- HOME
- >> セーフティー・ジャパン
- >> インタビュー
日本の危機管理はこれでよいのか(後編)
東京都知事 石原 慎太郎 氏
元内閣官房内閣安全保障室長 佐々 淳行 氏
その幕開けとして「日本の危機管理はこれでよいのか」と題し、石原慎太郎・東京都知事と佐々淳行・元内閣官房内閣安全保障室長の特別記念対談が行われた。「自助努力がなければ危機管理は実現しない」―――石原都知事の言葉に対し、佐々淳行・元内閣官房内閣安全保障室長は、さらに「互助」「公助」が必要と指摘し、国が行うべき「防」の付く4つの行政も明らかにした。また、危機管理への投資を怠る行政や企業へ警鐘を鳴らす。一方、石原慎太郎・東京都知事は、自らが手がけた「首都圏FEMA」や災害訓練を通じ、現行の日本の法体系では、非常時で行える対策の限界を実感した胸の内を明かす。そして、真の危機管理・対策での、現法体系を超えた「超法規的措置」の重要性を主張した。
文/川口 篤、写真/後藤 究
2005年11月8日
危機管理に必要なのは「自助」「互助」「公助」
佐々:
石原都知事が問題提起したのは「自助」の問題です。私は、この「自助」に「互助」、「公助」を加えた3つが重要だと思っています。
まず「自助」についてですが、もし家族が災害に遭う危険があれば、「事前に水、食糧、医薬品、必需品は最低3日分用意しろ」「自分の家族は自分で守れ」「会社へ出勤におよばず」という持論を持っています。このことを講演などで全国の人にいって回っています。
「大災害に遭ったら、一家の大黒柱である主人は、家に残って自分の家族を守れ。出社に及ばず」―――経団連の講演に呼ばれた時にも、幹部の方々に同じことをいいました。
<阪神大震災>
燃え上がる神戸市内(兵庫県神戸市)
(写真提供:時事通信。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)
それはなぜか。例えば、阪神大震災の時、神戸市内では交通の大渋滞が起こりました。そして、被災地からなかなか避難することができない人がたくさんいたわけです。私は「車で逃げちゃいけない」、「交通渋滞があると緊急避難路が抜けられないから、車では逃げるな」といつもいっています。東京都などではそういうPRや指導をしている。しかし、神戸市は半世紀も地震がなかったから、パニックになって車で逃げようとしたのだと当初、私は思ったのですが、実際はどうも違った。
阪神大震災の後、事後調査をやってみると、交通渋滞を起こしていた人たちの60%が、会社に行こうとしていたのです。ものすごい忠誠心です(笑)。しかし、この忠誠心は災害時には何の役にも立ちません。なぜって、会社に行っても会社は潰れているわけですから。
もう1つ一例を挙げましょう。大阪府豊中市に住む、ある企業の社長付きの運転手が、阪神大震災の時に神戸市に住む社長さんを迎えにいかなければと思って、午前8時に豊中市を神戸に向けて出発した。そして、8時間かけてやっと社長の家に着いた。ところが、社長宅は潰れていた。会社も潰れていました。
大変な長旅をして来た運転手に対して、社長は姿を見るなり「今日は出社しないよ」といった。すると「さようでございますか」と、この運転手はいったそうです。そしてまた11時間もかけて豊中市に帰ったというのです。
こういう人たちが交通渋滞を起こしている。大災害でも社長に対して忠誠を尽くす態度は立派で、忠誠無比なる日本人だと思いますが、感心できることではありません。まず、これをやめるべきです。自分を守るべきなのです。
2番目の「互助」ですが、これは具体的にいうと、昔でいう「隣組」のことを指します。つまり、お隣さん同士が助け合うことです。
<台風・行方不明者を捜索する自衛隊員>
台風21号の影響による土砂災害で倒壊した家屋付近で、行方不明者の捜索に当たる陸上自衛隊員ら(三重・宮川村滝谷)
(写真提供:陸上自衛隊久居駐屯地。なお同写真およびキャプションについて、時事通信の承諾なしに複製、改変、翻訳、転載、蓄積、頒布、販売、出版、放送、送信などを行うことは禁じられています)
また阪神大震災の例になりますが、あの時、生き埋めになった人と掘り起こされた人に対して、「誰に掘り起こしてもらいましたか」という事後調査を行いました。すると、60%が「家族」と「隣人」と答えた。このことからも「隣組」がいかに大切かがわかると思います。
「互助」の最も大きな例は、さっき石原都知事がおっしゃった「首都圏FEMA(連邦危機管理局)」です。これは、1都3県4都市が協定を結んで、8都県市の垣根をなくしてしまおうじゃないかということで誕生しました。国はいくらいってもやってくれないから、首都圏の地方自治体がお互い助け合う「隣組」の精神で手を結びましょうというわけです。
そうすると、仮に東京直下型地震みたいな非常事態があった場合には、協定を結んだ自治体の警察官などを都知事が災害対策に直接指揮することができます。
埼玉・千葉・神奈川の各県にはそれぞれ、およそ1万人の警察官がいいます。そして協定を結んだ地域では8万人の警察官がいることになります。また、消防官は1万5000人いて、消防団は15万人います。そして、自衛隊が最強の空挺隊をはじめ1万5000人いるわけです。つまりおよそ20万人の実働部隊を都知事が掌握することができるわけです。これが「互助」で可能となったのです。
最後になりますが、「公助」というのは、自衛隊や海上保安庁、警察、消防が国の指揮で動くことです。「公助」ももちろん大切ですが、危機管理の観点からは、自分でできることを最大限行う「自助」と、住民にとってより身近で素早い対策が行える「首都圏FEMA」のような「互助」の2つがより重要だと私は思うわけです。
国よりも地元自治体の方が素早く動ける
石原:
今、すべての行政システムは、「危機」に対しては非常に脆弱(ぜいじゃく)というか、現実性がない。だから、私は佐々さんにも助けていただいて「首都圏FEMA」を作ったわけです。
やってみてわかったことは、事件、事故、災害などが起きた時には、地元の自治体が対策に動く方が、国よりもよっぽど素早く動けるということです。
これまでは例えば、東京に大きな問題が起こった時には、内閣が危機管理室となり、全ての対策行動は、その室長の下で行う仕組みになっています。管理室への連絡網が整備されていますが、起こった場所が東京から離れていた場合には、対応が後手後手に回ってしまう可能性がある。
だから、茨城県や宮城県や福島県なんかで災害が起こった時には、場所によっては、隣の県の県庁のほうが、よほど有効に素早く動けたりするわけですよ。しかし、これまで、そういうことに対応できるシステムがなかったんですよ。
仮に東京都で問題が起こって、一番その現場に近い神奈川県や千葉県などの他県に連絡をして協力を仰ごうというとき、どこに連絡すればいいのか、そういうネットワークがない。だから、首都圏FEMAを作ってみて、こうしたネットワークと連絡網を構築、確認できたのが一番の収穫だったわけです。
この連載のバックナンバー
- 世界標準のセキュリティを日本市場に (2008/09/09)
- 新型インフル対策、地方の現状・世界の状況 (2008/08/08)
- H5N1型という“敵”に日本が採るべき策 (2008/05/16)
- 新型インフルエンザの“リアル”を語ろう (2008/03/28)
- 家庭の教育力が、子どものインターネットとの付き合い方を左右する (2007/05/29)