◆乳児に死亡例
百日ぜきは、短いせきが連続的に起こり、息を吸うときに「ヒュー」という音が出る典型的な発作が特徴。原因は百日ぜき菌で、せきやくしゃみの飛沫(ひまつ)で感染する。その感染力は、はしかに近く極めて強い。
国立病院機構福岡病院(福岡市南区)の岡田賢司・小児科部長によると、重症化しやすい乳幼児では、せきの発作で息が吸えず、低酸素脳症などで死に至る例も年に数例報告されるという。このため、小児科医は生後3カ月以降なるべく早く予防接種を受けるよう呼び掛けている。
1970年代半ばにワクチン接種後の死亡事故があり、接種率が落ちて罹患(りかん)率が上昇した時期もあったが、副作用の少ないワクチン開発以降は再び接種率が向上。現在の予防接種法による無料の定期予防接種では、ジフテリア、百日ぜき、破傷風の三種混合(DPT)ワクチンを使用し、生後3-12カ月に3回、その1年-1年半後に1回接種。計4回で十分な免疫がつくとされ、流行規模は縮小してきた。その数値に近年、異変が現れ出した。
◆データに異変
国立感染症研究所(東京)によると、全国約3000の小児科定点医療機関から報告された今年の患者数は、9月21日までの集計で5000人を超す。比較可能な2000年以降の年間報告数を上回っている。4歳以下の患者は減少しているが、20歳以上の割合が激増。00年の2.2%から今年は40%近くとなり、百日ぜきは「大人の病気」と化した。
この数値はあくまで小児科からの報告データ。岡田医師が「氷山の一角」と話すように、成人の患者はさらに多いとみられる。岡田医師が07年5月-08年2月、呼吸器内科も含め「長引くせき」で受診した成人を調べたところ、69人中52人が遺伝子診断や血液検査で陽性。高割合で感染が確認された。
また、これらの患者が病院を訪れたのは、せきが出始めて平均約5週間後。すでに「回復期」で、他人に感染させた後だという。岡田医師は「大人は比較的軽症で終わるが、心配なのは、知らないまま感染源になって職場などで広がり、家族感染でワクチン未接種の赤ん坊が発病すること」と懸念する。
◆早期の治療を
なぜ大人に流行するようになったのか。感染研などによると、ワクチンによる免疫力は年月とともに低下する。加えて「昔に比べて患者が減少したことで、菌に接して免疫力を高める『ブースター効果』を得る機会もなくなったことが主因」という。
同様の現象が起きた米国では06年から、思春期・成人用の三種混合ワクチンを11-13歳時の二種混合ワクチンに替えて推奨。欧州でも1990年代後半から対策が講じられているという。
国内でも11-12歳で接種する二種混合(DT)ワクチンを三種に切り替える臨床試験を開始した。岡田医師らは「早期に結論を出し、接種を始める必要がある」とし、成人用ワクチンの検討の必要性も訴える一方「症状がある場合は早めに診察を受け、マスクをつけるなど感染防止に努めてほしい」と話している。
【写真説明1】岡田賢司医師
【写真説明2】小児科定点約3000機関からの百日ぜき報告数
【写真説明3】百日ぜきの年別・年齢群別割合
=2008/10/12付 西日本新聞朝刊=