任期満了に伴う岡山県知事選がきょう告示され、二十六日に投票が行われる。県が財政危機を宣言する厳しい局面で、今後四年間の県政のかじ取り役を選ぶ。新知事に課せられる責務は大きく、有権者の一票の責任も重い。
立候補を表明しているのは、無所属現職で四選を目指す石井正弘氏と、無所属新人で桃太郎のからくり博物館館長の住宅正人氏の二人で、一騎打ちとなる見通しが強い。
主要各党は多選を避ける党の方針などから二人の推薦をいずれも見送っている。政党の動きはあまり表に出ない選挙戦になりそうだ。
最大の争点になるとみられるのは、危機に陥った県財政を立て直すために必要な行革の進め方だろう。さらに多選問題や道州制の在り方に対する認識などで両氏の考えの違いが明確になっている。
石井氏は一九九六年の就任当初から財政再建を最優先課題に掲げ、行革に力を入れてきた。だが、今年六月になって巨額の歳入不足が埋められず今後の予算編成さえままならないとして、県は財政危機宣言を発表した。驚いた県民も多いはずだ。
三期十二年にわたり行革を推進してきたにもかかわらず、なぜ再び財政危機に直面したのか。首をかしげざるを得ないが、この点について石井氏は、国が一方的に地方交付税を削減したことが一番の要因とする。
対応策として、石井氏の意向を受けた県が各種補助金の削減や県職員の給与カットなどを盛り込んだ「構造改革プラン」の素案をまとめ、改革の総仕上げにすると訴える。
これに対し、住宅氏は県財政についてすべての情報が出ておらず、出発点から洗い直す必要があるとの認識を示す。構造改革プランは白紙撤回し、県民の視点から行革の内容を緩和することを打ち出している。
その上で、知事給与の二分の一カットや県職員の削減をはじめ、県議の定数も減らす案などを明らかにしている。選挙戦では互いに自らの考えを丁寧に、分かりやすく説明してもらいたい。説得力のある主張こそ有権者の心をつかむだろう。
財政危機をどう克服するかはもちろん重要な問題だが、暮らしやすくて魅力ある地域づくりをどう進めるかも聞きたい。
地方分権、少子高齢化、国際化などの課題に対処する道筋や財源を具体的に提示する必要がある。有権者は候補者の訴えを冷静に判断し、発想力や指導力も見極める目が求められよう。
今年のノーベル化学賞に、生命科学分野で不可欠な“道具”となっている緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見した下村脩・米ボストン大名誉教授=米マサチューセッツ州在住=が選ばれた。物理学賞での三人受賞に続く連日の明るいニュースだ。
日本人のノーベル賞受賞は一九四九年に物理学賞を受けた湯川秀樹博士以来、合わせて十六人となった。化学賞は二〇〇二年の田中耕一・島津製作所フェロー以来で、五人目である。
授賞理由は「GFPの発見と開発」。GFPは紫外線を当てると緑色に輝きだすタンパク質で、発見者の下村氏のほかに、GFPを使って他の生物の細胞を生きたまま光らせたり、緑色以外に着色したりすることに成功した二人の米国人研究者も受賞が決まった。
下村氏は渡米中の一九六一年、オワンクラゲの発光物質を抽出する過程でGFPを発見した。生物の中には多くの種類のタンパク質があるが、特定のタンパク質の働きを生きたまま見ることができる道具として、生物学や医学、創薬など幅広い分野で利用されている。
興味深いのは、下村氏がGFPを発見し、蛍光を出す化学構造を解明した時点では「美しい緑の光を放つ不思議なタンパク質にすぎず、何の利用法もなかった」(下村氏)という点だ。その後、九〇年ごろからの遺伝子工学の発展に伴って、生命科学やバイオテクノロジーの研究に幅広く使われるようになり、今では欠かせないツールになっている。基礎研究の重要さを示す好例といえよう。
科学技術立国を目指す日本にとって、相次ぐノーベル賞受賞は久々の朗報であり、今後への弾みになろう。研究体制や人材育成などの環境づくりに、さらに力を注いでもらいたい。
(2008年10月9日掲載)