衆院解散・総選挙をめぐって国会は与野党の駆け引きばかりが目立っているが、そんな中で見逃せない問題がある。自民党の国会対策委員会が全省庁に対し、野党から資料要求があった場合には事前に相談するよう指示した問題だ。いかに自民党が国民の方に目を向けていないか、この一件で分かるというものだ。
先の衆院予算委員会で政府側は「資料提出するかどうかは閣僚が判断する」(石破茂農相)と答えたが、自民党の意向に配慮し資料は出さないと閣僚が判断する可能性は残る。国民の知る権利を阻む疑念が残る事前相談はやめるべきだ。
この問題は自民党が全省庁に要請し、例えば農林水産省は「野党からの資料要求には各省庁限りの判断で資料を提出することは厳に慎み、自民党国会対策委員会にあらかじめ相談すること」「(国対に)認められなかったものは修正するなどの対応をする」などの文書を省内に出していたというものだ。
その後、農水省は文書を「相談の上、速やかに担当部局より依頼元へ資料を提出する」と修正したが、野党が「自民党の事前検閲」と批判するのは当然だ。
また、厚生労働省幹部はマスコミが省庁に要求した資料にも「ケース・バイ・ケースだが、事前に与党に知らせることはある」と報道規制につながりかねない発言もした。要するに麻生太郎首相は「議院内閣制での政府と与党の関係を考えれば事前相談は特別問題はない」との考えのようだ。
しかし、思い出してみよう。消えた年金記録問題や道路特定財源の無駄遣いは、野党などが省庁に再三、資料を要求して明らかになったものだ。税金の使われ方を明らかにするのは民主政治の本質といえる作業であり、国民の利益に資するものだ。与党が政府に責任を持つというのなら、与党こそ真っ先に資料を求めてしかるべき話なのだ。
自民党は、野党の資料要求が膨大な量に上ることから、請求のあり方などについて与野党でルールを作るため、実態把握の観点から省庁に申し入れたという。
ただし、それは表向きの理由であり、本音は野党から国会で追及されるような都合の悪い材料は提供したくないということだろう。国民目線ならぬ国会目線。自民党が仮に野党に転落したら、与党のそんな手段を許すのだろうか。
衆院予算委で石破農相は「自民党国対から言われて判断するのは行政権としてあるまじきこと」と明言したが、首相をはじめ他の閣僚は、どの程度、問題の重要性を理解しているのか、心もとない答弁だった。
省庁の資料提供が国民のためであることが理解できない以上、情報公開が阻まれる疑念は消えない。仕組みそのものを、やはりやめるしかない。
毎日新聞 2008年10月11日 東京朝刊