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【埼玉】

機能しない“時間外”救急診療休止の東松山市立病院 医師数 5年で半分以下

2008年10月10日

東松山市立市民病院=東松山市で

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 2006年の県内医師数は、1996年から2104人増の9578人。しかし、人口10万人当たりの医師数は、全国平均の206.3人を大きく下回る135.5人で、全国最下位だった。

 県は重篤患者を扱う3次救急病院を7カ所確保。目標の8カ所まで、あと1病院と迫っている。一方で、重症患者対象の2次救急は県内を16地区に分け各病院が輪番制をとっているが、医師不足などで輪番から撤退する病院があり、体制維持が難しくなっているという。

 救急医療と並んで問題となっているのが小児科・産科医不足。06年度までの10年間で、小児科のある県内医療機関数は31カ所減の1333カ所、産科・産婦人科は51カ所減の249カ所と減少が目立つ。

 設計事務所を経営する東松山市の男性(58)は六月十一日午後十一時ごろ、近所に住む兄から「胸が痛くて仕方ない。救急車を呼んでくれ」と連絡を受けた。急いで一一九番通報。救急車はすぐに到着したが、兄を乗せたまま動かなかった。搬送先が見つからなかったのだ。

 市内にある市立市民病院は昨年十二月から医師不足で夜間・休日の救急診療を休止している。約四十分後に決まった搬送先は、隣接する坂戸市の先にある日高市の埼玉医大国際医療センターだった。

 病院では心筋梗塞(こうそく)と診断され、緊急手術。医師から「持っても十日ぐらい」と宣告されるも、一命を取り留めた。だが、右足にしびれが残り、兄は飲食店経営の一線から退いた。

 「市民病院ですぐに施術してもらえれば後遺症は残らなかった」。兄の姿を見ると、恨みにも似た思いが募る。

 男性は「何億円もの市税を投入しているのにもかかわらず、時間外診療を休止して、役に立たない市民病院になった」と切り捨てる。「風邪や軽傷の治療は一般クリニックや診療所に任せ、設備が整った市民病院は救急医療に特化すべきだ」と語気を強める。

 「自治体病院の八割は赤字経営。地域医療は崩壊している」

 市立市民病院の鈴木裕太郎院長は九月定例市議会で、淡々と答弁した。市議から「今やるべきことは何か」と問われても、「少ない陣容で日常の診療に忙殺されながら医療を提供しているが、以前に比べそのレベルが落ちている。適切な診療体制を構築したい」と答えるにとどまった。

 二〇〇三年四月に三十一人いた医師は、昨年十月には十六人に半減。夜間・休日の救急診療を休止せざるを得なくなった。その後も医師の流出は止まらず、今年九月一日現在で十三人になった。

 医師数の不足、大学医学部などの医師派遣機能の喪失、勤務医の過重労働、地方自治体財政の悪化…。鈴木院長は議場で、各地の自治体病院が苦境に立たされている原因を説明した。

 市立市民病院の場合、人件費などで新たに年間約八千七百万円の予算があれば、時間外の救急診療を再開できるという。鈴木院長は市に財政支援を求めるとともに、「現在の医療状況は長年のひずみが噴出したもので、一市一病院では解決できるものではない」として、国の医療システムの抜本的な改革を訴えた。 (山口哲人)

 

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