米国が北朝鮮に対するテロ支援国家の指定を解除した。米朝両国の国交正常化に向けた大きな転機という見方もできようが、拉致問題を抱える日本にとっては釈然としない決定だった。
北朝鮮が寧辺の核施設の無能力化作業を中断し、再稼働に向けた動きを見せたのは、明らかに脅しだった。
にもかかわらず、ブッシュ政権が譲歩せざるを得なかったのは、任期切れが来年一月に迫るなか、これまで積み重ねてきた六カ国協議が無に帰することを恐れたからだ。
指定解除の条件となった核無能力化の検証計画も大きく後退した。対象は申告済みの核施設など限定的で、未申告施設や高濃縮ウランによる核開発、シリアとの核協力問題は先送りされた。
北朝鮮は、昨年の六カ国合意で核開発計画に関する「完全かつ正確な申告」を約束したが、米国が求めた「すべての核関連施設を対象にした国際的基準に沿った検証」を拒み続けた。
明らかな約束違反だが、それを容認した米国にも疑問を抱かざるを得ない。
検証計画の合意とテロ指定解除で、形の上では非核化プロセスの第二段階をクリアした。今後は核廃棄に向けた最終段階の協議に入る。
過去の北朝鮮の対応を見ても、すんなり核廃棄に応じるとは考えにくい。協議参加国に軽水炉提供など多大な見返りを求めてくると推測されるが、安易な譲歩は絶対にするべきではない。実効のある交渉を望みたい。
指定解除は日本にとって痛手となりそうだ。拉致問題を解決に導くための有力なカードを一枚失ったからだ。
北朝鮮は八月の日朝実務者協議で拉致再調査に向けた調査委員会の設置と今秋までの調査終了に合意しながら、九月には「日本の新政権の立場を見極める」として、一方的に調査委設置の延期を通知してきた。
不誠実な対応に、日本は当面、独自の制裁措置を交渉のカードに使うしかない。
日本はまた、六カ国合意に基づく重油百万トン相当のエネルギー支援の分担を拒んでいる。拉致問題の進展がない限り、こちらも応じるわけにはいくまい。
指定解除を受け、北朝鮮は早速、重油支援を要求してきた。日本の分担分とされる二十万トンをほかの国が肩代わりできるかどうかも焦点になりそうだ。
日本は苦しい立場に立たされる可能性もあるが、関係各国の理解を求めながら、北朝鮮に対しては毅然(きぜん)とした態度で交渉に臨むべきだ。
自らの主張を変えず、相手の譲歩だけを求める北朝鮮のやり方をこれ以上許してはならない。