米政府が北朝鮮へのテロ支援国家指定の解除に踏みきった。北朝鮮の核問題進展を促す決定だというが、本当に必要だったのだろうか。
米ブッシュ政権は6カ国協議合意に基づいて北朝鮮が核施設を無能力化し、核計画を申告する見返りにいったんはテロ支援国家指定の解除を約束した。6月末には議会に解除を通告したが、北朝鮮が提出した核申告書は不完全な内容だった。厳格な検証が不可欠だったのに北朝鮮は拒み、米側は解除を延期していた。
米側が方針転換したのは6カ国協議の米国首席代表であるヒル国務次官補が今月初めに訪朝し、北朝鮮側と検証体制で合意したからだ。
合意は北朝鮮が申告した核施設の検証が中心で、未申告施設の検証は「相互の了解」が必要になる。北朝鮮が軍事施設などへの立ち入りを認めるとは思えず、高濃縮ウラン計画や核拡散疑惑の実効的な解明は難しい。米側がかなり譲歩した内容だ。
ヒル次官補の訪朝は北朝鮮側が求めた。ブッシュ政権は来年1月で任期が切れる。新政権が誕生すれば米朝協議も仕切り直しになる。今のうちに取れるものは取っておこうという北朝鮮の意図は明白だ。任期中の外交成果を焦っていたブッシュ政権の足元を見透かしたともいえる。
北朝鮮は指定解除が延期されて以降、対抗措置として核施設の無能力化作業を停止し、再稼働に向けた復旧に着手した。現地で活動していた国際原子力機関(IAEA)要員の核施設立ち入りも禁止するなど、米国への揺さぶりを強めていた。
放置しておけば、核危機が再燃しかねない。指定解除は北朝鮮を6カ国協議の場に戻し、核問題解決を促すために不可避だったとの見方もあるが、次期政権の対北朝鮮政策を縛る妥協はすべきではなかった。
北朝鮮は「核」の脅しで相手の譲歩を迫る常とう手段がなお有効だと確信したはずだ。これでは北朝鮮が核兵器を手放すはずがない。6カ国協議が再び始動しても、北朝鮮は都合が悪くなればまた、瀬戸際戦術に出るのは確実である。
米政府の決定は日米同盟の信頼関係も傷つけかねない。日米の北朝鮮に対する脅威感覚は明らかに違う。核兵器やミサイルの脅威を振りかざし、日本人を拉致した北朝鮮をテロ支援国家から外すことは容易に納得できない。
拉致問題で北朝鮮は権限を持った調査委員会を立ち上げ、今秋の調査終了を目指すと約束したが、何ら進んでいないのが実情だ。米政府は日本の立場にも配慮すべきだった。