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〈憲法60年。私たちはこう考えます〉

世界のための「世話役」になる

1.〈総論〉地球貢献国家


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 ちょっと、未来を思い描いてみよう。

 世界の人口はいま約65億人。早ければ2045年ごろには100億を突破する。それに応じて経済も膨らむ。果たして地球は耐えられるだろうか。

 もとよりエネルギーや食料、水などの不足が心配なのに、地球の温暖化が恐怖に拍車をかける。このままいくと、2020年代には水不足が数億人を直撃するといわれる。その先、多くの生物種が絶滅し、農産物の生産性が落ちて飢餓の恐れも出てこよう。

 地球は狭くなった。国境を越えて人やカネやモノの移動が自由になった分、テロや麻薬組織や感染症なども移動しやすい。「9・11」はその典型だった。

 米国の一極支配は終わり、欧州統合の拡大や中国、インドの台頭をはじめ世界の多極化が進むだろう。世界中の国や企業や人々が多様なつながりを増やし、影響を及ぼしあう。そんな時代だ。

 国と国のエゴはぶつかり合うが、過去のどの時代とも違うのは、狭くなった地球の命運を考えずして、どの国も「国益を守る」ことができなくなることだ。目先の国益を考えて領土や資源を奪い合ったり、生態系を破壊したりしていれば、自分の首を絞めてしまう。

 実は、そんな時代は日本の特性を生かすチャンスでもある。もともと資源が乏しい中で苦労や工夫を重ね、通商国家として富を築いてきた国だからだ。

 それなら、いっそ日本は「地球貢献国家」を目指すのがよい。

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 地球貢献国家。地球大のさまざまな課題をしっかり考え、国際社会に率先して貢献する。それを通じて日本の国益を確保する。上の図がその全体像だ。

 経済大国を任じてきた日本も、中国やインドの急成長でパワーは相対的に小さくなりつつある。だが、危機感を募らせて狭い国益にこだわるなら、逆に影響力がしぼんでしまう。実りは少ない。

 むしろ日本は、多くの国が利益を共有できる「国際公益」の広がりを求め、そこから生まれた成果を享受していく方が賢い道だ。

 日本が得意とするエネルギーの「効率利用」を中国、インドなどに広めれば、人々に喜ばれ、地球環境にも貢献する。日本のビジネスチャンスも膨らむ。

 内戦などで破綻(はたん)した国では「法の支配」が壊れる。テロや麻薬、武器密売などの犯罪組織が拠点を置き、そこから脅威が世界に散らばる。感染症も広がりやすい。「法の支配」の定着が何よりであり、それには日本の働きが役立つ。

 途上国への援助を増やし、これから国際機関に日本人をどんどん送り込む。海外で活動するNGOを応援し、国際公益を重んじる企業とも連携する。いわば「国際公益の世話役」を目指すのだ。

 アジアでは中国やインドの大国化が進み、北朝鮮は核実験もした。ナショナリズムも台頭する。きれいごとではすまない部分だが、煽(あお)られてはいけない。

 自衛隊と日米安保条約で安全を確保する。同時にアジアで争いがおきないよう、日米中の互恵関係や東アジア共同体づくりを進める。不信の構造化ではなく、「信頼の制度化」がアジアの共通利益であり、日本の国益でもある。日本の周辺諸国との領土問題も、そうした発想のもとで解決をはかっていく。

 世界のための「世話役」となるうえで大事なことがある。国連を軸に、問題解決に役立つ「国際公共財」を充実させ、効果的に使うことだ。集団安全保障や自由貿易、地球環境の保全、人道主義のための制度や機関、条約など。下の図にあるとおりである。

 これらを育てる世話役には、大国主義に陥らず「法の支配」を重んじる日本のような国こそふさわしい。「公共財」を組み合わせてうまく使いこなし、平和と経済発展の持続をめざす。それを日本外交の「Jブランド」としていきたい。

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 そんな道を歩むうえで、日本国憲法は貴重な資産である。戦争への深い反省から日本は軍事に極めて抑制的な道を歩んできた。根底は国際主義を重んじる前文と、平和主義を打ち出した第9条だ。

 9条には、二度と侵略の愚を繰り返さないという宣言の意味がこもっている。とりわけアジアでは「9条を持つ国」の安心感が役に立つ。日米安保体制は大事だが、米国との距離をうまく保つうえでも、9条は有効な防波堤だ。9条を変えること、とくに自衛隊を名実ともに軍隊にすることは決して得策ではない。

 だが、憲法の下で自衛隊をきちんと位置づけることは望ましい。そのために、平和と安全保障に関する準憲法的な「基本法」を作ることを提案したい。自衛隊の基本的な性格・役割を明確にし、同時に歯止めをかけておくためだ。

 前文と9条の精神に基づいて専守防衛を貫き、他国の戦争に加勢する集団的自衛権は行使しない。唯一の被爆国として「非核」を貫く。文民統制も大事だ。そして、国連主導の国際的な平和構築活動には、軍隊を名乗らぬ自衛隊の持ち味を守り生かす形で参加していく。

 基本法はこれを柱にするのがよい。これは地球貢献にも通じることである。

国際公共財って何? その使い方は?


■制度や条約で平和を手に入れる

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 ここで言う国際公共財とは、資金や人材を出す主要国だけでなく、他の多くの国、人々も利益を受ける国際的制度や条約をさす。日本が国益と国際公益を同時に追求するには、国際公共財を上手に活用する必要がある。

 例えば、日本の安全にも世界の安定にも重要な核拡散防止では、NPTを生かして新たな核保有国の登場を防ぐ。同時に北朝鮮には6者協議で核廃棄を求めていく。

 国際テロでは、テロ防止関連条約の締結をより多くの国に促し、途上国での対策実施を日本が支援すれば、日本にも世界にもプラスになる。

 温暖化防止の条約を日本が守り、他国が歩調を合わせてくれれば、世界の多くの人々の暮らしを救うことになる。

 日本はこれまでにも多くの国際公共財で主要な役割を演じてきた。グローバル化が進む世界で国際公共財を増やし、その効用を高めることは、「地球貢献国家」として日本の大きな役割だ。

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