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社説

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追加経済対策―「安全網」の再構築こそ

 「財政の健全化はきわめて重要だ。しかし、現在の日本には、景気回復が最優先課題だ」

 8年前、「経済国難」といわれた小渕内閣の時代に、堺屋太一経済企画庁長官が国会の経済演説で述べた言葉だ。最近そっくりな言い回しを、麻生首相をはじめ政府・与党から聞く。

 補正予算案が衆院を通過したばかりだが、麻生首相は追加の経済対策をまとめるよう指示を出した。

 米国発の世界的な金融危機は、まだ全体像を計りがたい。米国をはじめとして世界の景気は、これから深刻な打撃を受けるだろう。経済の悪化はまだ入り口の段階にある。危機を脱出し、経済を立ち直らせるには、何年もかかると考えておいた方がいい。

 輸出主導で戦後最長の景気回復を保ってきた日本経済も、手痛い影響を受けざるを得ない。私たちはそれくらいの覚悟をもって、この負の圧力に立ち向かっていかねばならない。

 こうした状況で、国民の不安を抑えるための政策を検討し実行するのは政治の役目である。しかし、麻生政権の考え方は、まず減税や公共事業など財政出動による旧来型の景気対策ありきと見受けられる。その財源には、国債の増発も「場合によってはやむを得ない」とされている。

 公共事業や減税を大盤振る舞いした小渕内閣の路線へ、まるで逆戻りしたようだ。「困った時の常備薬」。そんな皮肉を言いたくもなる。バブル不況から脱出するために景気対策を連発した結果、国だけで550兆円もの国債残高が積み上がり、財政が身動きできなくなってしまった。

 財政に余裕があるならまだ分かるが、使える財源はごく限られている。今回の不況はまだ始まったばかりで、先が長く底も深そうだ。なけなしの財源は、いちばん効果的なときに有効な方法で使わねば意味がない。

 いま取り組むべきなのは、少子高齢化が本格化していくのに備えて、社会保障を組み替え、維持していくことではないか。「安全網」の再構築なしに国民の安心は得られない。遠回りのように見えるが、それが結局は内需を充実させることにつながるに違いない。

 民主党の前原誠司前代表は衆院予算委で、道路財源を社会保障へ大胆に振り分けるよう求めた。雇用や老後など不安が高まりそうな分野の「安全網」を強めるこうした手だてこそ重要だ。

 金融危機のあおりで資金繰りが厳しくなってきた中小企業へ、信用保証で資金を回す。雇用確保や内需型への転換に努力する企業に対し、応援する政策も有効かもしれない。

 薄く広く予算や減税をばらまくのではなく、効果があがりそうな分野へきめ細かく対策を打つ。そうした対策づくりを求めたい。

給油法案―駆け込み審議の異様さ

 政治に駆け引きや打算はつきものだ。総選挙が近いとなればなおさらだろう。だが、それにしてもあまりにご都合主義に過ぎないか。

 インド洋での海上自衛隊の給油支援活動を1年間延長する特措法改正案をめぐる自民、公明の与党と民主党の対応のことである。

 驚かされるのは民主党の豹変(ひょうへん)ぶりだ。昨年の国会では給油支援は憲法違反と猛反対し、徹底審議を要求して越年決着となった。なのに今回、反対するのは同じだが、衆院でわずか2日の審議で採決しようと提案したのだ。

 民主党は参院でも早期の採決に応じる構えだ。これにより法案は衆院で可決、参院では野党の反対多数で否決されるが、与党は衆院で再可決し、今月中にも成立する可能性が強まった。

 法案審議を口実に、麻生首相や自民党が解散・総選挙を先延ばしするのは許さない。そんな狙いなのだろう。だが、だからといって駆け込みで法案を処理しようというのはどうだろう。

 民主党は昨年、給油支援への対案として、アフガニスタンでの民生支援を軸とするテロ根絶法案を国会に出した。なぜ、これを国会の場で主張し、国民の理解を求めようとしないのか。

 アフガンの治安が悪化するなか、民主党が言う民生支援の実現は難しく、結局は何もしないのと同じという批判がある。給油支援の方が現実的との声は党内でも聞かれる。

 つまりは、対案を堂々と論じる自信がないから、早期解散を求めるためという口実のもとで早々に審議を閉じてしまおうというのではないのか。そう勘ぐる見方さえある。

 与党もほめられたものではない。首相がこの法案の審議入りにこだわったのは、総選挙で「テロとの戦いで何もしない日本でいいのか」と民主党を攻撃する布石でもあった。公明党は衆院再議決に否定的だったのに、態度を一変させた。公明党の求める早期解散の実現にはその方が得策という思惑があるからと見られている。

 タリバーン政権の崩壊から7年がたつのに、アフガンはおろか、核兵器を持つ隣国パキスタンの政情まで混迷してきた。どうすればこうした状況を変え、「テロとの戦い」を好ましい軌道に戻せるのか。そのために日本は何をすべきなのか。本来ならこうしたことこそ論議すべきなのだ。

 給油支援は日本が憲法の下でできる貢献のひとつではあるが、その是非だけに論議を矮小化(わいしょうか)させてはならない。まして解散の時期をめぐる駆け引きの材料にするようでは恥ずかしい。

 与野党は総選挙でそれぞれの主張を掲げて戦うべきだ。そのうえで新政権の下で議論を深め、合意を見いだせばいい。来年1月の期限切れまで時間はまだある。

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