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国選弁護報酬水増し請求:「制度の根底揺るがす」 法テラス、言い値で支給

 国の税金がノーチェックで弁護士に支出されていた。スタートから2年で初めて明らかになった被疑者国選弁護制度を巡る水増し請求問題。3回しか接見していないはずの黒瀬文平弁護士(67)が「5回」と書くと、日本司法支援センター(法テラス)は「言い値」で報酬を支払っていた。裏付けとなる書類の添付は不要で、申請をうのみにするシステム。「制度の根幹を揺るがす重大事案」。法テラス幹部は頭を抱えた。【小林直】

 報酬請求に必要なのは、「被疑者国選弁護報告書」というA4判の文書1枚のみ。起訴など弁護終了日から14日以内に弁護士が法テラス側に提出する。被疑者名などに続く「接見状況等」の欄に▽日時▽場所(警察署名など)▽接見種別(接見、電話接見など)を書く。07年11月、強盗致傷事件を受任した黒瀬弁護士は実際には訪れていない日に岡山南署で接見したかのように記載した報告書を作成・提出するなどしていた。

 「不自然だ。接見回数が多過ぎる」と法テラス岡山(岡山市)が疑念を持ったのは今年春。岡山県警に情報公開請求して接見記録の開示を受け、被疑者国選弁護報告書と照合したところ、次々と水増し請求が発覚したという。

 報酬は接見回数を基本に算定するほか、釈放や示談成立など特別な場合は加算がある。制度を決定する論議の段階では、接見回数を裏付ける書類について「『添付が必要ではないか』との声はあった」(元日本弁護士連合会幹部)が、「故意に過大請求すれば詐欺になるのは弁護士なら十分理解している。バッジ(弁護士資格)を失うようなことはしないだろう」との意見が根強く、導入が見送られたという。

 「少額だが制度の信頼を根底から揺るがす重大事案」。法テラス幹部は苦渋の表情を浮かべた。税金を使い年間6704件(07年度)も実施されている公的制度。法務・検察首脳は「一つでも穴が開けば過去の支出も疑われる。かといって、さかのぼってチェックする方法もない。何ということをしてくれたのか」とため息をついた。

 ◇黒瀬弁護士、不正を否定

 黒瀬弁護士は7日夜、岡山県倉敷市の自宅で毎日新聞の取材に応じ不正を否定した。詳細な説明を避けたため「税金が入っている。検事まで務めたのだから説明すべきだ」と記者が質問しても「何も言うことはない。警察を呼ぶぞ」と話し、家族にドアを閉めさせた。

 約500メートル離れた雑居ビル5階の一室にある弁護士事務所の扉には「当分、不在」と書かれた紙がテープで張り付けてあり、ノックに応答はなかった。【大場弘行】

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 ■解説

 ◇背景に引き受け手不足--報酬が少なく

 被疑者国選弁護の報酬請求が、接見回数を裏付ける書類の提出を不要とする簡便なシステムを取っている背景には、引き受ける弁護士の不足がある。法テラスには1万3427人(今年4月1日現在)の弁護士が登録しているが、地域差が激しく現在も弁護士確保の困難な地域がある。来春、対象事件が約10倍に拡大するとさらに多くの弁護士が必要とされ、法テラス幹部は「手続きを複雑化すると引き受ける人がいなくなるかも」と懸念する。

 東京都心の場合、10坪の弁護士事務所を構えると一等地でなくても月約20万~30万円の家賃が必要。光熱費や事務員の雇用を考慮すると維持費だけで月50万~60万円かかる。一方、接見で得られる報酬は1回2万~2万4000円にすぎず、刑事事件に詳しい弁護士は「準備・移動などで半日がかりなのに、仮に毎日接見しても月60万円。報酬が少なすぎる」と訴える。

 容疑者の人権を守り冤罪(えんざい)を防ぐために、被疑者段階の国選弁護が必要なのは言うまでもない。一方で多額の税金を投入する以上、ノーチェックで支出を認める現状は許されない。法テラスはもちろん、法務省、日本弁護士連合会は協力して改善策を打ち出すべきだ。【小林直】

毎日新聞 2008年10月10日 東京朝刊

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