日本人が知っている韓国の歌、ベスト3は何だろうか。あくまで私の独断だが、『釜山港に帰れ』『カスマプゲ』『木浦の涙』がベスト3で、もしかしたら『大田ブルース』『黄色いシャツ』『離別』などの歌が入るかも知れない。日本で韓国歌謡が聴かれるようになったのは1970年代後半になってからだ。2000年代になって日本は空前の”韓流ブーム”を迎えるが、日本における韓国歌謡の歴史を語るとき、李成愛(Lee Seong-ae)という歌手をはずすわけにはいかない。正しく、李成愛は"元祖韓流歌手”と言える。しかし、残念なことに韓国では、李成愛は既に忘れられた存在だ。ちなみに韓国サイトでハングルで「李成愛」と入力して検索してみると同音異義語の(同性愛に対する)「異性愛」と出てくるほどだ。
李成愛
『カスマプゲ』を日本で最初にヒットさせたのも李成愛だったが、最初に上げた6曲の韓国歌謡のうち『釜山港に帰れ』『大田ブルース』以外の4曲は私も李成愛の歌を通じて知った。李成愛は日本では演歌歌手のよう思われているが、大学生だった1971年にデビューし、ポピュラー系の歌を中心に歌っていた。1977年に来日し、多くの韓国歌謡を日本に紹介したが、1978年、突然、歌謡界を引退し渡米、大学教授をしている在米韓国人と結婚、最近になって韓国に戻り、大田で暮らしているという。
李蘭影
『木浦の涙』と言えば李蘭影、李蘭影と言えば『木浦の涙』。韓国人にとってはこれはもう常識中の常識だろう。1935年の作品と言うから、もう70年以上も前から韓国国民に愛唱されてきた国民歌謡だが、国民歌謡だからこそトロット歌手なら『木浦の涙』を自分のアルバムに入れてない歌手はまずいないのではないだろうか。私もたくさんの歌手の『木浦の涙』を聴いた。オリジナルの李蘭影を始め、趙容弼、羅勲児、李美子、周炫美、金蓮子、河春花、バニーガールズ、ウンバングルチャメなど。みんな韓国を代表する歌手だから歌唱力は秀でているが、その中で私が体が震えるほどの感動を覚えた『木浦の涙』が何を隠そう李成愛の歌う「木浦の涙」だった。特に2番の歌詞の”三百年、怨みを抱いた~”の部分など正に鳥肌ものだ。李成愛の『木浦の涙』のレコードは持っているが、私はレコードの音源をパソコンに取り込む技術を知らないのでお聴かせすることは出来ないが、聴く機会があったら是非聴いてみて欲しい。
『木浦の涙』 歌・李蘭影
1. 船頭の舟歌が かすかに聞こえて
三鶴島波深く 染み込んでいくとき
波止場の新妻 チョゴリを濡らす
別離の涙か 木浦の悲しみ
2. 三百年怨みを抱いた 露積峰の麓に
あなたの名残が はっきりと現れて 切ない胸
儒逹山の風も 栄山江を抱いたら
あなたを描いて泣く心 木浦の歌
3. 夜更けの三日月は 流れて行くのに
何故に昔の傷が 新しくなるのか
来られないあなたなら この心も送るものを
港に結んだ操 木浦の愛
多分これは非常に個人的な話なので韓国人でも99.9%以上の人が知らない話だと思うので紹介しよう。李蘭影と同時代の歌手に南仁樹(Nam Insu)という歌手がいるが、南仁樹が歌手になる前か歌手をしながらかは忘れたが、慶尚南道晋州(晋州は南仁樹の本籍地)で理髪師をしていたそうだ。私の知り合いの韓国人の父親も晋州の人で、よくその床屋に遊びに行ったそうだ。ある日、南仁樹が彼に女友達を紹介すると言う話が出て、その女友達が李蘭影だと知った彼は、「李蘭影は顔がよくないので結構だ」と断ったと言う話だ。李蘭影の写真は晩年のしかも古ぼけたものしか見たことがなかったので、長い間私は「李蘭影は美人ではなかった」と半ば信じていたが、最近、李蘭影の娘時代の写真をみて考えを新たにした。決して飛び抜けて美人ではないが、それなりに魅力的だったと。
「木浦の涙」の歌碑
私は木浦には2回しか行ったことはないが、そのうちの一回は今考えるとずいぶん贅沢な旅行だった。ソウルから飛行機で日帰りで往復した。木浦でしたことは、儒逹山に登って、山の中腹にある『木浦の涙』の歌碑を見たこと、山から下りてメウンタンを食べたことだけだった。前年、アシアナ航空機が悪天候の中、木浦空港に着陸しようとして付近の山に墜落し、70人近くの人命が失われた事故があったばかりなので少し緊張したが、その時は天気は快晴で、木浦市街や西海がよく見えた。木浦空港は思ったより小さな空港で、滑走路も短く、確か誘導路もなかったように記憶している。その木浦空港も今年限りでその歴史に幕を閉じることになる。近くに代替空港として務安空港が開港するからだ。
木浦市街地と三鶴島
木浦は日本でも、NHKの「天気予報」の都市として知られているが、木浦の特徴は何と言っても港町、港湾都市であることだろう。李蘭影には『木浦の涙』の他に『木浦は港町だ』というヒット曲もある。日本でも韓国でも、港町というのは歌の題材が豊富だ。人々の出会いや別れ、涙や抱擁、海、船、汽笛、酒、女、海鳥、、、。木浦には何でも揃っている。そう、木浦のシンボル、儒逹山がある。私が時々口ずさむ歌の中に『木浦港』という歌がある。これは70年代の趙容弼のアルバムの中に入っている歌で、趙容弼のファンでなければまず知らない歌なので、ここに紹介して、少しでも人の耳目に触れられたらと思う。
『木浦港』歌・趙容弼
http://blog.naver.com/chirei2000/60030663641
儒逹山のツツジは きれいに咲いて
連絡船の汽笛は 変わりないのに
どうしていらっしゃらないのですか
懐かしいあなた
汽笛が鳴るたびに 待っています
帰って来てください
あなたが恋しい人が待つ
木浦港に
参考:http://blog.daum.net/heesun_i(韓国語)