08年度補正予算案の衆院通過を受けて、麻生太郎首相が追加経済対策の策定を自民、公明両党の政調会長に指示した。「緊急総合対策」を決定した8月末から、内外の経済情勢が激変したためだ。
日本の景気は、企業、家計いずれからみても悪化している。個人消費は低迷状態が続いている上、企業の設備投資の先行きを示す重要な指標である機械受注も8月は5年4カ月ぶりの低水準となった。企業倒産も高水準で推移している。8月の景気動向指数(一致指数)の低下幅も過去最大だった。日経平均株価も9000円近くまで急落し、株式市場も混乱の度が深まっている。
こうした状況の下、景気の悪化を回避、あるいは緩和するため、何らかの対策が必要なことは間違いない。緊急措置としては中小・零細企業の資金繰り支援が不可欠だ。問題は、その先を見据えた施策だ。そこで、押さえておかなければならないことは、経済の先行き不安を除去することだ。緊急対策がいう「安心実現」である。
具体的には、年金や医療など社会保障制度の再構築、非正規労働の正規化や新規雇用の創出、賃金引き上げなどである。
自民党内で議論されている追加対策の柱は、企業向けの投資減税、株式市場対策としての証券優遇税制拡充、高速道路通行料金の1年間大幅引き下げなどだ。緊急対策には、家計向けに08年度限りの定額減税が盛り込まれており、政府・与党の経済対策の目玉は減税ということだ。
これで日本経済は改善するのか。現状ではその効果は限定的と言わざるを得ない。なぜか。
企業へのてこ入れで景気を良くするという、供給側に立った政策から脱却できていない。企業の設備投資支援は最小限必要だが、需要が盛り上がらない中では、供給過剰が拡大する。
どうすれば需要は回復するのか。短期的には安定雇用の確保・拡大や、所得増が効果的である。根本的には先行き不安の払しょくだ。1年限りの定額減税よりも、基礎年金の国庫負担引き上げを財源も挙げて確約する方が有効だ。
雇用支援は緊急対策でも重要な項目だが、具体性に欠けていた。この点で効果的な施策を盛り込むことができるのかが焦点だ。
株価対策としての証券優遇税制の拡充は筋違いだ。税制にゆがみをもたらす施策はやってはいけない。株価が上がる保証などない。結局は、金持ち優遇になるだけだ。
高速道路通行料金の大幅引き下げは、民主党の無料化を意識している上、1年限りということで、選挙対策の色彩が濃い。大衆迎合策で景気は良くなるのか。
いま必要なのは国民の先行き不安を除去する包括的な対策だ。株価てこ入れでも選挙対策でもない。
毎日新聞 2008年10月10日 東京朝刊