「息子は『人のためになりたい。人を守りたい』と海上自衛隊に入ったのに…」。海自特殊部隊の養成課程で集団暴行を受けて死亡した三等海曹(25)の父親(51)は無念さをかみしめ、「訓練中の事故ではなく、重大な体罰事件だ。(海自側の説明は)全く納得できない」とやり場のない憤りをぶつけた。
二人兄妹の三曹は、愛媛県内の高校を卒業して海自に入隊し、潜水艦部隊などに勤務した。「守らなければならない秘密があったのでしょう。家族にも仕事のことは一切話さなかった」と父親は振り返る。
ジム通いでトレーニングを積み、海自唯一の特殊部隊「特別警備隊」の養成課程に二度目のチャレンジで合格した三曹。三十人近くいた同期は、厳しい訓練でふるいにかけられ、二年目の応用課程では二十人以下に減っていたという。
「親に心配をかけまいと思ったのか、何も言わなかった」と話す父親。三曹が亡くなった後、親しい友人には生前、訓練に明け暮れる日々の悩みを打ち明けていたことを知った。
意識不明で病院に担ぎ込まれたのは九月九日。二日後には同課程をやめ、十八日付で潜水艦部隊に戻るはずだった。防具を着けていなかった腕や背中にはあざがあり、意識が戻らないまま息を引き取った。
「異動の『はなむけ』と称して脱落者の烙印を押し、制裁と見せしめの意味を込めた集団による体罰だ」。海自側が申し出た部隊葬を断った父親は「真実を明らかにしてほしい」と静かな口調に怒りをこめた。
|