番外編
テーマ:Pプレス2008年7月18日(金)、Y課長はPプレスを退社しました。
この日の午前中、Y課長は会社の向かいにあるコンビニから「自分の私物」を自宅に「個人名」で、もちろん「自費」で送りました。
自分の私物ですから、会社からではなく、コンビニから個人で発送するのは当然です。
しかしながらT(Pプレス社長)は、Y課長が「会社の重要書類」を盗み出したのではないかと勝手に疑ったようです。
そこで、女性社員2名にコンビニに行くように命じました。
彼女たちは、「先ほどY課長が出した荷物の中に大事な物を入れ忘れたので、いったん会社に持ち帰りたい」と申し出ました。
応対したコンビニの店長は、「個人名で出された物だし、送り状もないので、そういったことは後々のトラブルの原因になるから絶対に困る」と言って断りました。
けれども、彼女たちは「私たちを信じて下さい」と、執拗に食い下がります。
ちょうど昼食時で、レジには他のお客さんの長い列ができていました。
そのため店長は面倒になり、とうとう彼女たちに荷物を渡してしまったのです。
このコンビニの対応にも、大きな問題があります。
なぜ、個人が出した荷物を送り状も持っていない第三者に渡してしまったのでしょうか。
さて、その日の夜、Y課長と僕は神楽坂の居酒屋「S」で飲んでいました。
「短い間でしたが、お疲れ様でした」と、我々はPプレスでの一ヶ月あまりの間にあった出来事を思い起こしながらグラスを傾けていました。
そこへ、Y課長にTから一通の携帯メールが届きました。
以下は、その全文です(固有名詞は一部ふせてあります)。
Y○○○様
本日、貴殿がコンビニエンスストアにて配送依頼をした荷物について、(株)P○○・プレスの業務に係る書類の有無を確認するため、配送を差し止めさせていただきました。
内容物の確認につきましては、貴殿の立会いの下で実施したいと思いますので、平成20年7月22日10時~17時に当社にご連絡いただきますようお願い申し上げます。
なお、上記日時にご連絡をいただけなかった場合には、当社社員のみで開封いたしますので予めご了承ください。
なお、貴殿がお支払いになった送料につきましては、当社でお預かりしております。
内容物の確認後、問題がないようでしたらお返ししたいと思っております。
同様の文章を、配達記録郵便にて郵送していることを、念のため申し添えます。
平成20年7月18日
株式会社P○○・プレス
代表取締役社長 T○○○
TEL03-××××-××××
これを読んだら一気に酔いも醒めますね。
週明けの22日(火)、僕は知り合いの出版社の方から紹介された弁護士に相談しました。
弁護士は、「荷物開封の際、政権交代さんが証人として同行すると良いでしょう」と言いました。
そこで、翌23日(水)、Y課長と僕は二人でPプレスに乗り込んだのです。
Y課長のスーツの胸ポケットには、「万が一、裁判沙汰になった場合の証拠になるように」という弁護士のアドバイスに従って、「ICレコーダー」を忍ばせてありました。
会議テーブルには、Tと並んで、彼女が呼び付けた二人の「行政書士」が待機していました。
「荷物の内容」を記録するのが目的なのだそうです。
作業に入る前に、僕はしっかりとTの目を見て言いました。
「Y課長が個人で出した荷物を、コンビニの店長を騙して勝手に差し止め、引き上げて、連絡がなければ開封すると通知して来ましたよね。こういうやり方は極めて乱暴で問題があるので、弁護士に相談した上で、僕が証人として同行しました。」
Tの目は宙を泳いでいます。
それから4箱ある段ボールが行政書士の手によって一つずつ開封され、中身が確認されてゆきました。
「サンダル」、「ヘアスプレー」、「ブラシ」、「文庫本」など、会社にとって非常に「重要なもの(?)」が次々に出て来ました。
行政書士は、それらを逐一、ノートパソコンに記録してゆきます。
次に、Y課長が作った「注文書」の控えが発見されました。
Tは震える指で、それらを一枚一枚、確認しながら押収しました。
いったい何に使うつもりなのでしょうか。
僕は言いました。
「我々は営業なので、これまでの仕事の実績も次のところに持って行きたいんです。それは、『リストの持ち出し』などとは違うと思うのですが。」
しかし、Tは、それらの書類を返してくれません。
今度はY課長の手帳が出て来ました。
Tは、それをペラペラとめくって、差し押さえようとします。
たまりかねて、僕は言いました。
「あの、手帳は個人の持ち物ではないのでしょうか。」
さらに、Y課長が新卒で入社したS社(既に倒産)時代からの「名刺ホルダー」が出て来ました。
Tは、それも中をいちいち確認して、「これは古い名刺ですから必要ありません」と言い放ちました。
Pプレスに入社する以前のものですから、「必要」であろうが「不要」であろうが、Tに没収する権限がないのは当たり前のことです。
こうして、約2時間に渡って箱の開封と確認の作業を行ないましたが、特に重要な書類などは出て来ませんでした。
作業終了後、僕はTにたずねました。
「こんなのが正しいことだと思っているんですか。」
Tが返します。
「だって、私は以前からYさんに『荷物の検閲をさせて下さい』と言っていました。それが聞き入れられなかったのですから仕方がありません。」
なぜ、平成の日本において、会社が個人の荷物の内容を「検閲」するのが当然のことなのでしょうか。
挙句の果てに、「お二人は一方的に『退職願』を提出して来たじゃないですか!」
「ロクに引き継ぎもしないで辞めましたよね!」と言われてしまいました。
「退職の意思」は、労働者側から使用者側に示すものですから、一方通行に決まっています。
社員は会社の奴隷ではないのです。
しかも、Tはそれを「受理」したのですから、何をかいわんやです。
「引き継ぎ」にしても、こちらから頼んだ覚えは全くないのに、予定よりもかなり早い段階で「もう出社するな」と言われたのですから、不完全に終わってしまったのは我々の責任ではありません。
どうして、辞めた後に社長から責められなくてはならないのでしょうか。
筋違いもいいところです。
最後に、行政書士が「それでは今回の件は、これで全て終了ということで。今後、この件については、双方、『いっさい異議を唱えない』ということで、念書を作成してもよろしいですか」と言いました。
僕は「待って下さい! あくまで『この荷物の中味については』ということにして下さい」と切り返しました。
確かに、Y課長は「自分の私物さえ返してもらえれば結構です。裁判を起こすつもりはありません」と言っていました。
でも、だからと言って、今回のTの行ないが許されても良いことだとは僕にはとても思えません。
Y課長も本音では許せないはずです。
その日の夜、居酒屋のテーブルを拳で「ドン」と叩きながら、「なんでオレは最後まで、こんな嫌がらせを受けなきゃいけないんだ!」と叫んでいましたから。
■自己実現の場所
会社や仕事は自己実現の場所だと思います。