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主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が、これほど危機への対応力を問われたことはない。各国で先週続いた株暴落の連鎖を止められるか。世界の市場が注視していた。
G7が示した答案は、全文わずか27行という行動計画だった。そこに、金融機関への公的資本注入を核とした対応策を、簡潔に盛り込んだ。明確にメッセージを打ち出した点を大いに評価する。これで週明けの市場が落ち着きを取り戻すよう期待したい。
G7の焦点は、米国を公的資本の注入へ追い込むことだった。
金融市場への流動性の供給や金利引き下げといったG7が通常取り組む対策は、すでに先週のうちに終えていた。同時に、欧州各国が相次いで公的資本注入を打ち出し、「次は米国の番だ」という流れを作っていった。これらが功を奏したようだ。
米国はG7で、自国の金融機関について早急に資本注入などの措置をとることを約束した。
行動計画へ至る一連の論議で、金融危機への対応についての基本原則が整理されたといえよう。まず、公的資本注入の重要性を認識し、速やかに行動を取る。その際、G7各国は自国・地域の金融機関に責任をもつ。G7以外の国々が危機に直面したときには国際的な協力で対応する――。
主要な金融機関は国境をまたいで広く活動しており、各国の利害がからむ。資本注入を実行していく際には、これらを原則にすべきだ。
日本の姿勢も明確になった。G7以外の中小国や新興国に対し、国際通貨基金(IMF)が資本注入の原資を融資する新制度を提案した。その資金源に日本の外貨準備を融通する考えも示した。中国や中東など豊富な外貨準備をもつ国にも協力を求め、早急に実現させてほしい。
次の焦点は、米国が速やかに資本注入を実行できるかである。
ポールソン財務長官は、金融安定化法による最大7千億ドル(70兆円)を使って月内にも実施すると表明した。だが日本の経験からみても、資本注入は数多くの課題を伴っている。
当局がまず金融機関の内容を詳細にチェックして、資本をどれだけ注入すべきか把握する。注入するときには経営陣や株主に対して厳しく自助努力を求め、立ち直る見込みがない金融機関は公的資金で破綻(はたん)処理する。このために米国の当局は、主要銀行に対してだけでも特別検査を早急に実施することが必要なのではないか。
さらに、こうした経過を国民にくわしく説明し、理解を求めることが欠かせない。米国では法外な利益を得てきた金融機関に対し強烈な批判がある。国民の説得が危機脱出のカギになることを、米政府は肝に銘じるべきだ。
スポーツで流す汗が気持ちの良い季節になった。
国体が開かれた大分県で、11日から第8回全国障害者スポーツ大会が開かれている。今回は歴史的な大会だ。
精神障害者が正式競技に初めて参加した。男女混合のバレーボールに、全国の予選を通過したチームと開催県からの計7チームが出場し、優勝を争う。障害のある人たちのスポーツを通した社会参加がさらに広がるわけだ。
障害者スポーツの全国大会は身体障害者が一番早く、1965年に第1回が開催された。92年には知的障害者の大会が続いた。二つの大会は2001年に統合された。
精神障害者の間ではバレーボールなどが盛んだったが、そのころは全国大会もなく、参加は見送られた。
それでも関係団体や精神障害者自身の努力によって、01年にはバレーボールの独自の全国大会が開催された。02年からは全国障害者スポーツ大会のオープン競技となった。こうした積み重ねが今回の正式参加につながった。
02年につくられた政府の障害者基本計画が、精神障害者のスポーツは他の障害者に比べて遅れており、振興すべきだとしたことも参加を後押しした。
高知市を拠点とする龍馬クラブは、中国・四国ブロックの代表として出場した。01年に結成され、過去の大会で何度も優勝している強豪チームで、メンバーは職についている人もいれば、作業所などに通っている人もいる。
コーチ役の保健所の相談員らが、選手の体調にも気を配る。監督はボランティアで週1回の練習を指導する。
各地の大会に参加するには、飛行機に乗ったり、宿泊をしたりする必要がある。ふだん遠出することが少ないメンバーにとっては生活環境が大きく変わるが、仲間同士の助け合いもあって、乗り越えてきたという。
好きなスポーツをすれば、充実感が得られ、チームプレーでは人間関係を築く力も鍛えられる。全国大会に参加できるようになれば、なおさらだ。
そうしたことを、障害者もごく普通にできるように条件を整えるのがノーマライゼーションの考え方だ。その点で今回、精神障害者が全国スポーツ大会に参加する意味は大きい。
精神障害者のスポーツは少しずつ広がりを見せている。昨年秋、大阪府内の8チームが参加してフットサルの大会が初めて開かれた。
昨年は運営に協力したガンバ大阪が、今秋の大会では主催者になる。Jリーグのスポーツ振興支援費で、ガンバ大阪は月に2回、府内の精神障害者のサッカーの指導もしている。
スポーツで競い、感動することにおいて、健常者と障害者に違いはない。そうした思いを大切にして、「共生社会」への道を歩みたい。