分が映る。

静かに、こちらを捉えている。

NO.32 もみじこ 09/27(土) 12:17 IP:202.253.96.249 削除依頼


「…んだよ」

樹はそう呟いて、ベアの残骸を拾い始めた。

部屋のドアを開けて、残骸をゴミ袋にぽん、と投げ入れる。

気味がわるいので、しっかり口を結んでおいた。


ベッドへダイブする。

枕に顔を置くと、濡れたような感触があった。

昨日の涙が乾いていないようだ。

顔をあげる。

と、その目線の先には麻紀との写真。

ついこの間、遊園地に行った時のものだ。

少し、写真立てが歪んでいる。

ベッドから起き上がり、それを直す。


幸せそうに微笑み、写真に写る二人。


「ごめんな。」

ぽつ、と呟く。

麻紀が死んだのは、俺のせい。

やっぱり、俺が麻紀を殺した。

俺が…

…。


ベッドへ、もう一度倒れ込もうとした。

目に入ったのは、



白いリボン。



やべ、こいつも捨てないと…


NO.33 もみじこ 09/27(土) 12:48 IP:202.253.96.233 削除依頼


「う…っ」

正確に言うと、『白く』なかった。

赤黒い血が、所々染み込んでいる。

気持ちわりい、と樹は嫌な顔をする。

これを、捨てなくては。


指先でリボンを摘む。

そして不意に自分の視界に入った文字は、



『24.09.09』



えっ、と思った瞬間には、自分の指にリボンはなかった。

ひらひらとゴミ袋の中に舞い落ちる。



コンコン…



部屋の、ドアがノックされる。

母…さん?


何、と返事をしようかと思っ


ぎゃあっ


悲鳴が、あがった。

NO.34 もみじこ 09/27(土) 13:21 IP:202.253.96.249 削除依頼


プルルルルル…

「おっかしーな…」

樹のことを心配していた七緒は、樹の家に先程から何回も電話をかけていた。

大丈夫か、と様子を聞くためだった。

ガチャ、と繋がらない電話を切って、玄関へ向かう。

奥から妹の香綾(かあや)がでてきた。

「にーちゃんどこいくの」

「ん…、ちょっと友達の家行ってくる。母さんにも言っておいて」

「うんっ…」

なんか差し入れでも持っていくか、と七緒はコンビニに寄ることにした。



「あ、七緒」

「藍」

コンビニに七緒が入ろうとしたときだ。

「何買いにきたの」

「ん、樹のお見舞いに美味いものでも」

「…そう」

藍は少し俯いた。

「てか、今からあんたの家行こうとしてたんだけど」

「え?」

「だって香綾ちゃん今日誕生日じゃん」

「あっ」

一忘れてた。

だから友達の家に行くって言ったときに微妙な返事をしたのか…。


「可愛いテディベア見つけたんだってー」


テディベア…。

七緒は何故か寒気が、した。

「…じゃ俺買い物しなきゃ」

さりげなく藍を振ったが、

「え、あたしもお見舞いなら行きたい…」

と藍は少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら言った。

NO.35 もみじこ 09/27(土) 15:10 IP:202.253.96.249 削除依頼


樹の家のほうへ歩く二人。

夕焼けの空に、カラスが群れで飛んでいた。

紅の空を黒い斑点が汚しているようだ。


樹の家の前。


「ねえ、なんか臭くない?」

藍が鼻をこすりながら言う。

「だな。なんの臭いだろう」


ピンポーン


樹の家のチャイムを鳴らす。

返事は、ない。

「樹ー?」

呼んでみる。

もちろん返事は、ない。

ドアノブをひねってみる。

鍵は掛かっていなかった。

「入るぞー?」


ドアを開けた瞬間、

「ぐっ…」

鼻をつままずにはいられないほどの、異臭。

生臭い。

嫌な、予感。

「樹ー、いるのか?」

七緒はさっきより大きな声で樹の名前を呼ぶ。


二人は、鼻をおさえながら樹を探した。

一階には、嫌な臭いだけしかしなかった。

「二階、探してみよ」

藍が小さく震えた声で言った。

NO.36 もみじこ 09/27(土) 16:32 IP:202.253.96.233 削除依頼


とんとん、と一段ずつ階段をのぼる。

上に行くに連れて、異臭はひどくなる。

目もあけていられない。


目をつむって樹の部屋のドアノブに手をかける。


ガチャ…



一歩足を踏み入れる。

足の裏が、水を感じる。

水…じゃない?

下を向いたまま目をそっと開ける。


…血。


顔を、ゆっくりとあげる。


一そこは、『死』の部屋だった。


血塗られていた。

…いや、血塗られていたといったらソフトになるかもしれない。

血が部屋中飛び散り流れ落ち、壁についた細かい肉片は今にも落ちてきそうだ。

壁の血のせいで、すべての物が紅く見える。


言葉が、でない。


そして、次に目に入ったのは、ゴミ袋。

大きいのと、小さいのが綺麗にならんで置いてある。

小さいほうには、テディベアの残骸。

そして大きいほうには、



「…樹?」

NO.37 もみじこ 09/27(土) 16:44 IP:202.253.96.233 削除依頼


赤い、

紅い、

朱い、

ゴミ袋。


中身は、見えない。

ゴミ袋からは、血と何か別のものの臭いがする。

猛烈な臭い。

「うッ…」

七緒は、血塗れになった足で、ゴミ袋に近づいていく。

パンパンになった袋は、固く縛られていた。

開くまでに、少し時間がかかった。


―開いた。


ぽてん、と何かが袋から零れ落ちる。


眼球


だった。


袋の口を大きく開けて中身を確かめる。

「うっ…!」

そこにあったのは、


首。


生首。


いや、

首『だった』もの。


眼球は、両方とも、ない。

耳も、ない。

そして、顔全体は真っ二つに切り裂かれ、赤い肉の間から白い骨が見える。

それが全部、血で彩られて、いた。


樹の顔『だった』、ものに間違いない―

NO.38 09/27(土) 16:50 IP:118.16.3.244 削除依頼
きゃあああ樹ぃぃぃぃぃ!!

ネクスト…

NO.39 もみじこ 09/27(土) 17:08 IP:202.253.96.233 削除依頼


>>茜サマ

いつきやられちゃいましたね…(∀)←

ねくありがとうございます!!

NO.40 もみじこ 09/27(土) 17:21 IP:202.253.96.249 削除依頼


*


「七…緒?」

藍は、部屋の入口で突っ立っていた。

口が震えて、そのあとの『どうしたの?』という言葉が続かなかったようだ。


七緒は、ふと空を見つめてから、ずるりとその場に座り込んだ。

七緒の白い靴下は赤黒く染まり、制服のズボンにも血が撥ねている。


部屋の前に立ち尽くす、藍。

ゴミ袋の隣でがっくりと肩を落とす、七緒。

そして、

ゴミ袋の中の、樹くん。


後ろに気配を感じたのか、藍が後ろを振り返ってきた。

「莉…子?」

その声に反応した七緒も、あたしのほうを向いた。

「おまっ、なん…で」

「藍と七緒がここ入ってくの見えたから、なんかあったのか、なあ…って」



「…」



冷たくて、重たい沈黙が続いた。

藍は、あたしの前でぽろぽろと涙を流していた。

麻紀、そして樹くんに、懺悔するかのように。


あたしは、また悲しめない。

あたしの、心はどこかで分断されているようだ。

NO.41 もみじこ 09/27(土) 17:39 IP:202.253.96.225 削除依頼


藍が樹くんの家から警察に通報した。

「…救急車?あ…要らないと思います」


しばらくすると、サイレンの音がしてから、人の声がし始めた。


「うわあ…こりゃ酷いな」

二階にあがってきた、いかにも『刑事長』みたいな人が唸った。

そして、ぱっとあたしたちの方を振り返った。

「君達が第一発見者ということでいいね」

あたしたちは一斉にびくっとした。

そして、

「はい…」

と俯き加減に七緒が答えた。

『刑事長』は名刺を三枚あたしたちに突き出して、

「わたくし、飯塚(いいづか)と申します。これから話きいてくんで、ねっ」

と威厳たっぷりの声で言った。


しばらくすると、『現場検証だ』と言って、

あたしたち三人は家から追い出されてしまった。

樹くんの家をでると、一人の女の人が絶叫しながら泣いていた。

ああ、あの人が樹くんのお母さんなんだ―


そしてあたしたちは、パトカーに乗せられた。

NO.42 もみじこ 09/27(土) 19:08 IP:202.253.96.233 削除依頼


まるまる二時間尋問を受けた。

返り血がついていないということで、犯人の疑いはかけられなかった。


夕焼けはすっかり闇に押し潰されて、点々と星が煌めいていた。

開放された嬉しさを、重たい事実が押し潰す。


樹も、死んだ。

死んで、しまった。

酷い、殺し方をされて。



「…」



重く冷たい沈黙が続く。


「あっ、」

不意に、藍が声を出す。

「どしたの」

あたしが聞く。

「香綾ちゃんにプレゼント渡せなかった…」

「あ」

あたしと七緒が間抜けた声でハモった。

そうか、今日は誕生日だったんだ…。

「貸して。渡しとく」

七緒がほら、というように手を藍へ出す。

「え、そう」

ありがと、と言って藍は紙袋を七緒に渡した。

「何入ってんの?」

あたしが聞くと、

「ん、テディベアだよ」

藍は少しだけ笑った口をして答えた。


…。


ほんの少しだけ、あたしの血が騒いだ。

NO.43 茜** [MAIL] 09/27(土) 22:22 IP:118.108.26.149 削除依頼
めっっっちゃ怖いですね!!!!!!!
ハマりました!常連になりますね(´X゜人)**

ねく&あげ★

更新頑張って下さい*+

NO.44 もみじこ 09/28(日) 11:37 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>茜**サマ

あああああありがとうございます!!←

常連とか…+゜笑

ねくあげありがとうございます!!

レスおくれてすみません;;

NO.45 もみじこ 09/28(日) 12:54 IP:202.253.96.249 削除依頼


あたしたちはそれぞれの家に戻った。

あたしは、両親に気付かれないように自分の部屋に入ろうとした。

今は、『遅い!』とかいうことで怒られたくなかったのだ。


音を立てないように、静かに自分の部屋のドアノブを回す。

ゆっくりと、戸を開ける。

そして、そこにあったのは、



血塗れの、チェーンソー。



まるで、元からあったかのような顔をして、部屋の床の中心を飾っている。

「…………え?」

チェーンソーに付いた血は、生乾きのような状態で、
窓から入ってくる月の光りを受けて不気味に輝いていた。


状況を、飲み込めない。


焦りはあったが、何故か『どうにかしなくちゃ』という気持ちは湧かなかった。

あたしは部屋の電気を点け、勉強机の前の椅子にゆっくりと座る。


ケラケラ笑い出したい衝動に駆られる。


―はっ、と気付いた。

あたしは、一体誰なんだろう?

NO.46 もみじこ 09/28(日) 13:09 IP:202.253.96.249 削除依頼


☆+゜テスト勉強しないとアレなので←

更新ゆっくりになります;;

読んで下さっている方、いらっしゃったのなら本当申し訳ないです(・ω・`;)

その間あげてくださると感謝感激雨嵐でもみじこは泣きます←

本当すみません!

NO.47 もみじこ 09/29(月) 06:07 IP:202.253.96.233 削除依頼


おはようございます(∀)早

ゆっくり更新してきます(・ω・)







一週間ほどすると、学校も生徒も少しは落ち着いて来た。

まだ、学校に来れていない人もたくさんいるけれど。

あたしたちのクラスは麻紀がいたクラスだから、

やはり周りのクラスより人は少ない。

でも、樹くんのいた5組はもっと少ないんだろうな…

窓から澄み切った秋晴れの空を眺めながらそう思っていると、

「おはよっ、莉子」

「藍」

「どしたの。最近なんか一人で早く行くからさ」

「んー、ちょっといっぱい考え事」

あたしがへへ、と笑いながら言うと、

「おっ?もしや、ラブの予感?」

藍がにやけながら茶化してきた。

も〜、何言ってんの藍!、と二人で笑っていると、

「げっ、莉子に好かれるなんて、被害者はどこだ、被害者」

後ろから七緒の声。

「…ほんとだ。あたしに好かれるなんて何てかわいそうな…」

「そうそう」

「七緒、消えてなくなりたい?」

ノリツッコミしてから軽く脅すと、七緒は小さくなって『スミマセン…』と呟いた。


前の生活が、戻ってきそうな予感が、ほんの少しだけしそうだ。


あたしはそう一瞬だけ思ったが、

次の七緒の言葉で、それが無理なことを悟った。


「藍、そーいやさ、香綾あのベア気に入ってたわ。でもな、」


NO.48 もみじこ 09/29(月) 14:12 IP:202.253.96.249 削除依頼


「川落としちゃったんみたいでさ…」

「えっ」

「なんかお気に入りすぎて持って歩いて回ってたみたいなんだよ」

藍は喜んでいいのか、悲しんでいいのか分からなかったようだ。

そして複雑そうなな顔をして、「そっか…」と呟いた。

「本ッ当ごめん。香綾にも後から謝らせるわ」

頭を下げながら両手頭の前でをぱん、と言わせ謝る七緒。

「んーん…」

藍は、そう言うしかなかったようだった。



*



家につく。

藍は、部屋の戸をおもむろに閉め、もたれかかった。

深い深い、溜息。

折角頑張って可愛いの探したのになあ。

やっぱり四歳の女の子には、そんな大きいもの渡すべきじゃなかったかもしれない。

藍は十四歳になったばっかりの頭で考えた。


視線を机の上のノートから本棚に移す。

そこには、香綾とお揃いの、テディベア。

「…」

愛くるしい表情でこちらを眺めている。

「…これ、香綾ちゃんに渡したほうがいいのかな」

独り言が誰もいない部屋に、ぽつんと響く。

でも、これは自分が気に入って買ったもの。

人には、渡したくない。

NO.49 もみじこ 09/29(月) 14:35 IP:202.253.96.249 削除依頼


♪〜

玄関のチャイムが鳴った。

でも、お父さんもお母さんも兄ちゃん達も居ない。

「面倒臭いなあ」

藍は階段を降りながら玄関へ向かう。

ノブを回す。

ドアを、開けた。


「…あ、藍ちゃん…」


息を切らしながら藍の名前を呼ぶ女性。

「お、おばさん?どうしたんですか」

そこに立っていたのは、七緒のお母さん。

「うちの香綾みてないかしら…?」

「香綾ちゃん…ですか」

学校が終わってから家にこもっていた藍にわかる筈はない。

首を横に振る。

「そうなの…有難うね」

七緒の母は軽く礼をし、くるりと背中を向けた。

「あっ、あのっ」

藍は少し大きめの声を飛ばす。

「あたしも、探すの手伝います」


藍が外に出る。

鉛色の空から降る大粒の雨が、地面に小さな染みを作っていた。



雨は、しばらく経たないうちに視界を遮るほどまで強く、激しく降ってくる。

NO.50 もみじこ 09/29(月) 14:56 IP:202.253.96.249 削除依頼


『バケツをひっくり返したような雨』とはまさにこのことだ。

目の前が、白い。

何も、見えない。

藍の制服は濡れすぎて色が変わってきている。

傘をさしている意味がほとんどない。

「香綾ちゃん!」

しばらく捜していたが、なかなか見つからない。

藍のスニーカーはぐちゃぐちゃに濡れ、靴下まで水が完全に染みていた。

秋の風は濡れた体から容赦なく体温を奪う。


「香綾ちゃん!」

何度も名前を呼ぶ。



すると、



「………ね………ちゃ……!!!」



遠くから、声。

小さい女の子の、声。


はっ、と目を見開く藍。


「かあや…ちゃん?」


傘を捨てて声がしたと思われる方向に走る。

何も見えないけれど、走る。

冷たい雨を全身に受けて、走る。

走る。

走る。



そしてそこにあったのは、

川。

NO.51 もみじこ 09/29(月) 16:46 IP:202.253.96.233 削除依頼


濁流。

ものすごい量の、泥水。

それが、目にも留まらぬ勢いで流れていく。


「香綾ちゃん!!」

藍は自分の出せる最大の声で叫んだ。

しかし、それは雨と濁流の凄まじい音に掻き消されてしまった。


下流の方向を確認する。


そこには…



手。



手、というよりは腕だ。

濁流にのって流れていく。


「…かあやちゃんッ!!!!」


半泣きで絶叫する藍。


「あああああああああああああああああッッ!!!」


訳の解らない言葉で叫び、濁流の中に身を投げようとする。

藍は身を乗り出す。

途端、

「!」

手首を、掴まれた。


「お前、死にたいのかよ!」

「な…なお…」

「お前まで…」

そういって藍の手を取った七緒はびしょ濡れで、氷のように冷たかった。

少し茶色い前髪から水が滴り落ちている。

顔も濡れていて、目元から流れる水は、雨か涙だかわからない。


七緒は、握る手の力を強くする。

「お前まで、死ぬなよ…」

NO.52 もみじこ 09/29(月) 17:18 IP:202.253.96.233 削除依頼


―藍は、叫んだ。

喉が潰れてしまうのでは、という程叫んだ。

遂には、声が出なくなった。

それでも、叫んだ。

全て、雨に掻き消されてしまったけれど。

見殺しにした、罪悪感。

罪悪感。

罪悪感。

ただ、その感情だけで叫び続けた。


七緒は、そんな藍の横で、死んだ目をして遠い場所を眺めて、いた。


やがて重たく垂れ込んでいた雨雲は、紅がかった青空へと戻っていった。


虹が、でていた。







数時間後、桜井香綾は、

家から1km以上離れた川の淵で発見された。


そして、その100m程手前では、ずぶ濡れになったテディベア。

そのリボンには、



『05.10.09』



と剥げかかった字で、印されていた。

NO.53 もみじこ 09/29(月) 20:51 IP:202.253.96.249 削除依頼


*


今日は藍も七緒も居ない。

どうしたんだろう。


先生が教室にやってくる。

「先生ー、内藤と桜井どしたんですか」

「…ああ、内藤は風邪ひいたらしいなー」

「桜井は?」

「桜井…は忌引だぞ」

「きびき…?」

「相模、お前忌引の意味もわからんのか」

まったくお前は、といった感じで、先生は言った。

いや、分かりますと返してからあたしは、

「誰が、亡くなったんですか」

と静かに聞いた。

先生はうーん、と少しだけ唸ってから、

「今朝、新聞みなかったのか」

と言った。

今朝は両親がいなかった上、

遅刻ぎりぎりで学校に来たので新聞はおろか、ニュースすら見ていない。

しかも、二人から連絡も入っていない。

ニュースになるような死に方をしたんだ、と思って、

「見てないです。ニュースも見てないです」

と呟くと、先生はふっ、と短く溜息をついた。

「妹さんらしい。昨日の大雨のせいで、」

「…?」

「…大雨で水かさの増した川の流れに飲み込まれたらしいんだよ」



…。



…嘘?


何も、考えられなくなった。

目頭が熱くなり、かけた。

でも、…ひいていった。


「そう、ですか」

先生は首を縦に振ってから、何時ものように振る舞いはじめた。

NO.54 もみじこ 09/29(月) 21:53 IP:202.253.96.233 削除依頼


*

内藤家の、ある部屋の、ベッドの中。

藍は、気付いてしまった。

気がついては、いけないことに。

…でも、なんで気付かなかったのだろう。

こんなたくさんヒントは隠されて、

いや、

『気付いてくれ』

と言わんばかりに散りばめられていたのに。



―あの白いリボンをしたテディベアを持った者は、死ぬ。



どうあっても、死ぬ。



テディベアを処理した方法で、自分が処理される。



樹くんは、たぶん自分でテディベアをバラバラにしたのだろう。

そのため、自分もバラバラにされた。


はっ、と気がつく。

麻紀も、テディベアを、持っていた―

理由が何かは知らないけれど、燃やされたんだ。


すると、その二つの事件の前に隣町で起こった事件の女の子は、

きっとそのままベアを捨てたんだ。



恐ろしい程、全部綺麗につじつまが合った。

と、いうことは、だ。


あたしも、死ぬ。

死んで、しまう。

藍はそうゆっくりと悟った。


『お前まで、死ぬなよ…』


七緒の真剣な目が、思い出された。

NO.55 もみじこ 09/29(月) 22:11 IP:202.253.96.233 削除依頼



藍は、テディベアを持ち上げて、その目をじいっと見る。


吸い込まれそうな、透き通った茶色いプラスチック製の目玉。

ふわふわの毛。

首元に結ばれた白いサテン地のリボン。


この縫いぐるみを憎む要素は、見当たらない。


愛くるしい。

愛おしい。

愛でたい。


…でも、あたしは、こいつのせいで、やがて死ぬ。

藍はそう強く思う。

強く。


こいつが、あたしを殺す。

殺すん、だ。

殺られるまえにやる、とよくいうが、今はそれすら叶わない。

このベアに残虐なことをすればするほど、自分が痛い思いをするだけだ。


因果応報。


果報は寝て待て。

―いや、『訃報』は寝て待て、の間違いかもしれない。



藍には何をどうすることもできない。


ぼと、と鈍い音がしてベアが床に落ちる。


途端、

下の階から電話の音。

「くしゅっ」

くしゃみをして下の階へ藍は降りる。

受話器をとる。

『―もしもし藍?風邪って聞いたけど大丈夫!?』

莉子、だ。

NO.56 もみじこ 09/30(火) 12:54 IP:202.253.96.249 削除依頼


*


「今日、ふたりともいなくて寂しかったんだよ…」

あたしは耳に受話器をもう少し近づけて、ぼそっと呟いた。

『ごめ…くしゅっ』

電話を通じて藍のくしゃみが聞こえる。

「…ほんと、気つけてよね」

『うん』

そして、気になっていたことを直接聞いた。

「…どうしたの」

『え』

「香綾ちゃん、どうして死んじゃったの…」

『…』

藍は黙って、いる。

何か知っているかもしれない。


電話越しの、気まずい沈黙。


『…ていうか、昨日なんで家いなかったの』


「え…」

『七緒のお母さん、絶対莉子の家いってるはずだよ』

「昨日の、いつ」

『学校終わってしばらくしてからだから…五時ぐらいかな』

「…」


…あれ、

記憶が、

ない。


何してたっけ。

何してたっけ。

思い出せ。

学校から帰ってきてから、あたしは何してたんだろう?

六時半から見たいテレビがあったために

夕食を六時ちょっと前に食べたのは前覚えている。


でも、その前は、



あたしは、なにをしていたんだろう



『…莉子?もしもし?』

NO.57 もみじこ 09/30(火) 14:14 IP:219.160.198.99 削除依頼

久しぶりにPCから投稿です(・∀・)

では、どうぞ*





『もしもし?』

「…」

あたしは、返事を返せない。

ごめん、此処いってたんだ、と言い訳できない。

そして、ようやくでた言葉は、


「ごめん、あたし多分そんとき本屋行って立ち読みしてたわ」


藍はそれを聞いから数秒置いて『ふーん…』と言った。

そして、

『雨ひどかったよね』

と聞いてきた。


―あたしは、

それすらも、

知らない。


どうして…?


「…だったよねー、あたし漫画よみながら、うわ雨すごーとか思ってさあ」

無論、嘘。


「あんな雨遭ったりとかしちゃったら…」

『…』

藍は、黙った。

しばらく、黙った。


…しまった。

あたしは、悟った。

藍が風邪をひいたのは、香綾ちゃんを必死で雨の中探していたからなんだ…


途端に、罪悪感がこみあげてきた。

誰に対するもの、とはないけれど。

NO.58 もみじこ 09/30(火) 14:35 IP:219.160.198.99 削除依頼



「…………、ごめ、ん」

『…』

藍はまだ黙っている。


気分を悪くするような、沈黙。

あたしは思わず吐きそうになった。


「お、お大事に。明日、学校来てね」

様子を窺うようにしてあたしが言った。

「ねっ」

『………うん』


ぶちっ、と電話が切れる。

決まった音程、決まった長さの低さのツーツー、と言う音が鼓膜を震わす。

「…」



―やっぱり、

そうなんだ。

麻紀のときから、気づいていたけれど、

あたしは、何か変だ。

記憶が飛ぶだなんて。


そう思って、

あたしは一つの結論を出した。



あたしのどこかに、


『あたし』がいる。


どこにいるかは、わからない。

でも、存在する。

実在するかは、わからない。

でも、ここに、在る。


と、いうことを。



NO.59 もみじこ 09/30(火) 14:48 IP:219.160.198.99 削除依頼


自分でもこんな気持ちの悪い結論がでたことに驚いている。

いわゆる、


二重人格


というやつ、か。

しかも、自覚症状なし。

恐ろしい。

恐ろしいことこの上ない。


でも、多分そうだ。

だから、藍の家に直接訪問せずに、電話をかけた。

藍の家に行こうと思ったら玄関をでて十秒足らずで着くのに。


―電話なら、理性を保てる。

そんな、気がして。


よく分からないが、笑えてきた。

「ははは……」

目の前が、霞んで、ぐにゃりと歪む。

「ははははははははは…………」

頬を、生暖かい涙が次々と伝う。

止まらない。

止まらない。


「あはははははははははははははははッ!!!」


電話機の前に膝を落として、涙も落として、笑う。

永遠に笑っていられる。



と、思った。



いきなり、胸の中に黒いものがざあっと浮かんできた。

真っ黒に、染めていく。

笑って、透明になったあたしの心を、染めていく。

ものすごい、勢いで。



それは、



―罰への、恐怖。


笑い声は、どす黒い叫びに、変わる。


NO.60 もみじこ 09/30(火) 14:57 IP:219.160.198.99 削除依頼



「あ、あ………」

涙が、自分自身でもびっくりするほど、ぴたりと止んだ。

「ああ……」


黒。

黒、が渦巻く。

嵐のようにやってきた、黒が、心を掻き乱す。

お前は、今から罰せられなければならない、と。


そうだ、



―あたしは、殺人を犯したんだ



しかも、何人も。

何人だったっけ…、

4人、か。


あたしのこの手は、

4つの尊い命を一瞬にして、

しかも残虐な方法で、

奪ってしまった。


掌を、じっと見つめる。


―なんて、穢れた、手。



気持ち悪い。

きもち、わるい。


あたしはのっそりと立ち上がって、

台所へ向かう。

ふらふら、とした覚束無い足取りで。

冷蔵庫にとん、とぶつかる。

そして水道の下のところに、ゆっくりとしゃがみこむ。


取り出すものはなにかって?

決まってる。


包丁。




NO.61 もみじこ 09/30(火) 15:06 IP:219.160.198.99 削除依頼


手を取ってに掛ける。

ぼん、と音がして小さな扉が開く。

ずらりと並ぶ包丁。

どれにしようかな、と思う。


こんな場面のくせに、『どれにしようかな』をしようとしている自分がいる。

これは、『あたし』、か。

少し迷った上、あたしは普通の包丁にすることに決めた。


あたしは、これ以上人を、殺したくない。

だから、死ぬ。


もし、七緒や、藍を自分が手にかけると思うと、

恐ろしくて背筋が凍る。

そんなのは、絶対嫌だ。

それを避けるために、あたしは、殺す。



―自分、を。



「…………っ」

最初からどん、と腹を刺して死のうかと思ったけど、やはりそれには抵抗がある。

だめだ、あたしは弱い。

『あたし』に屈しないようになろうと、思ったのに。


無理、だ。


「ああああああああああああ!!」


分けも分からず叫び、包丁を振り回す。

シンクにあたって嫌な金属音が立つ。


包丁が、空を切る音は、叫び声にかき消される。


「ああああああああああああああああああああああッ!!!」



そして、

後ろに、

気配。



「―なに、してんの?」

NO.62 もみじこ 09/30(火) 15:22 IP:202.253.96.233 削除依頼


携帯に戻ります(^^)/

引き続きお楽しみください+゜

物語も終盤です(∀)!



*



「!」

振り返ると、


―七緒。


「なにしてんだよ、莉子」

「な、七緒…」

涙が、再び溢れてくる。

熱い、涙。

さっきの、哀しい涙なんかとは、違う。


「…ごめん!ほ、ほんと、あたし、じ、自殺するとこだ、った…」

「…なに謝ってんだよ」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめ…」

涙が、止まらない。

止まらない。

とうとうあたしは顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫び始めた。



隣まで聞こえるような叫び。

生命の、叫び。

やっぱり、

あたしは、

死にたく、ない…!



暫く泣いて、いた。

あたしは大きくしゃくり上げていたが、さっきよりは落ち着いた。


そして、七緒は言ったのだ。


「…で?」


「…は?」

あたしは訳も解らずに間抜けな声で七緒に、聞く。



「死ぬんでしょ?やってよ、続き」

NO.63 瑠璃。 09/30(火) 15:41 IP:220.96.69.244 削除依頼
 
 
うわをわわわわああああああああ( ゜Д゜) ←
 
  
読みやすい&面白い小説来たあああああ( ゜Д゜)
 
 
ネクネクネクネクネクネクネクですっ!!!!!!

NO.64 もみじこ 09/30(火) 16:54 IP:202.253.96.233 削除依頼


>>瑠璃。サマ

お、お褒めのことばをこんなにも…!(゜∀゜)

ねくありがとうございます!!

もう少しで終わりますが見てやってください(^^)/+゜

NO.65 もみじこ 09/30(火) 17:11 IP:202.253.96.249 削除依頼



――は?



今、

七緒は、

なんて、

言った、の…?


理解が、できない。

七緒は、微笑を浮かべている。

そして、包丁をもったあたしの手を指でゆっくりと撫ぜる。


冷たい…?


あたしは俯かせていた顔をゆっくりと上げて、七緒と目を合わせた。

死んでいる。

目が、死んでいる。

だが、その奥には、鈍い光り。

鈍いが、あたしのどこかを射抜くかのように、鋭い。


あたしの胸の中に湧いてきた感情は、


恐怖。


それ以外の何者でも、ない。



そしてあたしは震える喉で、尋ねた。

「今、七緒、なん、て…?」


きょとんとした顔。

そして、七緒は、あははと笑った。

「言っただろ。死にたいなら、やればいいじゃん、自殺」

そして、続けた。

「まあ俺は少し困るんだけどね、計画狂うし」


―やっべ、俺テストで30点とっちゃったよ。


…そういうような事を言うような口調で七緒はさらさらと話す。

微笑を、浮かべながら。



この人は、誰……?

NO.66 瑠璃。 09/30(火) 17:47 IP:220.96.69.244 削除依頼
 
ネクネクネーーーェェック( ゜Д゜)!!

ファンですファン!

NO.67 もみじこ 09/30(火) 17:47 IP:202.253.96.249 削除依頼


「あーそういや本当莉子さんきゅーな」

七緒はにっこり笑って言う。



意味が、わからない。

あたしは何故か、感謝されている。

どうして…?


何がなんだか理解できない。

あたしの目の前でにこにこしている、この人は誰?

あたしの知っている七緒じゃ…ない。

あたしの、知っている。

昔っから、知っている…



むかし…?



「ねえねえ」

七緒、が無邪気な声であたしを呼んでくる。

「いいこと教えてあげよっか」

「…は?」

「多分、今莉子が一番知りたいことだと思う」


なんだ、こいつは?

全く、読めない。


一度顔を俯ける七緒。

ごくっ、と唾をのむ音がする。

ゆっくりと、顔を上げた。



「俺は、『あたし』なんだよ」



そう言って上げた七緒の顔は、


喜びで、歪んでいた。


してやったり、といった顔。

恐ろしい。

おぞましい。

今にもにやついた口元から舌がぺろりと出て来て、舌なめずりをしそうな、顔。


悪寒。


鳥肌が、音を立ててたった気が、した。

NO.68 もみじこ 09/30(火) 17:53 IP:202.253.96.233 削除依頼


>>瑠璃。サマ

に、二回つづけてねくして下さるなんて…!!

もう大感謝です!!(TT)/(嬉涙

しかもファンだなんて…w←

ほんとありがとうございます!!

NO.69 もみじこ 09/30(火) 18:25 IP:202.253.96.249 削除依頼



―謎。

こいつは、謎だ。

今の発言で、また謎。


謎。


遠い目をする。

するとそれに気がついたのか七緒、は

「わかんないふりしてんだろ」

と、にやついた顔であたしの顔を覗いてくる。

そしてわかんないふりしてても無駄なんだけど、と軽く言った。

こいつは、



『あたし』



が、

何だと いった?

というか、なんで『あたし』を知ってるんだろう?


「なあ」


七緒の顔が、近い。

鼻と鼻があと少しでくっつきそうだ。

あたしは、顔をしかめる。

すると、にやついた口元がさらに上がる。


「言ってあげるよ」


ケラケラと目の前で笑う。

七緒、の瞳孔は開ききっていた。



「俺ねえ、お前の精神乗っとってたんだよね」



―精神を

のっとる?

なにいってんだ、

この目の前の人間は。


人間を超越した発言。


『この人は、誰だ』

ではなくて、

『これは、何だ』

の、間違いなのかもしれない―

NO.70 もみじこ 10/01(水) 14:41 IP:202.253.96.249 削除依頼



訳もわからず、涙。

「い…や」

訳もわからず、首をふらりと横に振る。

ぱたり、と床に涙が落ちる。


「嫌、じゃないってば」


床についてあるあたしの手に七緒、は自身の手を重ねる。


途端、怒りが込み上げて来た。

あたしの唇がわなわなと震える。

「……………ない…っ」

「は?」

半笑いで聞き返してくる七緒、。



「あんたは…っ、あたしの知ってる七緒じゃないッ!!」



目の前の七緒、の鼓膜をつんざくような馬鹿でかい声であたしは怒鳴った。

すると、


「…」


きょとん、とした顔で黙られた。

そして少し間をおいてから七緒、は、「はははっ…」とあたしを可哀相な目で見ながら笑った。


―嗤われ、た。


あたしの怒りを逆撫でするかのように。


肩で息をする。

そんなあたしを、目の前の人間は馬鹿にして笑ってくる。

挑発に乗らないようにして、あたしは尋ねた。

「…何が可笑しいんだよ」

笑いながら七緒、は口を開いた。

「何がって」

そしてこう続けた。



「―だって聞くけどさあ、七緒って誰」



…誰って―

どういう、意味…?

NO.71 もみじこ 10/01(水) 15:04 IP:202.253.96.233 削除依頼


七緒は、昔っからの幼なじみだ。

そう、昔からの。

ちなみに藍はあたしたちが小学一年のときにあたしの家の隣に引っ越して来た。



――『莉子!よかったわねえ〜!女の子が来たなんて。初めてじゃないの』

そうそう、初めてご近所に同い年の子が来て凄く嬉しかったんだよなあ…



…。


―はじめて。


はじ、めて………?


藍が初めてなのは、確かだ。


でも、そうしたら



―七緒はいつきた、の…?



いや、桜井家はあたしが物心ついたころには確かにあった。

凄く綺麗な家だったから、印象深い。



ということは―


どういうこと?


論理的に、明らかに、

おかしい。



…。



―「『わカッた?』」



突然、不快な声。

ばっ、と前を見る。

―目の前の七緒、と『あたし』が共鳴して喋っている…?

脳髄に直接響く音。

吐きそうに、なる。


「『コたえハ、ヒトつだよ』」


視界が歪む。

ぐらぐら、する。



「―桜井七緒という人間は、この世に存在しない」



こう吐き捨てて、目の前の人間は満足そうににやり、とわらった。

NO.72 魁姫 10/01(水) 15:09 IP:61.86.22.53 削除依頼
うっわぁwww何か来てない間にこぉんなにぃ・・・
進んでるぅぅぅ!頑張って下さいね♪

NO.73 もみじこ 10/01(水) 15:14 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>魁姫サマ

なんか進んじゃいました(・∀・)←

あげありがとうございますー!!

NO.74 メビウス 10/01(水) 15:47 IP:60.32.134.86 削除依頼
どうも、はじめまして!
グロいですね!こういうの好きです!
頑張ってください!

ねくすと!!

NO.75 もみじこ 10/01(水) 15:52 IP:202.253.96.233 削除依頼


>>メビウスさま

うちもぐろいの大好きです(^^)/+゜←

がんばります(・ω・)

ねくすとありがとうございます!

NO.76 もみじこ 10/01(水) 17:01 IP:202.253.96.233 削除依頼


改めて考えた。


―ここは、どこ?

そして

『あたしは、だれ?』

ではなく、


―目の前のこいつは、

だれ?


と。

ここは多分、あたしの家の台所。

あたしの感覚が狂っていなければ、きっと、そう。

目の前のこいつは誰か、と考えた。

一番目の問いのように、さらりと答えはでるはずも、ない。


七緒でなかったら、いったいこいつは何者なんだろう?

『者』、ですらないかもしれない。


…。


冷静にそちらのほうに考えを向けてみても、だめだ。


あたしは、七緒が『存在しない』ことにショックを受けすぎた。

いない。

死んで、『存在しない』のではなくて、

もともと、『存在しない』。

混乱した脳の片隅で、その言葉を繰り返す。

噛んで、含めるかのように繰り返す。

そうすると、少しは意味が理解できてきたような気が、した。

でも、した、だけ。


―何がなんだか解らない。


これが、本音。



「…七緒が、存在しないっていうならば」

あたしの口は唐突に喋り始めた。

「あんたは一体何だっての」

口調がだんだん強くなっていくのが自分でも分かる。


「…俺?」

また、きょとんとした顔に戻った。

NO.77 もみじこ 10/01(水) 17:26 IP:202.253.96.233 削除依頼


「俺はなあ」

んー、と云いながら、染みのついた我が家の天井を眺める。


「…何、早く言ってよ」

あたしはなぜかこいつを急かしていた。

人間かどうかも不確かな奴、に。

落ち着いているあたし自身が怖い。

あ、『あたし』がいるからか…



「実は、俺自身もこの世ってもんには存在してないんだよね」



…。

お得意の謎を深める発言が、また出た。

あたしは気が少し抜けたのか、その謎を深追いする気力すらなかった。


「…でな。俺が所属してるとこってのは」



そいつの言葉は、そこで何の前触れもなく切れた。

まるで糸がぷつん、と切れるかのように。



―そして、後ろからの視線。

そちらを向いていなくても分かる、冷たい視線。

でも、威厳がある。


一般の人であれば、跪づくことすらできないような、畏怖すら感じるものだ。


ゆっくりと首を後ろに回す。



そして、

そこに居たのは、



―テディベア。

NO.78 もみじこ 10/01(水) 17:59 IP:202.253.96.225 削除依頼


テディ、ベア。


まさかの、二足歩行。

ここであたしはぶっ、と一瞬吹き出しそうになったが、

何時の間にかあたしの隣にきていた『そいつ』は、そのベアを見て明らかに動揺していた。

そいつの目は極限まで見開かれ、

唇は震えている。

元から白かった顔も、今は更に白くなり、うっすらて蒼を帯び始めているいた。


「………さま」

声にならない声で、そいつはベアに呼び掛ける。



『………イオタ。』



ベアは、喋った。


というより、どこか別のところから操って、音を出しているような感じを受けた。


感情の全く篭められていない、淡々とした合成音声。

そんな声で、ベアは続ける。


『…久しぶりだね。』


「はっ」


イオタ、と呼ばれたそいつはベアの目の前で跪いてみせる。


端から見ると、不可解な光景にしか見えない。

が、あたしは、なにかそこに『何か』を感じ、ただただ呆然と黙ってそれを見る以外なかった。

NO.79 もみじこ 10/01(水) 18:12 IP:202.253.96.233 削除依頼


『…で、イオタは今から何をしようとしてたの。』


「私ですか…」


ベアは、不快な音を立てて首を縦に振る。

『うん。』

「この小娘の自殺を見届けようかと思ったんですけどね」

イオタ、はちらりとあたしのほうを冷たい目で見る。

「中々しようとしないんですよ。どんだけ"生"に未練もってんですかね」


それを聞いて、ベアはあたしのほうに顔だけ向けた。

体はイオタを向き、顔だけこちらを向く様子は気持ち悪いことこの上ない。

『だめだよ、君。イオタに遊ばれてるよ。』

これがもし合成音声でもなくて、人形でもなかったら、今にも爆笑しそうだ。


『あのねえ、イオタ。人間はこれくらいの"生きる"って欲があって当然なんだよ。』


そして、

『忘れちゃったの。』


と付け加えてベアは聞いた。


「忘れ…てはいませんけれど」

頭を掻きながらイオタは俯いて斜め前を見る。


―あたしの脳みそは、全くもって話についていけない。



そして、ベアは言った。

『あ、僕がこっち来た理由忘れるところだったよ。』

NO.80 もみじこ 10/01(水) 19:10 IP:202.253.96.233 削除依頼


にっこりと笑ってベアは言った。

いや、にっこりと笑ったように見えただけ、だが。

少しだけ、刺繍された口元が上がったような気がした。


『だめじゃん、イオタ。』

「…は?」

イオタはベアが言ったことを理解できていないようだ。

『しょうがないなあ、イオタは。言わないと分からないんだね。』

やれやれ、というような感じでゆっくりと言った。

イオタは、ぽかんとしている。


「…私が、なにか、しましたか」

おずおずとした口調で、イオタは尋ねる。

『やだねえ、惚けようとしてる。』


あたしは、相変わらず状況を飲み込めないままでいたが、一つだけわかることがある。

イオタがなにかまずいことをした、という事だけだが。



ベアは再び喋り始めよう



と、した。


―どこからともなく、寒い空気が流れてくる。

あたし服の中をひんやりとした感触が、這う。

寒気。

いや、

悪寒、か。



『イオタ、裏切ろうとしてたくせにね。』

NO.81 瑠璃。 10/01(水) 19:13 IP:220.97.16.58 削除依頼
 
私のスレに来て下さってありがとうございますo(^∀^)o
 
何か面白い展開になってるぞおおおおおおおお( ゜Д゜) !!!!!!!!
 
 
 
ネックネク^p^

NO.82 もみじこ 10/01(水) 20:01 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>瑠璃。サマ

いきましたー(^^)/
おもしろかったので是非続き読ませて頂きます★+゜

もうラスト3ぐらいまできてますが…
がんばります(・ω・)!!

ねくありがとうでした(∀)





そして今から更新しようかと思ったんですが、
テストがあまりにもまずいので←
勉強してきます…(0)

明日朝早くか夕方には更新するので
読んでくださっている方(少ないとは思いますが)、すみません><;

それまではこのスレを是非とも上げてくださいm(._.)m
助かりますので…

では;;

NO.83 もみじこ 10/02(木) 05:36 IP:202.253.96.249 削除依頼


胃が、ずしんと重くなったような感触を、味わう。

冷気は、増す。

指先に血が巡っていないような気が、する。

あたしですらこれだけいろいろと感じているのだから、

このベアの部下であろうイオタには、どれだけこの状況が恐ろしいものか。


イオタの指は、床についたままカタカタと震え出す。


「い、今なん…と」


どく、どくとイオタの喉が血管を浮かせて少しだけ揺れている。

全身は、小刻みに震えている。

その振動が伝わったのか、床の包丁が金属音をたてた。


ベアは合成音声で溜息をついた。

感情は、ない。

そして、はっきりとこう言った。



『裏切り者。』



…。



空気が、黒く染められた気が、した。

空気の圧力って、こんなにあったのかと思うくらいだ。

全身が締め付けられる。


あたしは、思わず「うっ」と呻く。


『ほら、早く謝って。イオタ、君が犯した罪をちゃあんと自覚しないと。』


『僕らの存在は、決して人間に知られてはならないのに。』

NO.84 もみじこ 10/02(木) 05:41 IP:202.253.96.233 削除依頼


あ、いまさらですが訂正です;;

78.
×帯び始めているいた
〇帯び始めていた

です(ω)

携帯の近似予測は便利なんですけどね…(苦笑)

NO.85 もみじこ 10/02(木) 06:28 IP:202.253.96.233 削除依頼


『僕とか、君らとかの存在とかばれちゃったら、僕もう遊べなくなっちゃうでしょ。』

プラスチック製の目玉は、ぼんやりと奥のほうに光りを混ぜている。


『そんなことされたら、僕困るんだけどなあ。』

イオタは、動かない。

そして、


「あ…の」


あたしは自分でもわからないうちに喋り出していた。

『なに。』

ベアは律儀に応える。



「あなたたちは、一体なんなんですか」



口から出た言葉は、微妙に揺れていた。


ベアは少しの間考える仕草をして、あたしの方を向く。

『教えてほしいの。』

そして、こうあたしに問い掛けてきた。

あたしはゆっくりと頷く。



『僕はねえ、この"世"で遊んでるだけなの。』



愉しげに、

いや、表情はどこからも読み取れないからはっきりとは分からないが、

ベアはそう呟いた。


『愉しいよ?この"世界"ってのを動かすのは。』

NO.86 瑠璃。 10/02(木) 12:39 IP:220.96.62.201 削除依頼
 
うっふぉおああああああ( ゜Д゜)
テディベアなんかうぜー(・ω・)←

そして面白すぎる!!!!!!!!!!!!!!!!!1
文才能力ありすぎですよ主様っっっっ( ゜Д゜) !!
 
ゆっくりでもいいので、勉強とか
頑張って下さいね♪

もみじこさんの更新楽しみに待ってますっo(^∀^)o
 
 
そしてネックネク^p^

NO.87 もみじこ 10/02(木) 17:59 IP:202.253.96.249 削除依頼


『だからね、それを誰にも邪魔されなくないんだ。』


そして、ベアはイオタの方へ向き直る。


『君は僕の邪魔をしたね、裏切り者くん。』


まだ思い出すような仕草をするイオタ。

見下すような目、

いや、そう見えただけだが、

そんな目でベアはイオタを見た。


そして、イオタは、はっ、と目を見開く。

「……っあ…あ、俺、は」

絞り出すような、声。

動揺しすぎて、一人称が 『俺』に戻っていた。

震えが、大きくなる。

イオタは、思い切り下を向いた。

なにかを、避けるかのように。



…。



『どう?思い出したみたいだね。』

「……おれ、ッ、いや、私は…」

『この娘の終焉を綺麗にしようと手助けしたんじゃないの。』


この娘、と言われるのにはあたしは少し腹が立つ。

「…ッ」

どうやら、図星。

―哀れみの気持ちが少し沸いて来て、しまった。


『わらべうたを、唄おうか。』



ベアは唐突にこんなことを言う。



『君と僕が、君が此処に来る前に、唄った、うた。』


刺繍の口が、にんまりと微笑った気が、した。

NO.88 もみじこ 10/02(木) 18:42 IP:202.253.96.249 削除依頼


「……うた?」

あたしとイオタが同時に言う。

思わず顔を見合わせてしまった。

お互いに一瞬うっ、と言う顔をして背けたが。


『うん。』


そして、ベアは歌い出したの、だ。



『―――ゆーびきーりげーんまーん』



途端、

イオタの右手の小指の付け根が、が何の前触れもなく、ぱっくりと割れた。

どぷっ、という奇妙な音を立てて割れ目から鮮血が沸いて来た。

それは、ぼたぼたと床に次々と落ちて、ゆく。

そして、それを無視するように、ベアはうたいつづける。



『うーそつーいたら』



とても、愉快そうだ。

何度も言うが、ベアの声は、合成音声。

それでも、何かを感じることができる。


イオタは唖然として、その傷口を眺めていた。

とめどなく流れる赤黒い液体は、

先に床に落ちていた液体の元に落ちて、ぴちゃり、と軽い音を立てる。


流れる、

流れる。


止まっていた空間、

そして、時間が、

ゆっくりと流れ出して来たように、思えた。

NO.89 もみじこ 10/02(木) 18:56 IP:202.253.96.249 削除依頼


『―――はーりせーんぼーん…』


愉快に、ベアはうたい続ける。

…まるで躍っているようだ。

ぎぎ、と嫌な音がする。

首は、右左に程々なスピードで揺れる。



―怖い。



一番、この状況にぴったりなはずの言葉が、ここの瞬間になるまで、でて来なかった。



そして、

あたしはなにかしらを悟った。

何かは、分からない。

でも、明らかに良い方向のものでは、ない。

体が、びくっ、となる。



「……その続き、うたったらだめだ…!」



あたしは、

大声でそう叫んだ、

つもりだった。


―しかし、

それは、

微かな、

微かな声だったようで、

ベアにも、イオタにも届かない。


届か、ない…。


涙腺が刺激されたらしく、視界が涙で歪む。

あたしの眼球を潤わせるのには十分だったらしいが、零れ落ちるとまではいかないらしい。


血の赤、

床の茶、

睫毛の黒。

みんなが水を含んで滲む。


そして、ベアは静かに唄った。



『………のーますっ』

NO.90 もみじこ 10/02(木) 19:16 IP:202.253.96.249 削除依頼


あたしの涙は、ようやく頬を伝った。

視界がよくなる。


ふと横を眺める。


すると、

何か細くて小さい棒のようなものが、イオタの喉を内側から刺激していた。

動きが、激しい。

むくむく、とイオタの喉は歪つな形に、変形されている。


そのうちのひとつ、が

ぷつっ

と音を立てて、喉の肉と皮を突っ切った。


―針。


朱く、丸い水滴がそこから溢れる。


イオタは、目を見開いて、いる。



ぷつっ

ぷつっ



次々と、針が内側からイオタを順々に刺して、いく。

イオタは床に倒れてからじたばたと転げ回り、喉を必死で掻きむしる。


その刺してゆく速度はだんだんと速まって、いく。


「………………!!」


声にならない、叫び。


針は、順調に喉に大きな穴を造っていく。

喉は、針の鈍い銀色と、紅の血で染められる。

彼が転げ回ったところには、ゆっくりと血溜まりが形成されていく。


そして、

同時に腹が膨らみだして、くる。


それは間もなくイオタの腹を内側から突っ切り、


ぶしゅうっ

という腑抜けた音をたてて

そこに血の噴水をつくった。



うたが終わっていないのに、ベアはケラケラと笑い始めた。

NO.91 もみじこ 10/02(木) 19:30 IP:202.253.96.233 削除依頼



…。



イオタは、動かなくなった。

ベアはまだ、にこにこと笑っている。

―ように見える、だけか。

ケラケラと笑うのも、表情が読めないからあまりよい表現では、ないか。


ベアは、ぴしゃりと血溜まりをスキップしながら踏んで


最後の仕上げだよ、


と、言わんばかりにうたった。



『ゆーびきったっ。』



さっき、ぱっくりと割れたイオタの右手の小指が、完全に肉体から離れた。


―あたしは、その様子をただただ唖然、呆然として眺めていた。

意識が、全部イオタの終焉に、注がれていた。



はっ、と気がつく。

血生臭い。

そして、自分にも彼の返り血が沢山ついていることにようやく気がついた。

前をむくと、死体の上でぴょんぴょんと跳びはねる、ベア。

さながら、愉しそうだ。

ベア自身にも、返り血がこれでもかとついて、いた。


あたしがまともな意識を取り戻したのに気がついたのか、ベアはぴたりと止まってこちらを見た。


『ああ、』


『君の処理を忘れてたよ。』



そうベアが呟くと、

あたしは、

心臓がどくん、と跳びはねたような気がして、



それから、


気を、



失った。

NO.92 もみじこ 10/02(木) 19:37 IP:202.253.96.233 削除依頼






――――



―――――――――



あなたのもとに、くまの人形はありませんか?



――いますか?

いたら確かめてみてください。

首のまわりに白いリボンがしてあるか。

そして、それに赤い染みがついていないかどうか。



もし、そうであったなら、

是非、

死ぬことを覚悟してください。

捨てては、だめです。



でも、あたしのようになりたいのであれば、

どうぞお好きになさってください。







ほら、

あなたの後ろで、

プラスチックの愛らしい目玉が、

こちらを向いて、いますよ…。



◇fin,◇




NO.93 もみじこ 10/02(木) 19:45 IP:202.253.96.249 削除依頼


☆+゜もみじこです(・ω・)!

一応これで『殺害くまさん』の本編はおしまいとなります(^^)/
本編は、おしまいです←

…ということで、もし読みたい方がいらっしゃれば、
これの番外編?を書こうかと思ってます('`)

少しでも『読みたい!』と思ってくださった方はレスくださいな♪+゜

内容は、多分イオタたちの属していた組織のことになります(∀)



>>瑠璃。サマ

これ書き上げてからコメ返ししようと思ったので少し遅くなりました;;すみません…

今日でテスト終わったので高速で更新してみましたよ(∵)!笑

ねくありがとうございました+゜

NO.94 志! 10/02(木) 19:49 IP:59.86.90.87 削除依頼
番外編読みたいです!

すごい怖くて、だけどベアちゃん
可愛いですね(^ω^)笑


NO.95 もみじこ 10/02(木) 20:33 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>志!サマ

よ、読みたいと思ってくれた方がいらっしゃった!!(;ω;)
感涙です!!+゜(TT)/ありがとうございます。

あえてくまは可愛いらしくしてみました(・∀・)
その理由もたぶん後々にわかると思います!


NO.96 未奈 10/02(木) 20:48 IP:59.141.133.189 削除依頼
すごく怖かったです!
どきどきしながら読んでました(・∀・)

番外編読みたいです!

NO.97 もみじこ 10/02(木) 21:28 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>未奈サマ

お褒めの言葉ありがとうございます!!(;ω;)+゜


ではでは番外編ゆっくりと書き始めていこうかと思います(^^)/

多分本編の1/3〜1/2ぐらいの長さになると思いますが、しばしお楽しみください(∵)!

NO.98 もみじこ 10/02(木) 21:58 IP:202.253.96.233 削除依頼

**

 



 


―――――『オメガ』。


それは、"この世"の『無』を『有』にし、

『有』を『無』にする存在。



 



『 オ  メ  ガ 』


―――――START,

NO.99 茜** [MAIL] 10/02(木) 22:05 IP:118.108.26.149 削除依頼
やーばーばーばぃっ←
やっぱ面白すぎっっ
ってか更新早いですね!!!
憧れます(´ω`)**

番外編是非みたいです!!!!!!
よろしくお願いしマス☆

完結おめでとうございます**
お疲れ様でした!

NO.100 10/02(木) 22:14 IP:123.254.51.3 削除依頼
はじめから全部読みました
こ、怖すぎる…
主サマ、すごいです><
番外編ねく♪

NO.101 もみじこ 10/02(木) 22:23 IP:202.253.96.233 削除依頼


 



―熱い。

焼ける、

焼ける。


自分の体が、みるみる炎に包まれていく。

ふと手を眺めると、焦げた皮膚の間から肉が見えた。

熱が、光が、意識を奪っていく。

目が、まともに開かなくなってきた。


―あ、あたし死ぬんだ。



そう、悟った。

ゆっくりと、目をつむっる。


鼓動が、だんだんと遅くなる。

何かが、すっと退いていく感じが、した。


 



―死ん、だ。



あたしは、意識のある世界から、いなくなったことを覚悟した。


…はずだったのに。


あたしは、"この世"から、存在を認められていないところに、飛ばされてしまったようだ。

NO.102 もみじこ 10/02(木) 22:29 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>茜**サマ

おもしろいですか!?(∵)+゜
ありがとうございますー(^ω^)!!
番外編がんばりますね(∀)


>>紺サマ

すごいだなんて!!(/ω\)←
調子のりますよ??笑

ねくありがとうございます(^^)/


NO.103 もみじこ 10/02(木) 22:47 IP:202.253.96.233 削除依頼



次に目をあたしが目をあけると、


そこは、白。


「…え?」


果てしなく白が続く。

何処かは、わからない。

あたしは、その白い空間に寝転がっていたらしい。

体を起こして、みる。


足を崩して座った状態になったとき、自分の手が見えた。

皮膚が、

「…元に、戻ってる」

ぽつり、と呟く。


すると、後ろの方からよく響く足音。

足音の主は、ヒールが高い靴を履いているらしい。


ゆっくりと振り返る。


後ろにいたのは―


長く艶めく銀髪、

セピア色の目、

整った顔立ちをした、

女の人。


彼女は、あたしに向かって握手を求める手を差し出した。

「君が、新入りね。」

あたしは礼儀かな、と思い、その差し出された手に自分の手を重ねる。

きゅっ、と握手をした。


そして、こう続けた。

「…わたしの名前はイプシロン。よろしくね、アサキ」

NO.104 もみじこ 10/02(木) 23:08 IP:202.253.96.225 削除依頼



あたしは、アサキと呼ばれたようだ。

それがいまいち飲み込めず、ぽかんと口を開けたままにする。

すると、イプシロンと名乗った女の人は、あたしの心を読んだかのように、

「ああ、アサキってのは貴女のコードネーム。さっきの世界の名前もじっただけなんだけどね」

と、さらりと一気に言った。

 



―あたしは、なんでこんなところにいるか改めて考えてみた。


あたしは、普通の平凡な中学生女子。

彼氏もいて、すごく幸せ絶頂だった、はず。


…あ、でも少し前に喧嘩したんだっ、け…。


覚えていることは、これだけだ。


…。


…え、これだけ?


自分の、名前は?

住所は?

生年月日、は…?



思い出せ、ない?


「無駄だよ。自分のまわりは覚えていても、自身の記憶は全部消される」


そして、この女の人は、またしてもあたしの心を読んだ。


なんだ、この人。

そして、

何処だ、ここは…。

NO.105 もみじこ 10/02(木) 23:41 IP:202.253.96.249 削除依頼


「ここは…何処なんですかっ」

ばっ、と顔をあげて、あたしはイプシロンさんに尋ねる。

「あたしは、一体どこに来たんですか!」

興奮して思わず語尾があがってしまった。


きょとん、とした顔であたしは見つめ返された。

そして、ふふふ、と微笑われた。


「そっか。始めてだから、説明しないとね」

イプシロンさんは言う。。

「貴女は、今からここでしばらく働かなきゃいけないのよ」

「……はい?」

あたしが腑抜けた返事をしたあと、彼女は更に続けた。

「此処は、TEFROっていう組織。なんか難しい英語ね省略みたいで……まあ、それはどうでも良いんだけれど」


てふろ…

何なんだろう、気になる。

あたしは彼女に先を話すように促した。

彼女は頷きながら続ける。


「―簡単に言うと、『有』を『無』、『無』を『有』、

または『真』を『虚』、『虚』を『真』にする組織、って感じかな」


「まあそれも殆ど一人の意思で決まるんだけどね」

うーん、とこめかみを掻きながらイプシロンさんは呟いた。

NO.106 もみじこ 10/03(金) 06:09 IP:202.253.96.249 削除依頼


座り込んでいるあたしに向かって、イプシロンさんはそれだけの言葉をさらさらと流暢に話した。


そして、

「…ほら、立って。道すがら話してあげるわ」

と、あたしに立ち上がるように言った。


よいしょ、と脚を立てる。
自分はいつの間にか白いローブに身を包んでいたようだ。

薄い白布が何層にも重なっているようで、少し重たかった。



あたしは、白い空間の中をずんずんと進んでいくイプシロンさんの後を、小走りでついていく。

「あのっ、TEFROってのは、何処にあるんですか」

あたしは、その名前を聞いてからずっと気になっていたことを聞いてみた。

あっさりとこう答えられた。

「此処にあるじゃない」


此処が、そうなのか。

へえ、と一瞬それで終わって納得しようとした。

でもあたしの聞きたいことは、それではない。

いや、そうといえばそうなんだろうけど、少し答えがあたしの期待していたのと違ったから。


「いや、あの、あたし死んだじゃないですか」

「うん」

「此処は、天国ってとこなんですか?それとも地球の何処なんですか?まさか、地獄とか…?」


あたしは、さっきからもそうだが、物凄く興奮していようで、早口でそうべらべらと喋った。


「…ははっ」


イプシロンさんは、今度は声を出して軽く笑った。


「残念。全部不正解だよ」

NO.107 もみじこ 10/03(金) 07:12 IP:202.253.96.249 削除依頼



「…へ?」

あたしは思いきり間抜けな面を曝したらしく、イプシロンさんはさっきより大きな声で笑う。

「戸惑って当然だよ」


ぽかん、とあたしは口をだらしなく開けて笑う彼女を見る。

そして軽く腕を組んで彼女はこう続けた。


「ここはね、何て云ったらいいのかなあ、

今アサキが挙げた世界の中の間?…みたいな所って言われれば通じる?」



なんとなく…、

分からないことはないかもしれないけれど、

脳みそに残った少ない記憶によると、そのような世界が存在すると教わった憶えは、ない。



「だからね、"人間"は此処の場所を知らないし、TEFROの存在すら知らない」



…。



それは、そうか。

もし人間がそんな有無、虚実をひっくりかえすような組織を知っていたならば、

あんなに人間社会全体が安定していたわけが、ない。


もしそんなのをあたしが『生きて』いる間に知っていたら、

仲の良かった彼氏と仲直りしたのになあ…


そして、あたしはぽつりと呟く。



「…兎にも角にも、あたしは『死んだ』んですよね?」

「うん、人間社会的には、『死んだ』。でも、此処には『存在して』いるの」


NO.108 瑠璃。 10/03(金) 09:30 IP:220.96.90.27 削除依頼
 
番外編キターーーー( ゜Д゜) !!
 
最高ですね、主様(゜Д゜)っ[金]
 
おもしろすぎます><><><><
 
 
ねくねくねく!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

NO.109 もみじこ 10/03(金) 18:50 IP:202.253.96.233 削除依頼


>>瑠璃サマ

あああ二度三度こめ本当にありがとうございます!!(TT)/

最高だなんて本当これ以上ないような褒め言葉です!!+゜

ねくありがとうございます(∵)!

NO.110 もみじこ 10/03(金) 19:15 IP:202.253.96.249 削除依頼



白い空間の奥へ、

そして奥へあたしとイプシロンさんは進んでいく。

景色なんてものは無論存在しない。

もし目を一度でも閉じてしまったのならば、そこには右も左も、上も下も存在しなくなりそうな、世界。


そしてそれは、延々と続く。


ある意味ではとても、恐ろしい。

 


しばらくあたし達は口を利かなかったが、突然、何の前触れもなくイプシロンさんは立ち止まった。


「着いたよ」


にこりと微笑んでイプシロンさんはあたしの方に首を向けた。

でも、彼女が向いている方向には何も、ない。

唇をむいっとへの字に曲げて、あたしは首を傾げた。


それを悟ったのか、イプシロンさんはくすくすと笑った。


「見てて」


彼女は、彼女の胸の高さまで、自身の伸ばした腕をもってくる。

そして軽く閉じられていた掌をゆっくりと開く。


すると、

ふぉんっ

と軽い音が鳴ってから、


『認証致シマシタ。』


と機械の声がゆっくりと喋った。

そこには自動扉のようなものがあったらしく、そのドアの開く音がした。



「さあ、入って入って」

NO.111 もみじこ 10/03(金) 19:36 IP:202.253.96.249 削除依頼


白いだけだった世界に、ほんの少しだけ、色味がさしてきた。



そこでは、

全員白いお揃いのローブを着た人達が、

せかせかと働いていた。



―長い廊下の壁に、所狭しと並ぶドア。

人が引っ切り無しに出たり入ったりしているため、ばたばたと音が立つ。

さっきあたしは色味がさしてきた、とは言ったけれど、

廊下も白、

ドアも白、

着ているローブも白なので、

『色味』とはっきり言えるのは、働いている人たちの皮膚の肌色だけだろう。

 


「―ちょ、お前それ違うよ。そのデータはこっち」

「えッ…し、知らないよ!カイさんが言ってたんだもん」

「あの人、適当って有名なの知らないのかよ…。それはこっちなんだって」

「へえ、有名なの。それならあんたは何で有名なのかねえ」


ぎゃあぎゃあ、とあたしが眺めていた方向で口論が起こる。

でもそれは、まるで、じゃれ合うような感じのものだった。


 

ふ、とあたし自身を思ってみると何故だか、泣きそうになった。



「なにしてんのアサキ。ほら、ご挨拶しにいかないと」

突っ立っていたあたしにイプシロンは早く行くようにほらほら、と促した。

NO.112 もみじこ 10/04(土) 06:17 IP:202.253.96.249 削除依頼


まるで此処は、人間社会でいう会社、だ。

そういえば、イプシロンさんはさっきから通りすがる度に『こんにちは!』と挨拶されている。

…いわゆる、上司ってやつなのか、とあたしは少しだけ思った。


「…今から会うのは」

イプシロンさんは僅かに顔を俯かせて言う。


「此処最大の、権力者」


ほんの少しだけ、彼女の表情が曇ったのをあたしは見逃さなかった。

彼女も、此処では結構な権力者ではあるはずなのに、そんな人もが、怯える。


どんな人なんだろう。


畏怖の心よりは断然好奇心のほうが勝る。


「ほら、早く!」


またあたしは突っ立ってこんなようなことを考えていたらしい。

急いで追い付く。

 


「…あのっ」

あたしの口は唐突にイプシロンさんに話しかけた。

ん?と言って彼女はその先の言葉を待つ。


「あたしは『死んで』此処に来たんですよね?」

「うん」

「てことは、イプシロンさんも『死んで』此処に来たってことですか…?」

その台詞をあたしが言い終わるのを待って、イプシロンさんはふっ、と溜め息をつき、


「勿論。まああたしがこの組織に来たのは300年ぐらい前…だったと思うけど」

にこにこと笑いながら彼女はそう言った。


「…さッ、さんびゃくねん!?」


あたしは耳を劈くような声で叫んでしまった。

NO.113 もみじこ 10/04(土) 06:39 IP:202.253.96.233 削除依頼


「うん。なかなか輪廻のサイクルに戻してもらえないんだって」


イプシロンさんはそんなようなことを言ったが、あたしの耳にはまともに入ってこなかった。


…300年前っていったら、徳川幕府普通にあるし、

何てったって轢死、間違えた、歴史の教科書に完璧に載っているところだ。

あたし頭はパニックに陥った。

混乱した頭で、

「り、輪廻のサイクルて何なんですかっ」

とあたしは聞いたらしい。


するとイプシロンさんはまた、うーんと云いながらこめかみを掻きはじめた。

「あー、これも説明難しいなあ、なんていうか、その…」


少し間を置いてから彼女は続ける。



「普通の人間なら『生きて』『死んで』、また生まれ変わって『生きて』『死ぬ』でしょ。

それが、…多、分輪廻のサイクルなんだと思う。

わたしたちは、そのサイクルから一時的に外れてTEFROに来ているの。

で、たまたまわたしの"一時的"が300年だったー、みたいな…」


ふーっ、と深く息をついた。

あたしも、イプシロンさんもだ。


「なんでアサキまで溜め息なの…」

「いや、あたし頭悪いんで今の話聞いて思考回路ショートしそうなんです」

あたしは苦笑しながら返した。

NO.114 メビウス 10/04(土) 14:05 IP:60.32.134.86 削除依頼
遅くなりましたが、完結おめでとうございます!!!
番外編、頑張ってください!

あげ&ねく!!!!!!!!!!!

NO.115 幸輝 [MAIL] 10/04(土) 15:52 IP:202.208.51.65 削除依頼
久々に来ました。

完結おめでとうございます!!

番外編全部読ませてもらいました。ネクスト希望!!

NO.116 もみじこ 10/04(土) 18:21 IP:202.253.96.249 削除依頼


「さあ、着いたよ」

短く息をついてイプシロンさんが言う。


彼女の目の前には、あたしの指先から肘ぐらいの長さのある、金色の、大きなドアの取っ手。

此処に来て、この世界において始めてまともな『色』を見た気が、した。



それは彼女にゆっくりと引っ張られて、ぎぎぎ、と嫌な音を立てる。


あたしは少しだけ顔をしかめて、イプシロンさんが入っていったドアの先を、覗く。



そこには、点々と置かれた家財道具。

ソファ、

テーブル、

本棚、

デスク…


それらは気持ち悪い程全部白で統一されている。

光、というものが存在しないので、灰色の陰すらない。


イプシロンさんはその奥へずんずんと進んで、いく。

あたしはなんだかそわそわした感じで、また彼女の後を追う。


鼓動が、僅かに早くなっているのが、分かった。



 
デスクの後ろには、大きな、いわゆる社長椅子。

当たり前のように、それも白だった。



それが、あたしたちの気配を感じ取ったのか、ゆっくりと左回りに回転し始めた。



「いらっしゃい。よく、来たね。」


NO.117 もみじこ 10/04(土) 18:29 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>メビウスさま

ありがとうございます!!(^^)/
番外編は、あの物語の世界を広げるために頑張ります♪+゜

>>幸輝サマ

ありがとうございます(・ω・)!!
番外編も是非是非最後までお付き合いください(∵)+゜

NO.118 もみじこ 10/04(土) 18:47 IP:202.253.96.233 削除依頼


そこに座っていたのは―


こういう、『社長』とか『お偉方』とかの名前に似合った、

でっぷりとした中年男性でもなく、

すらりとしたキャリアウーマンのような女性でもなく、



あたしより、明らかに若い、

小さな男の子だった。



―人間社会的に説明をすると、

年は9歳か10歳、小学4年生というぐらいが妥当だろうか。

漆黒の髪は、襟足が少し長めに伸びている。

そして、

くりくりとした黒い瞳、

透き通った白い肌。


言うまでもなく、白いローブを纏って、いる。

 


そんな彼は、にこにこと笑みを浮かべて、続けた。


「―ごめんねえ、君は僕の犠牲者じゃないんだ。」


そうあたしに言った後、デスクの上にあった白いリモコンを手にとり、下に向けてどこかのボタンを押す。


ぴっ


と軽い電子音がし、床には色鮮やかな画像が映る。


「僕じゃなくてね、僕の部下がやったんだって。ほら、あいつ。」


男の子が指した場所には、、雨に濡れた、あたしと同年代ぐらいの男子が映って、いた。



一人で雨に打たれて、満足気な表情をしている。

なんとも、気持ち悪い…。

NO.119 もみじこ 10/04(土) 19:15 IP:202.253.96.225 削除依頼


床に映った男子は、雨を体全部に受けながら、大きな声で笑って、いた。

あたしは思わず顔をしかめる。


そういえば、この世界でこんな鮮やかな映像を見るのは初めてだ、と思う。



「ごめんねえ。僕が、しっかり止めておけば良かったんだ。」

そして、


「こんな奴に殺されちゃうなんて、未練たっぷりでしょ。」



と、猫撫で声で、彼はそうあたしに問い掛けた。

年下に猫撫で声で話し掛けられるなんて、なんとも複雑な気分だ。


彼はふうっ、と息をついてからイプシロンさんの方をちらりと見る。


「君も、もう少しイオタに言ってやってくれれば良かったのに、イプシロン。」


イプシロンさんはそう言われ、とても申し訳なさそうな顔をした。


「済みません、オメガ様…」


何と無く分かるが、何と無くは状況がまた分からなくなってきている。


その間あたしが一人でそんな葛藤を繰り広げていると、

オメガ様と呼ばれた彼は、あたしの方に目線を向けて、来た。



「…ああ、僕オメガと言います。よろしくね、アサキちゃん」




NO.120 もみじこ 10/04(土) 19:33 IP:202.253.96.233 削除依頼


あたしは、そう言われて、ただ頷きながら、はあ、と言うことしかできなかった。


そして、それを見た彼は、にっこりと笑った。



―オメガ君は、リモコンのボタンを弄り始めたのか、床の画面が次々と色を変えていく。


「ねーねー、イプシロン、次はどこの誰がいいと思う?ちょっと、資料持ってきてよ。」

リモコンを弄りながらオメガ君はイプシロンさんにそう言った。


「…承知致しました」

「ん、頼んだよ。」


イプシロンさんは自分が深く礼をすると、

あたしの頭を上から押さえつけて、あたしに礼をするよう強制した。

そして小声で、ほら行くよ、と呟いた。

彼女に手を引かれ、あたしはオメガ君の部屋を後にする。

 


色鮮やかな画像の世界は失せ、また元の白の世界へと戻る。


「あれが、人間社会を操って弄んでいる張本人」

緩い笑みを浮かべて、イプシロンさんは言った。

あたしもつられて、力無く笑った。



そして、

「あ、あの、『君は僕の犠牲者じゃない』って、どういう事なんですか…?」

と、あたしは引き気味にイプシロンさんに尋ねた。

NO.121 もみじこ 10/04(土) 21:17 IP:202.253.96.249 削除依頼


あたしは自分でそう言ったのにも関わらず、自分で身震いした。

―裏を返せば、『"僕"はたくさんの犠牲者を出して来た』ということ、だ。


んー、とイプシロンさんは少し唸ってから、話し始めた。


「…TEFROに来る人はね、みんなTEFROの勝手な力で『死なされ』た人ばっかりなんだ」

彼女は舌を少し噛んでから、また話し出す。

「オメガ様が有無、虚実を変えた――つまり運命を動かすってことなんだけれど、

それを覆したせいで『死んだ』って人の中で、
オメガ様が気分で選んだ人が、この組織で働いてるの。

まあ、簡単にいうと、世界は総てオメガ様の機嫌と気分で動いてるって話」



「…ってことは、あたしもイプシロンさんも"気分"で『殺された』ってことなんですか」


気持ちが思わずたかぶってしまったらしく、あたしは焦ってイプシロンさんに問い掛ける。



「…」



―短いが、重くて、深い沈黙。

体全部にのしかかってくるような、沈黙、だ。



「…そういうことに、なるね」



彼女のセピア色の目が、微かに曇った。



「その『気分』がアサキのときは、たまたまオメガ様のものではなかったって話」

NO.122 もみじこ 10/04(土) 22:46 IP:202.253.96.233 削除依頼


と、いうことは、だ。

「―あたしは、さっき床に映っていた、あの男のせいで『殺された』んですね」


イプシロンさんは、こっくりと頷いた。


そして、

「あっ、こんなにゆっくり歩いてる暇はないね。早くオメガ様に資料を…」

ほら行くよ、ついて来てと背中で語って、イプシロンさんはずんずんと前へ進む。

あたしはこの時ばかりは、遅れることなくついていくことが出来た。



白い廊下をさっき歩いた方向と逆に進む。

イプシロンさんへの挨拶の声がたくさん聞こえる中、あたしは挨拶の声の度に体がびくっ、となる。


そして彼女はぴたり、と程々に大きな一つのドアの前で止まった。

重たい扉らしく、ゆっくりとそれは開かれた。



扉の向こうにあったのは、

白い本棚の中に、白いファイル、のようなもの。

それも、莫大な量。


「ここは"ヨーロッパ"のデータの部屋。いわゆる個人情報ってやつが、ヨーロッパの人全員分ある」

まあ適当にどれでもいいから5冊ぐらい持ってきて、と言われた。

あたしは目をつむりながら軽く下に俯けて、はい、という合図をした。



―それにしても、だだっ広い、部屋だ。

NO.123 もみじこ 10/05(日) 07:30 IP:202.253.96.249 削除依頼


あたしは、また考えに耽っていた。


―部下が、そんな力を、使える。

オメガ君は、イオタって人とイプシロンさんを同等扱いした。

じゃあ、イプシロンさんもイオタって人のように、世界を自由気ままに動かせるのでは、ないか……?


歩きながら、考える。

あたしは、目をつむりながら、腕を組みながら、棚の中を歩いていたらしい。



とんっ



「あっ」

あたしの声と、誰か男の人の声が、重なった。


目を恐る恐る開けると、視界に入ったのは、白いローブ。

そこから目線をゆっくりと上に移すと、男の人。


というか、あたしと同年代の、男子。


短めの、少し焦げ茶の混じった、黒髪。

細めの、二重の目。


瞳はまっすぐあたしを見据えて、きょとん、としている。


そして、あたしとほぼ同じ瞬間に肩が僅かに上に上がってから、



「ごっ、ごめんなさい」



―また、声が重なる。


あたしは可笑しくなって、思わず少し吹き出した。

彼も、あははと声を上げて笑い出す。



何故か、懐かしい。

NO.124 もみじこ 10/05(日) 07:59 IP:202.253.96.233 削除依頼



「君は新入り?」

ひとしきり笑い終わってから、彼は尋ねた。

あたしが、上目使いでこっくりと頷くと、

「まじで。実は、俺もなんだよ」


そして彼は、よろしく、と言って手を差し出してきた。

大きく、ごつごつと骨張った、手。

それに、あたしは自分の細くて小さな手を、重ねる。


互いに握りあった瞬間、イプシロンさんのときとは違う、緊張が迸った。


それはあたしだけではなく、彼もそれを感じていたようで、

重なった二つの手をじっと見ながら、何かを考えている、ようだ。



しばらく、手を握りあったまま、それを見つめ合ったまま、少し時が止まった。

 


「……おーい!」


ふと、遠くから、声。

低い、男の人の、声。


「…あ、カイさんだ」

目の前の彼はやばい、というように重なった手をぱっ、と離し、


「じゃ、またね」


と軽く手を挙げて、あたしの方向へと抜けていった。



「…アサキー!まだッ?」



…イプシロンさんの声だ。

あたしは、目の高さあったファイルを適当に引っ張り出す。


「はーい、今、行きます!」

NO.125 もみじこ 10/05(日) 08:19 IP:202.253.96.249 削除依頼

 


―オメガ君は、あたしとイプシロンさんが持ってきたファイルをひとつひとつ凝視、する。

時折、うんうん、と頷くのが、見える。


あたしは、イプシロンさんと並んで、その様子を不安をもって眺めて、いた。



「…じゃあ、この日本人の子にしようかなあ。」



ぽつり、とオメガ君は呟く。

リモコンのボタンを次々に押していく、彼。

鮮やかな画像は、また床に映り始める。


そこに映ったのは、一人で歩く、小学生ぐらいの女の子。


学校帰りのようで、赤いランドセルを担いでいる。


オメガ君はまた、画面を変える。


次に映ったのは、少し大きめの乗用車。

狭めの路地を少しゆっくりの速度で、走っている。


人間社会的には、どちらの風景も、何の変哲もないもの、だ。

あたしは首を少し傾げながら、オメガ君の一挙一動を見逃すまいと、眺める。



そして、オメガ君ははっきりと画面に向かってこう言った。


『乗用車がアクセルとブレーキを踏み間違えれば、いいのにな。』


そう言った時、彼の顔は何かしらの快感の喜びで、歪んでいた。

NO.126 もみじこ 10/05(日) 08:46 IP:202.253.96.249 削除依頼


画像の中で、車がゆっくりと走り、路地から大通りに抜けようと、していた。

大通りから、路地に入ろうとするのは、

先程の、女の子。


乗用車の運転手は、30代ぐらいの男性。

ふっ、とした瞬間、何の前触れもなく、男性の目が、据わる。

アクセルを、踏む。

スピードが、上がる。


そして、次の瞬間。



どおん



と、鈍い音が、した。

女の子の体は空中を舞い、大通りに投げ出された。

紅の血は、青空を点々と、汚す。


女の子は大通りの道路の上に叩きつけられた。

頭の後ろからは赤黒い液体がゆっくりと流れ、アスファルトをその色に染めていく。


とどめを刺すかのように、大通りを走っていた車が、それを思い切り轢いていった。



女の子、

いや、

女の子というより、

人間という原型すら留めていない、

人型。

…死体。



肉片と血が大通り一面に広がっている。

ランドセルは、傷だらけで路地の入口に転がる。


大通りを走っていた車は一斉に止まる。

「…大変や!誰か、救急車!」

―そんな声が、沢山聞こえる。


 

それに、

オメガ君がケラケラと笑う声が、

重なった。

NO.127 もみじこ 10/05(日) 09:43 IP:202.253.96.233 削除依頼



泣きそうに、なった。


その女の子が可哀相というのが多分いちばんの理由だとは思うけれど、

なにより、

オメガ君が、怖かった。


悪寒と涙が同時に、やってきた。

イプシロンさんに、そんなところを見られそうになり、あたしは必死に気持ちを押し殺す。


オメガ君の笑い声は、もう止んでいたが、

さっきの喜びに歪む顔と、嘲笑の声が一つの作品のようにして頭の中にこびりついて、いた。


「…ね?面白いでしょ。」

いきなり、オメガ君はあたしに問い掛けてきた。

あたしはどうすればいいのか全く分からず、とりあえず頷いてみる。


「…まあ僕ほどまでには完璧に出来ないけれど、

イプシロンも出来るんだからさ、やってみればいいのに。」


にんまりと歪んだ笑みを浮かべて、イプシロンさんの方を向く彼。

イプシロンさんは口元を引き攣らせて、はあ、と彼に返す。


彼はそれを見て、満足気にうん、と首を縦に振り、

「ん、データありがとね。また今度。」

と言って、ひらひらと手を挙げる。


イプシロンさんはまた深く礼をする。

今度は、あたしもすぐに礼をした。



部屋から出た途端、イプシロンさんは大粒の涙をセピア色の目からぼろぼろと、零し始めた。

NO.128 もみじこ 10/05(日) 10:02 IP:202.253.96.249 削除依頼


「も…嫌だ……」

壁に背中を預け、イプシロンさんはずるずると沈んでいく。

あたしは、それをどうすることも出来ずに、ただただ隣に佇んでいた。


こんなにも、歪んだ世界。

理不尽な人の元で、嫌でも働かないと、いけない。

それは、天国でも地獄でも世界でも、

TEFROでも、

変わらない。



あたしが思うに、ここは多分自らの意思で辞めることが、できない。

辞めるには、多分オメガ君の気持ちがないと、だめなんだろう。

イプシロンさんは、オメガ君の意思によって歪まされる世界を、300年も見て来た、のだ。

気も、狂う。

当たり前だ。

 



しばらくそうしていると、金色の取っ手が、ゆっくりと開いた。


「ごめん、誰かいないかな?ちょっと…。」


と、オメガ君の声。

首を動かしながらそう言った彼は、間もなくあたしたちを見つけた。


「ちょっと、留守番頼めないかな。」

おいでおいでをして、あたしとイプシロンさんをまた中へと招き入れる。


「オメガ様、何処へ行かれるのです」

涙を拭いつつ、イプシロンさんがオメガ君に尋ねる。


「ん、ちょっと。部下の暴走止めにいかないと、まずいから。」

NO.129 もみじこ 10/05(日) 10:21 IP:202.253.96.233 削除依頼


「イオタがねー、暴走してんの。」

彼は再びリモコンを手にとり、操作し始める。

「暴走、といいますと」

怪訝そうにイプシロンさんはもう一度尋ねる。


「やばいんだよ、本当。あいつ、TEFROの存在を人間にばらそうとしてるんだ。

まあばれたらばれたで、僕がその人間殺しちゃえば問題はないんだけど…。」

ぴたり、と一回言葉を止めてから、オメガ君は続ける。


「イオタ、始末しないと。…輪廻のサイクルに戻せないように。」



「…」



オメガ君が真剣な目をしたため、あたしとイプシロンさんはただ、黙る。


「僕が遊べなくなるだなんて、そんなの絶対嫌だもん。」


そう彼が言い終わったあと、


ぶうん


…全体が震えるような音がした。

目線を落とすと、床に黒い穴らしきものが出来ていた。


「それじゃ、行ってきます。」

オメガ君はひらひらと手を振り、『黒』の上に足を置く。

途端、彼の姿は陽炎の如くしてゆらゆらと揺らめき、



白に溶けて、消えた。


NO.130 もみじこ 10/05(日) 12:06 IP:202.253.96.233 削除依頼



あたしとイプシロンさんは呆然として、オメガ君の残した『黒』を眺める。

それは、やがて白に吸い込まれるようにして、ゆっくりと、なくなっていった。


『黒』が在った場所をそのまま見つめ、あたしは呟いた。

「―イプシロン、さん」

「…どうしたの?」


「『存在する』っていうことは、哀しいことなんですね」


「…」


不意に、悟ってしまった。



あたしたちは誰かによって、『存在させられ』ていること、

そして、

誰かによって、操られて『生かされ』ている、こと。


解った瞬間、自分のまわりは、

白よりも白く、黒よりも黒く染まった。


 

…沈黙。


 

イプシロンさんは、黙ってあたしを見つめて、いる。


いきなり、後ろからドアを大きく開ける音がする。

「オメガ様ッ!」

―さっき、あの"彼"を呼んだ声だ。


「ちょっとカイさん、早いです」

焦った声でそう言ったのは、先程の、彼。


「イ、イプシロン。オメガ様は何処へ行かれた」


先に部屋に飛び込んで来た男は、肩で息をしながらイプシロンさんに尋ねた。


「…先程、人間社会に降りられた」

彼女は、静かに返事をした。

NO.131 もみじこ 10/05(日) 12:56 IP:202.253.96.249 削除依頼


「…何をしに、だ」

「イオタの暴走を止めに」

カイ、と呼ばれた人はそれを聞いて、はーっ、と大きく息をつく。

「あンの馬鹿イオタ…」

そう吐き捨てて、頭の後ろを右手でがしがしと掻いた。


「で、カイ。貴方はなにをしに此処に飛び込んできたわけ」

「あン、俺?」

カイさんは、ちらりとあの彼を見て、

「こいつ、新入りなんだけど。紹介忘れてて、先に仕事させちまったから」


あたしと、彼の目が合った。

お互いにへへ、と照れ笑いをしてしまう。


「そうなの。で、君、名前は?」

イプシロンさんは、あたし達のアイコンタクトを一時的に遮って、彼に聞いた。


「俺、は『モリ』って言います」


…。


モリ、君…

あたしは、絶対この人に会ったことが、ある。



「えっと、初めまして。わたしはイプシロン。宜しくね」

そして、イプシロンさんはあたしをずいっと前に押して、

「彼女はアサキ。アサキ、こちらはカイ。…ほら、挨拶して」


「初めまして…」

NO.132 もみじこ 10/05(日) 13:11 IP:202.253.96.233 削除依頼



いきなり後ろに寒気を感じ、振り返る。



「ただいまあ。あれっ、カイ」

「オメガ様…!」


オメガ君が帰ってきたようだ。

そして、彼が手を繋いでいたのは、


――死体。


あの、雨に濡れてにやにやとしていた、男。

喉の所からだらだらと赤黒い血を流し、

腹は何かに破られたかのように、大きく穴が開いている。

そこからは、血に塗れた内臓すら見える。


彼は、それをずるずると引っ張る。

オメガ君は、それをあたし達の前まで持ってきて、繋いでいた手をぱっと離す。


どうっ、と鈍い音がして、死体が床に落ち、血飛沫があちらこちらへ飛ぶ。

間もなくそこは血溜まりと化し、白だけの世界に悍ましい色を加えていく。



「えへっ、殺してきちゃった。」



にこにこと笑いながら、オメガ君はあたしたちの反応を待つ。

「あと、一緒に居た人間もやってきたよ。」


茫然とあたし達四人は立ち尽くす。



…絶句。


「何、皆どうしたの。」

NO.133 もみじこ 10/05(日) 13:27 IP:202.253.96.225 削除依頼


あたしたちの反応が余りにも薄かったため、オメガ君はしびれを切らした。

「…カイ、イプシロン。これ、処理しといてね。」


二人は声を揃えて、はい、と返事をした後、死体を片手ずつ持ち、部屋を出て行った。

死体が引きずられた血の痕が、ドアまで続いた。



オメガ君は、社長椅子のような椅子によっ、と乗っかり、腰を沈める。

ふう、と溜息をついて、


「…君ら、一緒なんだよ。」


と、にっこり微笑ってオメガ君はあたしとモリ君に告げる。

あたし達は全く意味が解らず、顔を見合わせた。

モリ君は、くっ、と首を傾げた。


「あのっ、どういう意味なんですか」

あたしは率直に尋ねた。


するとオメガ君は、あははと声を上げて笑った。


「…ほぼおんなじ時期に、同じ人の気分によって殺されたんだ。」


あ、おんなじ人ってのは、さっきの死体ね、と彼は付け加える。



「…」



あたし達は、まだ黙っている。


NO.134 もみじこ 10/05(日) 13:42 IP:202.253.96.249 削除依頼


オメガ君は、だんだんと機嫌がよろしくなくなってきたようだ。

 


「……あーッ、もう!君ら、鈍い。」


とうとうデスクをばんばんと叩き始めた。


「もう、クビ!君らもう輪廻のサイクル戻ってよ。」

椅子をくるりと左回りに回転させ、オメガ君はそっぽを向いてしまった。

あたしとモリ君はまた顔を見合わせ、きょとん、とした。

でも、よく考えて、みる。


…輪廻のサイクルに戻れる、ということは、

生まれ変われる、ということだ!


あたしはそれを思い出し、明るい顔をモリ君に向ける。

先程の、『哀しい』なんて考えは吹っ飛んでしまった。



―どっちしろ、『生きる』事に変わりはない、ということに気付いたから。

あたしは、幸せ者だ!



オメガ君がまだ居るので、あたしは小声で、不思議そうな顔のモリ君にそう言った。


モリ君も、にっこり笑って、くれた。



あたしたちは、オメガ君の部屋を後に、する。

NO.135 もみじこ 10/05(日) 13:54 IP:202.253.96.233 削除依頼


金色の取っ手を開けて、一歩を踏み出す。



そこは、TEFROの廊下では、なかった。

また、真っ白な、世界。

何処だろう、此処は。


あたしはモリ君の側を少し離れて、辺りを見回す。


途端、

足元が、歪んだ。


「うわあっ」


思わず情けない声が、出る。


ぐらぐらと、揺れる。

気持ち悪い。

「…モリ君!」


あたしはそう必死に名前を呼んだ。

呼び続け、た。

返事は、ない。



…。



…あ、

この感覚、

あたしが『死ぬ』ときに味わったのと、似ている。

助からない、と覚悟した上での、感覚。

その時も、あたしは誰かの名前をしきりに叫んでいた、はず。


『――――…き!


――――…つきッ!!』



 

「いつ……き?」


―愛しい、ひと。



『モリ君』は、


「樹…」


―だった。


NO.136 リチェ・。−☆ 10/05(日) 14:04 IP:60.32.134.86 削除依頼
一気に読ませて、いただきました。
面白いです!!
ネクスト希望

NO.137 もみじこ 10/05(日) 14:07 IP:202.253.96.233 削除依頼



歪んだ白い世界のなかで、あたしは一人で、目から熱い雫を零して、いる。


―なんで、気付かなかったのだろう。

自分でも、手を握ったときの感触が、懐かしいと思っていた、のに…



涙は、止まらない。

そのうえ、

止めようとも自分では思わない。



「樹ぃいっ………麻紀、…………ごめんね…」



"麻紀"



それが、あたしがTEFROに来る前の、名前だ。



―白い世界の中に、ぽっかりと黒く大きな穴が、空いているのが見えた。

あたしは、高速でそこに吸い込まれて、いく。


 

―ばいばい、TEFRO。

ばいばい、



――樹。



あたしの涙が先に穴に吸い込まれていく。


あたしは、ゆっくりと、



目を、閉じた。


 

 


 


*

「………あの、此処、どこなんですか」

イプシロンはそう聞かれ、ゆっくりと答えた。


イオタの、第一の被害者である子、に。



「此処はね、


TRUE - FALSE REVERSING ORGANIZATION、


―『虚実逆転組織』…TEFROだよ」


 


◆…Fin,



NO.138 もみじこ 10/05(日) 14:14 IP:202.253.96.233 削除依頼


☆+゜どうも、もみじこです(^^)/
番外編完結です(・ω・)!

本当に本当に読んでくださった皆様のお陰です!!

少しは、世界を広げられたでしょうか??
もしそうならば、嬉しくて泣きます←

結構説明口調が多くなってしまったと自分では反省中ですorz

感想などあれば、レスお願いします+゜


それが落ち着いたらまた別のを書こうかと思ってるのですが、
おもいっきりコメディにするか
グロ続行するかで微妙に迷い中です;;

良ければ皆様の意見をお聞かせください(^ω^)


NO.139 もみじこ 10/05(日) 14:16 IP:202.253.96.233 削除依頼


>>リチェ・。−☆さま

おもしろいですか(∵)!
ありがとうございます+゜

ねくありがとうございました!!

NO.140 りちぇ・。−☆ 10/05(日) 14:20 IP:60.32.134.86 削除依頼
完結オメデトウ!!
面白かったヨ☆

NO.141 瑠璃。 10/05(日) 16:34 IP:220.96.64.230 削除依頼
完結おめでとうございますうぅっ><
超面白かったです♪
 
グロ続行お願いします!

NO.142 もみじこ 10/05(日) 17:15 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>リチェ・。−☆さま

ありがとうございます(^ω^)


>>瑠璃。サマ

ありがとうございます!
瑠璃。サマが沢山ねくしてくださったんで、とっても励みになりました(^^)/!!

グロ続行ですね(・ω・)+゜
今のイメージ固まったら書き始めます(∵)!

瑠璃。サマのスレにもまた行きますね+゜

NO.143 あえめな 10/05(日) 17:33 IP:58.98.228.146 削除依頼
隠れながらのファンでした!
完結おめでとう御座います♪
もし次の作品が出来れば、また応援します★

NO.144 もみじこ 10/05(日) 17:44 IP:202.253.96.249 削除依頼


>>あえめなサマ

か、隠れファンの方がいたなんて…!!+゜
感動です(TT)/!!
ありがとうございます!!

次回作もまた頑張りますので宜しくお願いします(・∀・)!

NO.145 メビウス 10/11(土) 10:55 IP:60.32.134.86 削除依頼
番外編、完結おめでとう!

私も、グロ続行でお願いします!

(でも、グロじゃなくても、いい話が書けると思いま  す!)

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