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NIKKEI NET

社説 米国は大胆な措置で危機の連鎖防止を(10/12)

 ワシントンで開いた7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は、公的資金を使って金融機関の資本を増強するなど、5項目の行動計画を発表した。世界的な株価暴落にせかされた面があるとはいえ、日米欧各国が金融危機の解決へ向け、結束して取り組む姿勢を打ち出したことは評価できる。

収まらぬ市場の不安

 重要なのは、世界の市場を覆う不安を和らげるのに足る具体策を速やかに打ち出すことだ。とくに危機の震源地である米国が金融システムの安定化につながる大胆な措置を迅速に取ることが不可欠である。

 G7が合意した行動計画は冒頭で「現在の状況は緊急で例外的な行動を必要としている」と強調。そのうえで、金融機関への公的資金の注入のほか、重要な金融機関の破綻防止や金融市場の流動性確保のために必要なあらゆる措置を取るとしている。預金者が銀行に不安を持たないよう、預金保険制度を強固なものにしておくこともうたっている。

 「必要に応じてマクロ政策手段を使う」ことも表明し、財政政策や金融政策を活用して、金融危機で打撃を受けた世界経済を支えていく姿勢も示した。

 今回の行動計画は危機の解決に必要な政策の柱をおおむね網羅している。それを肉付けした実効性のある具体策を、いかに素早く打ち出していけるかが問われている。

 最も注目されるのは米国の対応である。

 ポールソン米財務長官は10日、米金融機関に公的資本を注入する考えを正式に表明し、対象についても「幅広い金融機関に開かれたものにする」と語った。先に成立した米金融安定化法で活用が認められた最大7000億ドル(約70兆円)の公的資金は、不良資産の買い取りだけでなく、金融機関の株式の購入にもあてられることになる。

 不良資産を買い取るだけでは、金融機関の損失が一段と膨らみ、自己資本不足に陥る恐れがあった。公的資金でこれを補えば、この心配が薄れる。米国の金融機関の経営健全化に必要な車の両輪がようやくそろうことになる。

 どのくらいの額を公的資金注入に投じるのか、いつ、どの金融機関から注入するのかといった具体策をなるべく早く示し、収まりを見せない市場の不安を和らげる必要がある。

 ただ、金融機関同士の資金のやりとりがほとんど止まった現在の状況を考えると、金融機関に対する公的資金の注入だけでは決め手にならない可能性がある。危機の連鎖を防ぎ、問題を解決に導くには、より大胆な施策も必要になってくるのではないか。

 例えば、金融機関の債務を一時的に国が保証する措置だ。英国は最近、大手銀行に対する公的資金の注入と併せて、銀行が新たに発行する債券を一時的に保証すると発表した。日本も1997年に三洋証券が破綻した際に、当時の三塚博蔵相が銀行間市場の債権を保護すると表明したことがある。

 G7でもこうした措置は検討課題にのぼったものの、米国は消極的だったと伝えられている。広範囲に実施すれば「金融市場の国営化」とも言える劇薬になるが、緊急措置として一定の条件下で実施することも考えられる。対応策が後手に回れば回るほど、劇薬の追加投入を迫られることになりかねない。

 米国と同様の金融危機に見舞われている欧州も、迅速な金融安定化措置が必要だ。

 ドイツが包括的な金融危機対策に動くなど、欧州各国は公的資金の注入をはじめとした対応策づくりを急いでいる。だが、国境を越えた資金のやりとりやビジネスが当たり前の欧州域内では、各国政府が解決策について足並みをそろえることも重要になる。

遅れれば不況深刻化

 米国発の金融危機は世界に広がり、金融だけでなく、経済全体の危機につながりかねない状況になっている。資金調達に苦しむ企業や個人が急速に増えているからだ。世界景気はすでに大幅に減速しつつあるが、信用収縮が強まれば、深刻な世界不況に突入する恐れがある。

 金融機関の資金調達さえままならない状況がこれ以上続けば、信用収縮が一段と悪化するのは必至だ。だからこそまず問題の根っこにある金融システムを安定化させねばならず、少しでも早い抜本的な解決策の実行が求められる。

 米欧に比べると金融システムが安定している日本にも金融危機の大波が押し寄せており、株価暴落や企業の破綻は人々の不安心理を高まらせている。政府・日銀は、日本経済や日本の金融市場の動向に細心の注意を払い、タイミングを逃さず、必要な措置を打てるよう構えておくべきである。

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