米国が北朝鮮をテロ支援国リストから外した。既定路線とはいえ、また北朝鮮の「ゴネ得」という構図だ。健康悪化情報に続き久々の軍部隊視察が報じられた金正日(キムジョンイル)総書記の指揮かどうか不明だが、北朝鮮特有の外交戦術が奏功したという印象が強い。
ライス米国務長官が指定解除のシナリオを初めて明らかにした今年6月以来、私たちは重ねて慎重さを求めてきた。北朝鮮が本気で核廃棄を視野に入れている兆しは見えず、できるだけ時間稼ぎをしながら利益を得ようという狙いが歴然としていたからだ。
その意味で、核施設の無能力化が大幅遅延し、核計画の検証手順があいまいなまま当初8月11日に予定された解除を米国が先送りしたのは適切であった。
怒った北朝鮮は核施設無能力化を中断し、逆方向の復旧作業を進めた。今月初め、ヒル米国務次官補が訪朝し、核計画検証について基本合意したが、その後、北朝鮮は寧辺(ニョンビョン)で監視活動中の国際原子力機関(IAEA)要員に核施設への立ち入り禁止を通告した。ミサイル発射や核実験準備の兆候もあると伝えられる。
こうした露骨な揺さぶりに米国が屈したとは思いたくない。少なくとも北朝鮮を6カ国協議の枠内に留め置き、時間はかかっても核廃棄に向けて前進しようという意図から、テロ支援国家指定を解除した。そういう解釈は可能だろう。
しかし、大きな脅威を感じている日本の国民世論を背景に言えば、解除の理由となった米朝合意には「抜け道」が多すぎる。例えば未申告施設への立ち入りには相互の同意が必要という点だ。北朝鮮は93~94年の第1次核危機の際、核廃棄物貯蔵用と推定される2施設をIAEAに申告せず、「軍事施設だ」と強弁して査察を拒み抜いた。ここを調べられたら隠したプルトニウムの抽出量が分かってしまうからだろう。この種の未申告施設への立ち入りに北朝鮮が同意するとはとても思えない。
また、この指定は日本人拉致問題解決のための日朝協議に北朝鮮の参加を促す役割も果たしてきた。解除でそのテコが失われる。日本が半年間延長した独自の対北朝鮮制裁の効果を薄める結果にもなりかねない。
こうした悩ましさを解消できる近道は残念ながら見当たらない。日本政府は当面、6カ国協議の枠組みを通じて北朝鮮の核計画の厳密な検証を求め続けるべきだ。他の参加国から北朝鮮へのエネルギー支援などに加われという声が高まる可能性もあるが、軽々しく妥協しない従来の姿勢を堅持せねばならない。
一方、米国は北朝鮮が勝手な理由をつけて検証に協力しないような場合、直ちにテロ支援国家指定を復活させるべきだ。北朝鮮の「抜け道」を封じる努力を怠ってはならない。
毎日新聞 2008年10月13日 東京朝刊