米国発の金融危機が世界的な株安の連鎖を引き起こした。東京株式市場は七日、日経平均株価(225種)が急落し一時、一万円の大台を割り込んだ。前日の米ニューヨーク株式市場でダウ工業株三十種平均が一万ドルを割るなど、米欧市場での大幅な株価下落を受けた形だ。景気後退が懸念される日本経済にも深刻な影を落としている。
七日の平均株価の終値は一万〇一五五円九〇銭と一万円台に戻したが、一時は九九一六円二一銭まで下げた。一万円の大台割れは取引時間中としては約四年十カ月ぶりである。外国為替市場で円高ドル安が進行したことで、自動車、電機など輸出関連株、銀行、不動産など内需関連株とも売り注文が相次いだことも、株安に拍車を掛けた。
欧州株式市場が急落した六日は、東京株式市場も終値で四年八カ月ぶりに一万〇五〇〇円を割った。アジア各国の株式市場も軒並み安くなった。それに続くニューヨーク、さらに東京と株安の連鎖である。米国で三日に緊急経済安定化法が成立したにもかかわらず、サブプライム住宅ローン問題に端を発した金融危機への不安が収まらない。
米緊急経済安定化法は最大七千億ドル(約七十五兆円)の公的資金で不良資産を買い取る制度が柱になっている。しかし、不良資産の買い取り価格の決め方が不透明で金融システム安定化につながるかどうか疑問視されている。一方、欧州では米国から飛び火した金融危機に対応するため、フランス、英国、ドイツ、イタリアの主要四カ国首脳らがパリで緊急会合を開いたが、金融機関救済のための基金設立構想が見送られるなど抜本策を打ち出せなかった。むしろ欧州の事態の深刻さが浮き彫りになり、市場の動揺を抑えることはできなかった。
株安による実体経済への影響が心配だ。個人の消費意欲や企業の投資マインドが冷えるのは必至だろう。金融機関の中小企業への貸し出しも厳しくなり、日本経済をけん引してきた輸出産業にとっては円高と相まって一段の業績悪化の恐れがある。政府や日銀は警戒を強めなければならない。
当面、焦点になるのが十日にワシントンで開かれる先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)である。金融システムの安定化に向けて、各国がどこまで連携できるかがカギだ。即効性のある思い切った対策が打ち出されなければ、逆に市場の失望感を招くだろう。さらなる株安の連鎖に歯止めをかけるため、G7各国の踏み込んだ政策協調が求められる。
今年のノーベル物理学賞に、素粒子物理の「標準理論」と呼ばれる理論体系の構築に重要な貢献をした南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授=東京都生まれ、米国籍、小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授、益川敏英・京都大名誉教授の三人が決まった。
日本人のノーベル賞受賞は二〇〇二年の小柴昌俊・東京大特別栄誉教授(物理学賞)、田中耕一・島津製作所フェロー(化学賞)のダブル受賞以来六年ぶりで、計十五人になる。日本人の共同受賞は初めてで、しかも一挙に三人が栄誉に輝いた。日本人研究者のレベルの高さをあらためて証明したといえよう。心から喜びたい。
授賞理由は、南部氏が「素粒子物理学と核物理学における自発的対称性の破れの発見」、小林、益川の両氏が「クォークが自然界に少なくとも三世代以上あることを予言する、対称性の破れの起源の発見」となっている。物質はクォークなどの最小の構成単位「素粒子」でできているとされる。いずれもその素粒子論で大きな発展を導いた研究成果である。
日本人の物理学賞受賞はこれで計七人を数える。特に理論物理学は日本が得意とする分野であり、一九四九年の故湯川秀樹博士、六五年の故朝永振一郎博士に次ぐ快挙となった。
若者たちの理科離れが言われる。小林氏と益川氏が受賞対象となった理論を誕生させたのは七二年のこと。若い二人が研究室で熱い議論を重ねたことが、今回の喜びに結びついた。若い人たちが科学に興味を持ち、どんどん後に続いてほしい。
殺伐とした事件が相次ぎ、米国発の金融危機の影響で景気後退の色も濃くなっている。久しぶりの明るいニュースで元気を取り戻そう。
(2008年10月8日掲載)