製造中止が決まった「蒟蒻畑」シリーズのひとつ「蒟蒻畑ライト」
報道によれば、今年の7月に幼児がこんにゃくゼリー「蒟蒻畑」を喉に詰まらせ、9月20日に死亡した事故を受けて、野田聖子消費者行政担当相は2日、製造元である群馬県の企業マンナンライフを内閣府に呼び、再発防止策の徹底を要請した。そして8日、同社は改善対応ができないとして、「蒟蒻畑」シリーズの一時製造中止を決めたという。
発売当時から「蒟蒻畑」のファンだった筆者は、このニュースに驚き、8日夜にマンナンライフのサイトを見ようとしたのだが、アクセスが集中してサーバーが落ちているのか、繋がらなかった(9日朝には回復)。
筆者の記憶では、多分「蒟蒻畑」は大ブレイクした最初(少なくとも草分けとなる)のこんにゃくゼリーで、味噌田楽とか醤油煮などの、それまでの食べ方から、おやつ、デザートとしてこんにゃくの消費に新たな地平を開いた、国内生産の9割を占める群馬県のヒーローとも言える製品だ。「蒟蒻畑」の成功を受け、類似製品も多く出ていたが、味や食感は抜きんでていた。
そのこんにゃくゼリーだが、J-CASTニュース「こんにゃくゼリーで11人死亡 外国で禁止なのになぜ放置(2007/5/24)」によると、2007年5月23日現在で、1995年以降、11人の死者を出しており、EU、韓国、米国ではゼリーへのこんにゃく使用をすでに禁止しているという。そして国民生活センターではこの記事の時点で8回の注意喚起をしていたそうだ。
その国民生活センターのサイトを見てみると、7月の事故を受けた直近の新着記事として、「またひとり こんにゃく入りゼリーで死亡−子どもや高齢者に絶対に与えない!− (2008年9月30日)」があった。これで11回目の注意喚起となる。そして「参考:こんにゃく入りゼリーによる死亡事故一覧」によれば、1歳9ヶ月〜7歳の子どもと68〜87歳の高齢者が16例、1例だけ41歳の方の事故例が報告されていた。
餅はOKでこんにゃくゼリーはNGでは筋が通らない
その注意喚起は当然と思う。(そんな例は聞かないが)例えば、老人ホームや保育園で給食のメニューに入っていたとでもいうのであれば、そこから外すのは必要な処置であろうし、その徹底のために行政が指導することも良いだろう。
だがちょっと待って欲しい。正月などに高齢者などが餅をのどに詰まらせて亡くなる事故は、毎年のようにあるが、餅の粘度に制限を設けるとか、販売を禁止するなどといった例は聞かない。こんにゃくゼリーを喉に詰まらせて亡くなるのは痛ましい事故ではあるが、個人的消費のなかで起こったことであれば、これは餅と同じで、不幸な事故、自己責任の範囲なのではないか?「口の中で崩れにくく、のどに詰まりやすいというリスクがある」以外に理由がないのであれば、餅を禁止せずに、こんにゃくゼリーを禁止するのは、筋が通らない。
また自動車は便利であるが、近年は減ったとはいえ、2007年には自動車事故で5,744人もの死者が出ている(警察庁)にもかかわらず、自動車を禁止しようなどという話は聞かない。餅については、詰まらせる危険があるのは常識であり、自動車に関しては、社会や利用者の総合的コストと利益を勘案して、危険はあっても、使うのをやめることは今のところはできないという社会的合意が、何となくできているといったところだろうか。
こうしたことからすると、どうも、こんにゃくゼリー『だけ』が不当に厳しい目で見られてきて、ついには製造中止に追い込まれてしまったようにも見えるのだが、いかがだろうか。食べるか食べないかは、自己責任に任せるべきなのではないか?
同じようなことを考える人は多いようで、「こんにゃく 自己責任」でGoogleブログ検索をかけると、9日午前8時現在で618件がヒットした。「マンナンライフ 製造中止」では、2,938件だ。いかに関心が高いかがわかる。目についたものをいくつか紹介すると、
「私はゆるいゼリーが嫌いなので、蒟蒻畑は自分で購入する唯一のゼリーでした。 〜(中略)〜 お餅は詰まって亡くなる方がいても規制されないですよね。」
(雑感記録簿)
「同じ喉に詰まる食べ物ならば「お餅」はどうなの?ということになります。お年寄りや子供がお餅を喉に詰まらせて亡くなったという事件はときどき聞きます。そんなとき、お餅をつくっているメーカー、和菓子屋さんは責任を問われるでしょうか? 〜(中略)〜 そんな話は聞いたことがありませんね。」
(消費者の自己責任は:Reclaim the Earth!日記)
「毎年何人かのお年よりがお正月に御餅を喉に詰まらせて亡くなってたりするけれど、餅は市場からなくなったりしないじゃーん。ふぐの毒に当たって亡くなる人だっているけれど、ふぐに毒があることを承知でみんなふぐを食べるじゃん。そこは、食べるのも食べさせるのも自己責任ってことなんじゃないの?」
(蒟蒻ゼリー愛好家の憂い:Je pense, donc je suis.―JOLLYの徒然日記―)
などの発言が見られた。筆者同様、ゆるゆるで、口の中ですぐ崩れる他社製品ではなく、ぷるるんとしっかりした弾力がある「蒟蒻畑」ファンの多くは、同様の意見を持っているようだが、もちろんファンだからというだけで擁護しているわけではないことが、おわかりいただけるだろう。
さて、ファンとしては亡くなる前に入手しておこうと8日晩、都内スーパーに赴いたのだが、数件廻っても、どこにも置いていない。まさか日本的「ことなかれ」で、自主的に店頭から回収されてしまったのかと心配になり9日、電話で問い合わせてみた。すると、
「全店で、現在売り場にある商品も撤去する方針。」(西友)
「来週いっぱいは販売するが、それ以降は代替品を販売する。該当商品を撤去するかどうかの方針は未定」(サミットストア)
という答えであった。過敏になって即日撤去したというわけではないらしい。もともと近年は少なかったし、たまたま無かっただけのようだ。
過度の消費者「保護」は無用
「猫を電子レンジに入れるな」という注意書きは都市伝説のようだが、米国では自分の不勉強というより非常識さが原因で自業自得的に受けた被害を理由に、言いがかり的に企業を訴えるということは多く行われているようだ。例えば「マクドナルドばかりを食べて太った」その責任を取れといったもの(さすがに棄却された模様)。消費者の保護や企業の無責任の追求は必要だが、こうしたことが平然と行われると、自己の非常識を製造物責任に転嫁する、バカな消費者ばかりの社会になってしまう懸念があるのではないかと感じる。
さらに日本の場合は、消費者庁のような「お上」や国民生活センターのような「権威」に無批判で(両者の存在が悪いと言いたいのではない、個人の自立心の不足を問題にしている)、消費にのみ忠実な人々の社会になってしまうのではないか(もうなっているのではないか)と心配にもなる。
もちろん自己責任論で、消費者保護を顧みないなんていうのは論外だ。だが今回の野田聖子消費者行政担当相の「要請」は明らかに、消費者に対しては過保護であり、事業者にとっては過酷なものだったと思う。
こうしたいかにも日本的な「ことなかれ」指導をするようでは、消費者庁にも期待できないし、賢い消費者、自立した個人は生まれないだろう。まあ自立した個人が少ないというのは、現代日本社会のより深刻な悩みではあろうが。