◎世界恐慌の足音 北陸も「対岸の火事」ではない
日経平均株価の記録的な大暴落は、市場の需給が崩壊したことを意味する。マーケット
は「売り手」ばかりで「買い手」がいない。暴力的な下げは、内外の機関投資家が株価に関係なく換金売りを進め、まさにパニック的な売りを浴びせた結果だろう。世界恐慌の足音がすぐそこに迫って来ている印象である。
大暴落の主因は、サブプライムローン問題に端を発した欧米の金融危機にあるとはいえ
、国内でも生命保険会社や不動産投資信託(Jリート)の破たんが表面化するなど、景気悪化のシグナルが急速に強まっている。輸出関連の製造業が多い北陸の企業にとっても「対岸の火事」ではない。大なり小なり企業業績の悪化は避けられず、下方修正が相次ぐ事態が想定される。
実際、北陸の上場企業も連日のように大幅な株価下落に見舞われている。なかには一時
ストップ安まで値を下げたり、一〇〇円の大台を割った企業、一カ月足らずのうちに株価が半減してしまったところもある。ディフェンシブ銘柄といわれ、多少の暴落にはビクともしないはずの電力株すら一日で5%以上も下げたのだから、まさに目を覆いたくなるような惨状と言うほかない。
株価の暴落は、特に金融機関の経営を直撃する。民間研究機関の試算によると、メガバ
ンクなど主要六行の保有株式は九月末時点で今年三月末より27%、一兆円減少した。株価は十月に入って下げ足を速めているため、含み益の大半が吹き飛んだ可能性がある。北陸の地銀も苦境はまったく同じであり、北國銀行や北陸銀行が経営破たんしたリーマン・ブラザーズ発行の債券をかなり保有していたことも経営の重しになっている。
十日から米ワシントンで始まるG7(七カ国財務相・中央銀行総裁会議)で、中川昭一
財務・金融相は、ポールソン米財務長官に、日本の不良債権処理の経験を話すという。G7の席で、米国が公的資金注入に向けて踏み込んだ発言ができるよう、日欧は全面支援すべきだ。金融危機の発信源である米国の決断が世界の金融市場を安定させる第一歩になる。
◎追加経済対策 投資減税、消費刺激軸に
政府・与党が検討している追加的な経済対策は、株価暴落で委縮する企業の投資意欲を
かき立て、冷え込む個人消費を刺激する施策であってほしい。外需の落ち込みが避けられないなかで、日本経済全体を浮揚させるには、内需の拡大が不可欠である。株価の暴落は、いわば市場の「督促」であり、長々と時間をかけて論議している暇はない。ただちに内需拡大を強く意識した具体案を打ち出す必要がある。
総合経済対策を盛り込んだ二〇〇八年度補正予算案は、十六日にも成立するが、中身は
「弱者救済」の色彩が濃い。これだけでは、外需の減速や資源高などによる企業業績の悪化は避けられず、個人消費もますます冷え込むだろう。麻生太郎首相が追加経済対策を指示したのは当然である。
だが、具体案づくりを進める政府・与党内から聞こえてくるのは、傷口を包帯で巻くよ
うな対症療法的な施策が多い印象がぬぐえない。地域金融機関に資本注入する「金融機能強化法」など、万一の備えをしておく必要があるにしても、より重要なのは、健常な企業が積極性を失って引きこもってしまわぬようにする対策である。
景気が悪くなるなかでも、着実に利益を出し、おう盛な事業意欲やアイデアを持ってい
る企業は少なくない。そうした企業の生産活動や事業投資、研究開発を後押しするための使い勝手の良い投資減税が必要だ。
企業交際費についても、現在は損金処理できる範囲が限定的で、営業拡大のための接待
などで使いにくい仕組みになっている。以前のように、損金処理しやすくなれば、消費拡大に役立つだろう。
個人消費を刺激する施策としては、住宅ローン減税の拡充・延長などのほか、一九九九
年に実施した「地域振興券」のように消費を直接喚起するアイデアがほしい。一定条件を満たす国民に一人二万円分の買い物券を贈る発想は、小切手を配布する米国の「戻し税」方式の減税と似ている。どちらも消費を刺激し、景気を上向かせる効果がある。定額減税などと併せて検討しても良いのではないか。