3度目の朗報を期待したが、ノーベル文学賞の日本人受賞はなかった。下馬評はにぎやかだっただけに、一筋縄ではいかない賞である 「もうあきらめていた」と語ったのは物理学賞受賞の南部陽一郎さん(87)。化学賞の下村脩(おさむ)さん(80)は、「長生きして良かった」と述懐した。下村さんは、1万匹を超すクラゲを捕獲してすりつぶす大変な労力と時間を費やし、発光物質を突き止めた。60年代に成し遂げた仕事である 南部さんの理論も60年代に注目された。自然科学の受賞は、数十年前の業績の対象になることが多い。選考委は、おびただしい数の有力候補を、クラゲをすりつぶすようにして真価を見定めるのだろうか。待つ人には忍耐がいるし、死んでは花実が咲かない かつてない4人の受賞に、ノーベル賞量産時代の期待さえ抱く。が、今年の栄誉は60、70年代の日本の頭脳に当たった光と言える。相撲で言う「3年先のけいこ」が、ようやく実ったのである だから、どこかの横綱のように浮かれてばかりでは済まされない。若い才能を鍛えないと、寂しいノーベル賞の季節に逆戻りする。
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