【ソウル=黒田勝弘】北朝鮮が最近、韓国の民間団体が空中から送り込んでいる“金正日批判”の宣伝ビラに猛烈に反発、韓国政府に中止を要求するなど強硬姿勢に出ている。この背景として「金正日総書記の重病説をきっかけに北朝鮮内で民心の動揺が広がっているためではないか」(脱北者筋)とする見方があり、関心を集めている。
北朝鮮は先ごろ突然、開催を提案してきた南北軍事実務会談(2日)の際、もっぱらこの問題を取り上げ、韓国からの宣伝ビラを激しく非難。宣伝ビラが続く場合は南北共同事業の「開城工業団地」に対する規制・制限など報復措置を取ると警告している。
この“脅迫”に対し韓国政府の統一省や「開城工業団地」で操業する韓国側の企業・団体は早速、宣伝ビラを通じ金正日体制に対する批判活動を展開している民間団体に自粛を訴えたが、民間団体の方では「政府がわれわれの活動をやめさせる法的根拠はない」として続ける方針だ。
ビラ活動を行っているのは脱北者団体やキリスト教系の人権団体などで、南北境界線付近からビラを積んだ大型風船を飛ばし、北朝鮮上空でばらまかれようになっている。10日にも米人権団体の活動家らとともに、西海岸の海上からビラ10万枚を風船で北朝鮮に送り込んだ。
ビラの内容は北朝鮮の体制批判が中心だが、中には日本で出版された金総書記の料理人だった日本人の手記を引用し金総書記のぜいたくぶりを記したものや、外部世界で流布されている「父・金日成主席は金総書記によって殺害された」といった“憶測”なども含まれている。
こうした北朝鮮向けの宣伝ビラは、親北だった盧武鉉前政権時代は当局によって抑えられていた。また南北境界線でお互いを非難し合うスピーカーなどによる宣伝合戦は、金大中・元大統領と金正日総書記の首脳会談(2000年)の後、お互いに中止している。
北朝鮮側が宣伝ビラの中止を異例ともいえる強硬さで要求していることについて、脱北者団体の関係者らは「それだけビラの効果が出ている証拠」と自己評価している。とくに国際社会で大きな関心を集めている「金総書記重病説」については、ウワサが口コミなどを通じ北朝鮮社会に広がり「民心の動揺を招いているようだ」とみている。
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