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暮らし

ワクチン接種で減らせる乳幼児の細菌性髄膜炎―先進国中最も遅れている我が国の対応

高畑紀一2008/10/13
我が国では毎年約1,000人の子どもたちが細菌性髄膜炎に罹患しているが、その起因菌としては、インフルエンザ桿菌b型および肺炎球菌が9割を占める。両者のワクチンは世界各国で承認されているが、日本ではまだで、先進国中ただひとつの未承認国である。早期に承認し、ワクチンの定期接種化で子どもたちを守れるようにする努力が必要だ。
日本 医療 防災・復興

 細菌性髄膜炎という疾病をご存知だろうか。何らかのきっかけで細菌が脳を覆う髄膜に入り込み炎症を起こす疾病だ。我が国では毎年約1,000人の子どもたちが罹患していると推計されている。

 細菌性髄膜炎は主な初期症状が発熱、嘔吐、下痢等であり、風邪や急性胃腸炎等のありふれた疾患との鑑別が非常に難しい。また、症状がひとつのみといった症例も稀ではなく、ゼロ歳児の場合は初めての発熱というケースも多い為、小児科医にとって初期の段階で細菌性髄膜炎との診断を下すことは容易ではない。一方で細菌性髄膜炎の病状は急速に悪化する。「一晩様子を見ましょう」と帰宅させた患児がその夜には救急搬送されるという事態も十分にありうる疾患だ。

 細菌性髄膜炎は重篤な予後をたどる症例も少なくない。起因菌の種類によって差異はあるものの、概ね5%の患児が死亡、25%の患児が神経麻痺、難聴、水頭症等の後遺症を負う。治療は抗生物質の投与が中心となるが、昨今、耐性菌の増加が指摘されており、治療上の大きな懸念となっている。

 このように、早期発見が難しく、かつ、病状が急速に進行し重篤な予後の可能性の高く、耐性菌の増加が指摘される細菌性髄膜炎だが、有効な対策が存在する。それは「ワクチンによる予防」だ。我が国の乳幼児における細菌性髄膜炎の約6割は「ヒブ(Hib=Haemophilus influenzae type b:インフルエンザ桿菌b型)」が、約3割は「肺炎球菌」が起因菌であり、この二つの細菌が約9割を占めると推計されている。そしてヒブにはヒブワクチン、肺炎球菌には小児用肺炎球菌ワクチンが開発され、世界的に使用されているのだ。

 WHO「ワクチンにて予防可能な疾患による15歳未満児の死亡(2000年)」によると、上位より麻疹(はしか):約78万人、ヒブ感染症:約46万人、百日咳:約30万人、新生児破傷風:約19万人となっており、ヒブ感染症は麻疹に次いで2位だ。疾患の重篤性、ワクチンの有効性や安全性を勘案した上で、WHOは1998年に世界各国に向けてヒブワクチンの接種を勧告している。そのためヒブワクチンは既に世界100カ国以上で承認され94カ国で定期接種化されている。同様に小児用肺炎球菌ワクチンも世界80カ国以上で承認されている。アメリカでは定期接種により発症数が1/100となるなど、これらのワクチンを導入した国々では細菌性髄膜炎の発症は劇的に減少している。

 ところが、驚くべきことに我が国ではこのヒブワクチンも小児用肺炎球菌ワクチンも発売されていない。ヒブワクチンは「アクトヒブ」が昨年1月に薬事法承認を受けたものの、発売には至っていない。小児用肺炎球菌ワクチン「プレベナー」は承認申請がなされたものの、薬事法承認までにはまだまだ時間がかかることが予想されている。WHOの推奨以来10年の歳月が経過した現在、ヒブワクチンが発売されていない国は先進国といわれる国々では日本だけ、東アジアでは日本と北朝鮮だけという状況だ。

 アメリカから日本に研修に来た医師が、自国では診たことのない細菌性髄膜炎の症例を目の当たりにし驚いていた、とのエピソードさえある。彼我の違いを端的にあらわしているといえよう。ワクチン接種によって細菌性髄膜炎が「過去の病」となった国では、小児科医であっても症例に出くわすことがなくなっているのだ。翻って我が国では、WHOの勧告からの10年間、他の先進国なら防ぐことが出来た細菌性髄膜炎によって、500名以上の子どもたちが命を失い、2,500名以上の子どもたちが後遺症を負ったことになる。

 私見では、日本でワクチン承認が遅れている理由として、
 (1)我が国の薬剤・ワクチンの審査、承認システムの問題(人員不足、治験制度の不備、欧米と異なる基準等)
 (2)生物製剤(ワクチン)に係る過去の事件(HIV、肝炎等)による慎重姿勢など、があると考える。

 この状況に、疲弊を指摘される夜間・休日診療を担う小児科医たちからは「細菌性髄膜炎の可能性を念頭に診察せざるを得ず、過度な緊張を強いられている」という。実際、「県立柏原病院の小児科を守る会」が発行しているフローチャートにおいても、「発熱・嘔吐・頭痛」の3つが揃った場合は、細菌性髄膜炎の可能性があると受診するとしている。「定期接種されている国では、ワクチンの接種歴を確認して『接種あり』なら翌日受診を促すこともできる」との意見もある。

 ワクチンで減らすことの出来る細菌性髄膜炎。早期の定期接種化がで、親たちの不安を取り除き、小児科医の負担を軽減し、何よりも、子どもたちを守れるようにすることが望まれる。

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