原油価格が下げ足を速めている。世界の金融市場の混乱で資金力を低下させたファンドが投資を手控え、景気減速による需要の急減も下落を誘っている。値下がりのメリットを浸透させる好機だ。
国際指標となるニューヨークのWTI原油先物相場は世界的な株価急落で景気後退への懸念が一段と強まり、一バレル=七七ドル台に急落した。七月に記録した史上最高値、一四七ドルに比べ半値近くの値下がりだ。
原油高騰の引き金となった投資ファンドは株価急落を機に、投資家の解約請求に備えて手持ちの資金を増やす制約が生じ、市場から遠ざかっている。
需給面では世界の原油供給の四分の一をのみ込む米国のガソリン販売が一時期の原油急騰によって前年に比べ7%も減り、自動車から電車など公共交通機関に乗り換える現象さえ起きているという。
日本は八月の景気動向指数が過去最大の下げ幅を記録した。消費者物価は石油製品に加え、穀物高による食料品の値上げで前年同月に比べ2・4%上昇、一九九二年以来の高い伸びとなった。物価上昇は家計を防衛に走らせ、スーパーなどの経営を萎縮(いしゅく)させている。
ここは原油値下がり分を最終価格に反映させ、企業から消費者への速やかな還元を求めたい。原油下落は金融取引が収縮し、景気減速の長期化が避けられない中での唯一ともいえる光明だ。産油国に減産の動きが出ているが、直ちに反騰に転じるとの観測は少ない。
新日本石油、出光興産は原油の値動きを短時間でガソリンやA重油などに反映させるため、卸値の決定を月一−二回から毎週へと変更した。東京工業品取引所の先物価格などを基に平均価格を算出し、翌週の卸値を決めている。
ガソリンの店頭価格は原油の大幅な下落に見合っているのか。透明性の高い情報公開が不可欠だ。
漁船用のA重油が値下がりすれば漁業関係者も一息つくだろう。電力・ガス業界は過去の高値原油を基準に値上げを検討している。値上げ幅の圧縮を望みたい。
原油が一バレル=五〇ドル下がると産油国への支払いは年七兆−八兆円減少する。国会で審議中の原油高対策を柱とする補正予算案の一兆八千億円をはるかにしのぐ規模だ。
値下がりの還元は新たな財政負担を必要としない。政府は企業にメリットを吐き出させ、その恩恵が広く末端にも行き渡るようきめ細かな目配りをすべきだ。
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