2008年09月15日(月)

退職願③

テーマ:Pプレス

2008年7月1日(火)の午前11時から、Y課長と僕が提出した「退職願」の扱いをどうするかについての話し合いが行なわれました。


参加したのは、(Pプレス社長)・T役員(A出版元社長)・Y課長・僕の4人です。


場所は、なぜか会社から離れた新宿三丁目の喫茶店「」です。


移動中のタクシーの中は重苦しい雰囲気で、誰も口を開きません。


どうして、わざわざ遠くまで連れて行くんだろう?


僕もY課長も、流れる車窓の景色を見ながら、そんなことを思っていました。


店に着くと、我々はあらかじめ予約してあった会議室に入りました。


4人が着席し、僕はインターホンで飲み物を注文しました。


まず、T役員が切り出します。


昨日、Yと政権交代から退職願が提出されたけれども、この二人が辞めるというのはPプレスにとって非常に重大な問題だから、何とか考え直してもらえるように、これから話し合いたいと思う。


あの…。


僕が言います。


入社してわずか1ヶ月で退職するというのは、社会人として非常識なことなのは承知していますが、これまでのT社長のやり方を見ていると、とても付いていけませんし、いったん受理された退職願を撤回するつもりは全くありません。


オレも、この会社が今までと何も変わらないのだったら、退職願を取り消すつもりはないです。


Y課長が続けました。


お二人が、そのようにおっしゃっていることは、私としては受け止めるしかありません。


は、早口でまくしたてるように言いました。


今、受け止めるっておっしゃいましたけど、先日の会議で我々が問題提起をしたことも、結局うやむやにされてしまったじゃないですか。僕も家族があるので、社員を気まぐれでポンポン辞めさせるような会社に骨をうずめるわけにはいきません。


僕が言うと、T役員が少し声を荒げました。


お前さあ、子供じゃないんだから、そんなことばかり言ってても何も進歩がないだろ。もっと現実的な解決策を考えてくれよ。


それに対して、「T社長が好き勝手な振る舞いをできないようにするのなら、オレは考えてもいいですよ」とY課長が応じます。


そこでさあ、オレからの提案なんだけどさあ、例えば、Tの意向だけで決められないように何かルールを作るとかさ…。


T役員がそう言いかけたのを、は直ちに大声でさえぎりました。


それはできません! 経営に関することは私が決めます!


いやいや、そういう意味で言ってるんじゃないよ。


お二人の気持ちはよくわかりました! 退職を撤回するつもりがないのなら、それで結構です! これ以上の人格攻撃には耐えられません! 倒れてしまいます。私だって人間ですから!


言うが早いか、は席を立ちました。


おいおい、ちょっと待てよ! いいから座れよ!


T役員の制止も聞かず、は部屋から飛び出して行きました。


は、よほど自分の決定権を奪われるのが苦痛なのでしょう。


まあ、こういう結末になるのは最初から見えていましたが。


それから、しばしの沈黙。


そして、T役員のため息が聞こえました。


はあ…。


Y課長が「次の話し合いはどうしますか?」とT役員に尋ねました。


次? 次はないよ。終わったな。これで終わりだ…。


そう言って、T役員はうなだれました。


この瞬間、Y課長と僕の退職が正式に決まったのです。


お待たせしました。アイスコーヒー3つとアイスレモンティーです。


店員が飲み物を持って部屋に入って来ました。


遅いよ、もう…。


せっかく引き止めて下さったT役員には大変、申し訳ありませんが、僕はとてもスッキリとした気持ちでした。


まるで、「見えない圧力」から開放された、映画『時計じかけのオレンジ』(スタンリー・キューブリック監督)の主人公・アレックスのように。


時計じかけのオレンジ
¥1,360
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その夜、Y課長と僕は行きつけの居酒屋で飲みました。

オレの3年間は、いったい何だったんだ…。


そう言いながら、Y課長は泣きました。


僕もつられて泣きました。

~つづく~

コメント

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■素晴らしいです

会社が壊れていく瞬間が熱く鋭く描き出された素晴らしいブログだと思われます。メリルにしてもリーマンにしても、ごういう瞬間の数知れない積み重ねが今日を招いたと思われます。

■このTさんとやら…

会社をどうしたいのでしょうかね~

■なんだか・・・

社長さんが、先をどう考えているのか聞いてみたいです。
課長さんの、最後の言葉・・胸に刺さります。

色々考えてしまいました・・・。

■Tって、

逆ギレ具合が、福田さんに似ちょりますな~。
「人格攻撃」って…お前が言うか?(  ゚ ▽ ゚ ;)

■無題

気に入らなければ「人を切る」社長についていってもロクな結果しか待っていませんから、退職したのは正解ですね。

■お疲れ様でした

このT社長は、結局のところ
自分を慕うかわいい部下たち(仕事が出来て気もきくけどイエスマン)に囲まれて、
自分好みの本をまるで文化祭ノリで作っていきたいんでしょうか。

営業さんやベテランの方々からは応援と援助だけ欲しい。
口うるさい人たちは敵!!!みたいな。
子供でももっと賢いと思います。
今までよくもったなあ…。

退社されてから2ヶ月経過されたのですね。
思い出すのもつらいとは思いますがブログ最後まで拝見したいと思います。

■初めまして。

始めてコメントさせていただきます。このブログを初めて読ませていただきましたが、とても大きな衝撃を受けました。
私は就職活動を目前に控えた大学生なのですが、就職先は出版社の編集希望で、このPプレスを第1に考えていました。
Pプレスの通販雑誌に出会ったのは高校生の頃で、その独創的な雑誌に心を打たれ、大学に進んだのもPプレスに入るためでした。
最近悩んでいたことがあります。
それは就職に関してなのですが、「彼氏をとるか、仕事をとるか」です。私の彼氏はヲタクをよく思っていなく、日頃からそんな趣味はやめろと言われてきました。しかし、彼氏のことは大好きなので、隠れながらヲタクを続けてきました。隠れヲタクならぬ隠れ腐女子です。
しかしながら、就活を目前に控え、私は悩みました。彼氏は私の仕事(もし仮にPプレスのような同人誌やBLを扱う会社に就職できたなら)を親に話すのが嫌なんだそうです。けれど私は中学からBLを愛してきて、今目前にその夢を叶えられるのに諦められないと思っていました。
その結果、「仕事をとる」と決め、今年の冬か、来年の春にはPプレスに応募しようと決意したのですが…。
その矢先にこのブログと出会ってしまいました。ずっと行きたくて憧れだった会社の裏事情を知ってしまい、本当に複雑な心境です。
Pプレスに絶対就職するぞ!と、心の中で決意していたからです。
このブログを読ませていただいてショックを受けたものの、まだ少しだけですがPプレスで働きたいという気持ちもあります。しかしやはり内部事情を見る限り、とてもではないですがいいものだとは思えません。
私はやはり、中学生の頃からヲタクという1部の人達に対して将来尽くせるような仕事がしたいと志してきました。今でもその思いは消えていません。

もしこのコメントを読んでいただきましたら、私の就職活動についてのアドバイスなどありましたら何か一言でもいただけたら幸いです。

本当に、とてもショックです。

■就活を目前に控えた大学生。さんへ

人の趣味嗜好を認められない男とは別れても問題なし。今後も相手の色々なことを認められない可能性あり。
オタク業界にはまだ可能性がある、志すならぜひ本気で。
ただしPプレス以外の会社も視野に入れた方がいいとは思う。
Pプレスの経営環境は劣悪だが、発行物を見ても、社長兼編集長の、編集としての才能はない訳ではないと思う。勉強するためと割り切って3年くらい頑張ってみるのもいいかもしれない。
問題は3年経つ前に追い出されるか会社が保たなくなりそうなことだが。

■筋違いでは?

大学生さんへ
政権交代氏にどのような“アドバイス”を求めているのでしょうか?
恋愛の悩みの回答や就活ノウハウならば他サイトや大学就職課に求めるべき。
あなたの人生なのだから、「その会社を受ける・受けない」も貴女自身が決定すべきこと。
ブログ内容に納得しないなら受けるべきですし、納得するなら受けないという選択肢もありでしょう。
政権交代氏はブログを書き、私達に情報(物語)を提供しているだけです。
それ以外の何物でもありません。
ここで貴女の子供じみた人生相談を持ちかけるのは筋違いでは?

■>就活を目前に控えた大学生。さんへ

好きなことを仕事にするのが必ずとも幸せとは限らない、という考え方もあります。
あくまで趣味は趣味として仕事の余暇に楽しむ方が面白いかも知れません。
しかし、どうしても好きなことを仕事にしたいなら…。
今、出版業界は非常に景気が悪く、全く先が見えません。
リストラや倒産は日常茶飯事です。
転職する際に、「大」→「小」は簡単ですが、逆は困難です。
ですから新卒で就職する時は、なるべく大きな出版社に入って、出版業界全体の仕組みを知り、多くの上司・先輩・同僚にもまれた方が良いと思います。
その方が、きっと「つぶし」がききます。
Pプレスのような弱小出版社は、社長や編集長の「個人商店」です。
将来、経験を積んで、誰かから「私の会社を手伝って下さい。あなたの力が必要です」と言われて入社するのであれば、自分の力を発揮できると思いますが、何も知らない状態で入社しても、ロクな社員教育も受けられず、失望するだけでしょう。
小さな会社は「即戦力」を求めていますから。
Pプレスはやめておいた方がいいです。
社長に自分を合わせるのが仕事になり、編集として自分がやりたい仕事を押し殺さないといけないと思います。
そんな状況で3年もガマンできますか?
しかも突然、理不尽な理由でクビになるかも知れません。
また、会社自体が、今の経営のやり方では持たないと思います。
入社して数ヶ月で辞めると履歴書に傷がつきます。
転職の時、面接で必ず突っ込まれます。
悪いことは言わないので、もっと大きな出版社を目指した方が良いと思います。
それから、上の方も書いておられるように、相手の趣味を認められない恋人とは、うまくいかない可能性が高いでしょうね。

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