反逆者②
テーマ:Pプレス2008年6月26日(木)、午後3時から社内で始まった話し合い。
僕は、社員みんなが聞いているところで、T(Pプレス社長)の行なった悪事を洗いざらい暴露してやるつもりでいました。
結果的には、この試みは何の意味も持たなかったことになるのですが…。
さて、前回の続きです。
僕の言葉を聞いて見る見るうちに形相を変えたTは、「私が全て悪いと言いたいのですね!」と言い放ちました。
Tは、他人のことを自分の「敵」か「味方」に分けることしか知らないようです。
僕は、もはや完全に「敵」になってしまいました。
「いやいや、そんな単純な問題じゃないでしょう!」
僕は続けました。
「Nさん(経理)に対しても滅茶苦茶じゃないですか! そもそも『資金繰り表』を見せようとしたのは、そんなにいけないことなんですか!」
「えーッ! だって最初に『これだけは見せないでくれ』って言ってありますよ!」
「でも、コピーして外部の人に渡したわけじゃないんでしょう! ウッカリってこともあるじゃないですか!」
「ウッカリって言ったって、彼女は経理なんですよ! じゃあ、ウッカリ金庫のお金に手を付けてもいいって言うんですか!」
「それは話が飛躍し過ぎでしょう!」
僕はT役員(A出版元社長)に尋ねました。
「『資金繰り表』を見せようとしたっていうのは、そんなに悪いことなんでしょうか。」
「う~ん、普通は『資金繰り表』なんてのは、あんまり人に見せるもんじゃないよな。」
「ほら!」
「だけど、T自身が銀行融資とか、カネの話を社内で比較的オープンにしているからさあ。そういう環境の中だったら無理もないんじゃないの。」
確かにTは、「ちょっと、みんな聞いて~! ○○銀行から××万円の融資が決定したよ~! わ~い!」などと、いつも社員全員の前ではしゃいでいました。
「それでは、Nさんの行為は決定的なことではないんですね。」
「決定的なことじゃないよ、ちっとも。」
しかも、Nさんは「資金繰り表」を「見せようとした」のではなく、わからない部分をY課長に「質問しようとした」だけなのです。
僕は再びTの方を向きました。
「大体やり方が汚いじゃないですか! 本人のいない所でカギかけてミーティングやって『吊るし上げ』ですよ! こんなの完全な『欠席裁判』でしょう! 一方的過ぎますよ! ちゃんと本人の言い分も聞かなきゃフェアじゃないでしょう!」
「ああ、わかりました! だったら本人の言い分を聞けばいいんですよね! Nさ~ん!」
「はーい。」
「ちょっと待て!」
T役員が制しました。
「気持ちはわかるけど、今日はY(課長)の件で集まってるんだよ。話が広がり過ぎるから、Nくんのことは、ちょっと後にしてくれ。」
「わかりました。」
そうは応えたものの、まだ話に区切りが付いていません。
「Nさんだって今まで一生懸命やってきたのに、たった一回のミスで、あれだけギャアギャア言われたら、そりゃ辞めたくなりますよ! 本当は最初から辞めさせるつもりだったんじゃないですか!」
「一回のミスだけで辞めさせたりはしません!」
「一回とか二回とか、回数はどうでもいいんですよ! そりゃ人間なんだからミスはするでしょう! だけど社員として雇ったからには少しくらいのミスはあっても、ちゃんと育てて使っていくのが社長の責任なんじゃないですか!」
「私、そんな些細なことで彼女を責めた覚えはありません!」
「今、『些細なことで彼女を責めたことはない』っておっしゃいましたけど…」Y課長が言いました。
「前に、『私が冗談を言った時、みんなは拍手したのに、Nさんだけ拍手をしなかった』って文句を言ってましたよね。これって『些細なこと』じゃないんですか。」
「それは…。」
さすがのTも、少しおとなしくなってきました。
Y課長が続けます。
「オレのことだって『降格させる』って言ってたとか、オレは知らないと思ってるんだろうけど、政権交代から全部きいてるんですよ。オレがいない所で話してたこと全部。」
今度は僕が切り出します。
「それだけじゃないですよ! 『お茶を片付けなかったから即日解雇』とか、『○○さん暴言録』を部下に作らせたり、『飲み会で私に説教したから始末書』とか、社長だからって何やってもいいんですか! こんな会社、見たことも聞いたこともない!」
『独裁者』(チャールズ・チャップリン監督)という有名な映画があります。
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この中で、独裁者(モデルはヒトラー)が「私に意見を言った」という理由で自分の側近を逮捕させ、収容所送りにするシーンがあります。
その時、側近は独裁者に対して次のように言います。
「無実の人間を逮捕すると、必ず報いがありますよ。」
このセリフの「逮捕」を「解雇」に置き換えれば、まさにPプレスに当てはまるのではないでしょうか。
大事な人材を社長の気まぐれで次々に切り捨てるような会社が、繁栄するはずはありません。
独裁者が例外なく悲惨な結末を迎えることは歴史が証明しています。
話を元に戻します。
T役員が言いました。
「この会社を見ていると、ものすごく閉鎖的な感じがするね。出版社なんだから、もっと風通しを良くして、自分の意見を自由に言えるようにしないと、いいものは作れないよ。」
T役員は非常勤の取締役なので、Pプレスに顔を出すことは週1~2回しかありません。
そのため、Tの暴走を止められなかったことを非常に後悔されていました。
「私は、ちゃんとみんなの意見を聞いています。」
「いやいや、そんなことはないね。『始末書』とか『降格』とか、すぐに懲罰に走る。そういった環境で自由に物を言える訳がないよ。」
「……。」
「オレが前から言ってるだろ、『イエスマンは信用するな。意見を言うヤツを大事にしろ』って。意見を言うってことは、それだけ真剣に考えてるってことなんだよ。だから、そういうヤツの話は耳が痛くてもちゃんと聞くべきなんだよ。」
「だけど仕方なかったんですよ。私だって忙しかったんですよ。資金繰りのことで頭がいっぱいで、そこまで余裕がなかったんですよ!」
「いやいや、それはオレも社長だったことがあるから、資金繰りの大変さはわかるけどさあ、そういう問題じゃないんだよ。もっと頭を冷やしてさあ…。」
「大体、こんな風に私が必死で資金繰りに頭を使わなければいけなくなったのはT役員が面倒を見て下さらなかったからじゃないですか!」
「は? 何を言い出すんだよ!」
これほどまでT役員にお世話になっておきながら、都合が悪くなれば責任を押し付けるとは、この人の頭の中は一体どうなっているのでしょうか。
「だって私が相談したことも、ずっと放置されてたじゃないですか!」
「何を言ってるんだよ! そんなことはねえよ! それに今の話とは関係ないだろ!」
Tは半泣きになりながら叫びました。
「わかりました! そんなに私が悪いとおっしゃるんなら、みんなの意見を聞いてみて下さいよ! 私が本当にみんなのことを考えていなかったのか! 私は席を外しますから!」
「おいおい、ちょっと…。」
「みんな、集まって~!」
「はーい!」
Tが席を立つと同時に、社内にいた4人の編集部員が会議テーブルの前に集結しました。
~つづく~
■なんだか
田中真紀子元外相VS外務省官僚+鈴木宗男との闘いにそっくり。
田中真紀子氏も人は「敵か味方か」と「使用人」の3タイプしかいないって言ってみたいだし。