〔特集:金融パニック(2)〕出口見えないファンディング・クライシス、金利水準は二の次
山口 貴也記者
[東京 9日 ロイター] 「ロンバート型貸出金利を超えていようが関係ない。資金は取れる時にとる」――。国債を担保に資金を調達する現金担保付き債券貸借(レポ)取引市場で9日、翌日物金利が心理的な節目となる0.75%を超えた。米証券大手リーマン・ブラザーズ(LEHMQ.PK: 株価, 企業情報, レポート)破たん以降の「ファンディング・クライシス」に終えんの兆しは見えず、資金ディーラーは金利水準を半ば無視した資金確保にほん走している。
<出し手不在、FB入札にも影響>
レポGC翌日物金利が9日、一時0.8%に上昇した。ロンバート型貸付制度が整備され、事実上、日銀にかけこめば0.75%で資金を調達できる。
法で定められた金融機関による「準備預金の積み」の最終日にあたる14日に始まり、15日に期日を迎える翌日物金利は金利が跳ね上がりやすい。次世代RTGS導入を控えて決済を増やしたくない金融機関が、資金のめぐりを滞らせている面もある。
日銀が市場に放出する資金金利も軒並みロンバート型貸付水準に迫っている。本店方式によるオペ対象に入っていない「全店のみ先」と呼ばれる一部外国銀行や証券会社、地方銀行を網羅(もうら)する全店オペ金利は、9日通告ベースでついに0.74―0.75%に達した。ある資金ディーラーは「0.75%だろうと1%だろうと関係ない」と話す。
こうした流れは、主に証券会社など国債を取り扱う業者の「ファンディングコスト」に波及し、政府の資金調達手段となる政府短期証券(FB)の入札に影響を及ぼしている。
財務省が8日実施した3カ月物の政府短期証券(545回債、2009年1月19日償還)の最高落札利回りは0.7540%となり、2000年12月25日入札の95回債以来、7年10カ月ぶりの高金利落札を記録。翌9日入札の2カ物(546回債、08年12月3日償還)では、最高利回りが0.7941%となり、同期間の政府短期証券としては過去最高の落札利回りとなった。
1年以内に償還を迎える短期国債に属する債券の入札が相次ぐことを加味しても、落札利回りの跳ねぶりは突出している。欧州系銀行の資金担当者は「カウンターパーティーリスクへの意識が広がり、レポ市場も含めた出し手不在の状況が影響している」という。
<国債にも波及、もはや安全資産とは言えず>
国債相場も傷を負った。コストのかかるアセットを減らして、とにかくキャッシュを手元に置こうとする金融機関が急速に増え、ヘッジファンドや一部外国銀行が物価連動国債を売り叩いたほか、超長期国債を絡めたアセットスワップポジションを解消した。しかも、こうした取引は一例に過ぎない。
クレジット市場をみても、投資マインドは冷え込みの一途をたどっている。信用リスクを回避するための「プロテクション」の買いが勢いを増し、指標となるiTraxxJapanシリーズ10<ITJJP5Y=GF>のプレミアムは最高値を更新する場面もあった。
リーマン破たんで拍車がかかった「デレバレッジ」。外資系金融機関のファンドマネジャーは「資産規模の縮小スピードが速く、安全資産とされる国債すら買っている場合じゃないとの雰囲気が漂っている」と指摘する。
外資系証券の関係者は「日銀から国債を調達したうえ、それを担保に調達資金をさらに担保に差し出すなどしてアセットを積んできた金融機関が国債相場を支えてきた面もあり、それがもとに戻らない限り、需給的には厳しい」と話す。別の邦銀関係者は「国債の動きが激しすぎて、もはや安全資産とはいえない。保有を増やせる状況なのか」と、思案する。
米連邦準備理事会(FRB)など主要6中央銀行が協調して利下げに踏み切った8日、日銀は当座預金への付利や適格担保の範囲拡充などの検討に入った。短期金融市場でより円滑な金融調節ができるようにする狙いだ。短期金融市場を巡っては、流動性低下への対策に神経質になっており、選択肢のすそ野が広がることには歓迎する声が支配的だ。
しかし、金融危機にあって準備預金への付利の有効性や、財務省との兼ね合いで検討余地が残り、実効性に懐疑的な見方もある。
欧州系銀行の幹部は「アンワインド相場は終わっていない。米金融機関にも公的資金を注入したうえ、アセットを一定程度まで削り終えるまでは、沈静化のメドはたたない」と漏らす。前出の外資系金融機関のポートフォリオマネジャーは言う。「峠を越したのかと聞かれれば、そうかも知れないと答える。しかし根拠はない」。
(ロイター日本語ニュース 山口 貴也記者、伊藤 武文記者;編集 橋本浩)
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