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2008年10月12日

◎G7行動計画 果断な実行力とスピードを

 先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の行動計画は、焦点であった公的資金に よる金融機関への資本注入を明記し、世界的な金融危機に立ち向かう先進各国の強い決意を示した。「緊急かつ例外的な行動を必要とする」という現状認識は正しく、金融危機克服のための協調政策が一通り提示されたのはよいが、いま最も肝心なのは言葉よりも行動とその成果である。世界同時株安から世界同時不況という最悪の道をたどることがないよう、とりわけ金融危機の震源地である米国は果断に実行に移してもらいたい。

 金融危機には、信用収縮による資金繰りの悪化と金融機関の自己資本不足の両面がある 。資金繰りの問題は各国中央銀行の資金供給などでしのいでいるが、金融機関の資本不足の懸念が解消されないため、市場の動揺はいっこうに鎮まらない。たとえ公的資金で銀行の不良資産を買い取っても、そこで損失が生じ、資本不足に陥る恐れが強いからだ。こうした金融機関の経営不安と市場の不安心理の根を絶つには、公的資金による資本増強しかないことは、日本の経験からも明らかである。

 公的資本注入の実施には、まず不良資産をいくらで買い取るか、さらに対象の金融機関 をどんな基準で選ぶかといった難しい判断が伴う。税金を使っての銀行救済に議会や国民の抵抗はなお強いだろうが、公的資本注入は米国内さらには世界の金融システムそのものの安定化に不可欠なことを国民に理解してもらう必要がある。

 公的資金を投入するまで時間がかかり傷を広げた日本に学べば、実行のスピードも大事 である。金融危機の克服は時間との競争であり、実施段階でもたついては市場の不信はさらに深まろう。

 G7の行動計画に基づいて、日本も公的資金を金融機関に注入できる仕組みを再び用意 しておかねばなるまい。深刻な金融危機と株式暴落は世界の実体経済を痛めつけており、世界同時不況の瀬戸際にある。各国が行動計画の実行に足並みをそろえるとともに、景気の悪化を食い止める独自の政策展開も求められる。

◎七ツ島でバイオマット 環境浄化へ新たなヒント

 本社の舳倉島・七ツ島自然環境調査団が七ツ島の大島で見つけた微生物被膜「バイオマ ット」が、中国大陸から飛来する汚染物質などを取り込み、無害化させていることが分かった。微生物の働きでつくられるバイオマットは、自然界の環境修復作用という観点から幅広い分野への応用が期待されており、今回の発見は大気汚染浄化などの新たなシステム開発の可能性を秘めた調査団の収穫と言ってよいだろう。

 自然界の現象に目を凝らし、その仕組みをつぶさに調べていけば、社会に役立つ手掛か りが得られることは、クラゲから蛍光タンパク質を抽出し、今年のノーベル化学賞に輝いた下村脩氏の研究が端的に表している。大島でのバイオマットの発見は、人間活動が及ばず、わずかな環境変化にも敏感に反応する孤島に、いまだ謎に包まれた自然界のメカニズムが存在し、そこに光を当てれば環境保全につながるヒントや知恵がまだまだ出てくる期待感を抱かせる。

 バイオマットは温泉のわき出し口や鉱山廃水の流れる場所などにみられる、ぬめりのあ る被膜で、微生物の集合体である。有害な重金属を取り込み、無害な状態に変えるタイプもあり、欧州では人工培養の取り組みが始まっている。

 大島の岩肌に付着していた緑色のバイオマットは高さ三メートル以上、幅約二メートル の大きさで、この岩石に豊富に含まれる珪素(けいそ)(ガラスの主成分)をエネルギー源としていることが分かった。世界各地でバイオマットを調べてきた調査団の田崎和江副団長(金大大学院自然科学研究科教授)は「常温常圧でこれだけ珪素を取り込んだものは初めて」とし、人工培養すれば工場の煤煙を浄化するシステムにつながる可能性にも言及している。このように環境問題の解決に資する糸口があるとすれば今後の研究の進展が楽しみだ。

 今年から始まった調査活動では大気や動植物、化石研究などでも興味深いデータが数多 く得られた。舳倉島や七ツ島だからこそ見えてくる自然のメッセージに耳を澄ませ、いま起きている環境問題を考えるヒントにしていきたい。


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