退職願③
テーマ:Pプレス2008年7月1日(火)の午前11時から、Y課長と僕が提出した「退職願」の扱いをどうするかについての話し合いが行なわれました。
参加したのは、T(Pプレス社長)・T役員(A出版元社長)・Y課長・僕の4人です。
場所は、なぜか会社から離れた新宿三丁目の喫茶店「R」です。
移動中のタクシーの中は重苦しい雰囲気で、誰も口を開きません。
「どうして、わざわざ遠くまで連れて行くんだろう?」
僕もY課長も、流れる車窓の景色を見ながら、そんなことを思っていました。
店に着くと、我々はあらかじめ予約してあった会議室に入りました。
4人が着席し、僕はインターホンで飲み物を注文しました。
まず、T役員が切り出します。
「昨日、Yと政権交代から『退職願』が提出されたけれども、この二人が辞めるというのはPプレスにとって非常に重大な問題だから、何とか考え直してもらえるように、これから話し合いたいと思う。」
「あの…。」
僕が言います。
「入社してわずか1ヶ月で退職するというのは、社会人として非常識なことなのは承知していますが、これまでのT社長のやり方を見ていると、とても付いていけませんし、いったん受理された『退職願』を撤回するつもりは全くありません。」
「オレも、この会社が今までと何も変わらないのだったら、『退職願』を取り消すつもりはないです。」
Y課長が続けました。
「お二人が、そのようにおっしゃっていることは、私としては受け止めるしかありません。」
Tは、早口でまくしたてるように言いました。
「今、受け止めるっておっしゃいましたけど、先日の会議で我々が問題提起をしたことも、結局うやむやにされてしまったじゃないですか。僕も家族があるので、社員を気まぐれでポンポン辞めさせるような会社に骨をうずめるわけにはいきません。」
僕が言うと、T役員が少し声を荒げました。
「お前さあ、子供じゃないんだから、そんなことばかり言ってても何も進歩がないだろ。もっと現実的な解決策を考えてくれよ。」
それに対して、「T社長が好き勝手な振る舞いをできないようにするのなら、オレは考えてもいいですよ」とY課長が応じます。
「そこでさあ、オレからの提案なんだけどさあ、例えば、Tの意向だけで決められないように何かルールを作るとかさ…。」
T役員がそう言いかけたのを、Tは直ちに大声でさえぎりました。
「それはできません! 経営に関することは私が決めます!」
「いやいや、そういう意味で言ってるんじゃないよ。」
「お二人の気持ちはよくわかりました! 退職を撤回するつもりがないのなら、それで結構です! これ以上の人格攻撃には耐えられません! 倒れてしまいます。私だって人間ですから!」
言うが早いか、Tは席を立ちました。
「おいおい、ちょっと待てよ! いいから座れよ!」
T役員の制止も聞かず、Tは部屋から飛び出して行きました。
Tは、よほど自分の決定権を奪われるのが苦痛なのでしょう。
まあ、こういう結末になるのは最初から見えていましたが。
それから、しばしの沈黙。
そして、T役員のため息が聞こえました。
「はあ…。」
Y課長が「次の話し合いはどうしますか?」とT役員に尋ねました。
「次? 次はないよ。終わったな。これで終わりだ…。」
そう言って、T役員はうなだれました。
この瞬間、Y課長と僕の退職が正式に決まったのです。
「お待たせしました。アイスコーヒー3つとアイスレモンティーです。」
店員が飲み物を持って部屋に入って来ました。
「遅いよ、もう…。」
せっかく引き止めて下さったT役員には大変、申し訳ありませんが、僕はとてもスッキリとした気持ちでした。
まるで、「見えない圧力」から開放された、映画『時計じかけのオレンジ』(スタンリー・キューブリック監督)の主人公・アレックスのように。
- 時計じかけのオレンジ
- ¥1,360
- Amazon.co.jp
- その夜、Y課長と僕は行きつけの居酒屋で飲みました。
「オレの3年間は、いったい何だったんだ…。」
そう言いながら、Y課長は泣きました。
僕もつられて泣きました。
~つづく~
■素晴らしいです
会社が壊れていく瞬間が熱く鋭く描き出された素晴らしいブログだと思われます。メリルにしてもリーマンにしても、ごういう瞬間の数知れない積み重ねが今日を招いたと思われます。