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社説:子供の体力 指導者層の充実が急務だ

 子供たちの体力低下がいわれて久しい。07年度の文部科学省の体力・運動能力調査(スポーツテスト)を見ても、走ったり、跳んだり、投げたりの基礎的な力は「依然低い水準」にあるという。

 だが、明るい兆しもある。中学生以上では向上傾向も確認された。指導の成果と専門家はみるが、深く分析し、より効果を高めて普及させる方策を望みたい。

 バブル景気直前の1985(昭和60)年。おおむねこの年をピークに子供の体力や運動能力は落ち始めたとされる。当時と今とでどのくらい差があるか。

 小学生で見ると、例えば、11歳のソフトボール投げでは男子33・98メートルから29・95メートル、女子20・52メートルから17・49メートルに。9歳の立ち幅跳びでは、男子158・53センチから145・48センチ。女子は85年には今回の男子を上回る147・30センチだったが、137・12センチになった。

 逆に体格は向上しているから、今の子は体は大きくなったのに昔に比べ不活発--。ともすればそんなイメージを持たれがちだ。あまり体を動かさない生活習慣とか、外遊びよりゲームとか、さまざまな複合要因が論じられてきた。

 ではこのままか、といえばそうではない。テストに新たな種目も加えたこの10年の推移をみると、小学生は大して変化はないものの、中学生以上に緩やかながら向上傾向を見ることができる。上体起こし、反復横跳び、往復持久走などだ。例えば、20メートルを往復する持久走で13歳の女子は、平均折り返し数50回そこそこが10年でほぼ60回に達した。

 背景としては、小学生に比べ、筋力が付いて運動成果が出やすい中学生以上に先生たちの指導効果が表れたという見方がある。また、スポーツ科学の知識や考え方が指導者の間に広まったともいわれる。確かに、以前に比べ「根性」一辺倒のしごきや、水分補給を禁じるような非科学的な指導は影を潜めつつあるようだ。そして、子供にも科学的な合理性に裏打ちされた指導こそ有効なことを、改めて証明しているともいえる。

 文科省は北京五輪の結果などを踏まえ、トップアスリート育成を強化すべく、ナショナルトレーニングセンターの拡充整備、ナショナルコーチの新設などを来年度予算の概算要求に盛り込んだ。それも大切だが、頂を高めるのはすそ野の広さであり、人や世代それぞれにスポーツに親しめ、向上を楽しめる環境である。

 学校や地域に体を動かす楽しさ、競技の達成感を伝える、適切な指導者層が拡充されることが不可欠だ。体育学校でもトップ級選手を養成するのと同様に指導者育成や指導法開発にさらに力を入れてほしい。

 「体育の日」を残した東京五輪から44年。スポーツ立国へのゴールはなお遠いが、着実に歩を進めたい。

毎日新聞 2008年10月13日 東京朝刊

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