自宅車庫を改造した小さな店は鉄道模型でいっぱいだ。東京都武蔵野市吉祥寺本町の住宅街にある「歌川模型店」。栃木県から来たという団塊世代の男性は、1枚230円する組み立て式電車模型の型紙を買うと満足そうな笑みを浮かべた。
「主人が考えた商品目当ての方が多いのよ」。店主の歌川歌子さん(85)は目を細めた。
終戦後、シベリアから復員した夫勝吉さんと吉祥寺駅近くの闇市「ハーモニカ横丁」に店を開いた。最初は筆立てや紙飛行機。工作好きの勝吉さんが考案した80分の1縮尺鉄道模型の型紙を扱うようになると、店は子供たちの歓声であふれた。
勝吉さんは日記に、模型のアイデアや図面を書き起こし、商品を次々と世に出した。4年前、84歳で亡くなる前日まで働いた。歌子さんは食事を賄いレジを打った。晩年、勝吉さんは茶菓で一息入れながら、よくこうつぶやいた。「店を開ける。平凡なのが幸せなんだ」
3年前、歌子さんは横丁の店をたたみ、今の店に移った。定年ごろの男性客が引きも切らない。「子供時代、これがほしくて」。彼らは異口同音に懐かしむ。
「主人も喜ぶし、丈夫なうちはね」。歌子さんの平凡な日々は続く。【宍戸護】
毎日新聞 2008年10月4日 東京朝刊
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