全国で地域医療の崩壊が問題になっている中、姫路市でも昨年12月、救急搬送中の男性が19病院に受け入れが困難であると断られ死亡する問題が発生した。現在は解決策を探ろうと、行政や地元医師会など関係機関が合同で検討を続けている。そのメンバーの1人で、姫路市医師会理事を務める斎藤寛・新日鉄広畑病院長(64)に医療行政の課題や展望を聞いた。【馬渕晶子】
◆姫路市の医療機関は、市内だけでなく、西播磨全体の約86万人の健康を支える使命を担ってきました。ほぼ同規模の都市である岡山県倉敷市には1000床以上の倉敷中央病院、また阪神地域には県災害医療センターや大学病院などの巨大総合病院があります。それに比べると、姫路は医療機関・機能の規模や勤務医数が不足しています。近年はさらに医師不足が深刻化し、医療崩壊が始まりました。その象徴的な出来事が昨年12月に発生した救急搬送問題です。
◆これまでも医師や看護師らが、厳しい環境ながらも奉仕の精神で医療を提供してきました。まず、この点を理解してほしいと思います。姫路市は医療においても播磨の中核都市である一方、市民病院は持っていません。この1年間にも医師不足や財政難により、夜間と休日の救急患者を交代で診療する「輪番制」から撤退する病院が相次いでおり、市の財政支援が十分とは言えない状況です。市が医療行政における積極的な役割を果たすことが、喫緊の課題として求められています。例えば、医師を確保する努力や救急医療へのより手厚い財政支援などが必要ではないでしょうか。
◆医師不足の背景の一つには、医療訴訟や医療現場でのクレームの増加が挙げられます。最近は市民向けの医療フォーラムが開催されており、理解が浸透しているようでクレームの数も減少しつつありますが、奉仕の精神で日夜頑張っている医師や看護師らに感謝の気持ちを伝えてもらえるだけでも現場の士気は上がります。
◆救急搬送の問題発生以来、市や県、医師会などが合同で「救急医療体制検討会」や「救急医療のあり方を検討する会議」を開催してきました。それらの場で出てきた案は、「地域救命救急センター」の整備です。今は西播磨の3次救急(重篤)医療機関として県立姫路循環器病センターが指定されていますが、実際は、循環器病センターを含めた五つの基幹病院が補完し合い、2次救急(重症)と3次救急を担っています。そこで、姫路市は循環器疾患は循環器病センター、小児疾患は姫路赤十字病院と役割を明確化したうえで、その他の救急患者を受け入れる10床程度のER(救命救急室)型施設「地域救命救急センター」を開設することで、3次救急医療機能の強化を図ろうとしています。年内には本格的な道筋をつくりたいと思っています。
◆全医療機関の協力体制や市の主体性、実行力が不可欠です。今後も各関係機関が合同で検討する機会を持ち続けていきたいと考えています。
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■人物略歴
神戸市出身。神戸大医学部卒。神戸大医学部付属病院医員、須磨赤十字病院外科部長、新日鉄広畑病院副院長などを経て00年7月から病院長、05年4月から理事長兼務。08年4月から姫路市医師会理事を務める。
毎日新聞 2008年10月10日 地方版