僕が入社してしまった会社⑥
テーマ:Pプレス2008年が明けると、いよいよPプレスは独立に向けての具体的な動きを始めました。
Y課長が中心となって、取次(本の問屋)に対し取引口座開設のための手続きを行ないます。
申請に必要な書類を取り寄せ、アポを取って、取次に提出しに行くのです。
様々な書類があり、内容について細かく質問されますから、その説明のために、また違う資料が必要になります。
そのため何度も通わなければなりません。
もちろん、口座を開く取次は1社だけではありません。
大手だけで7社あり、他に中小の取次とも口座を開かなければならないので、ここに書くと簡単なようですが、想像以上の労力が掛かるのです。
T元社長も、「取次に交渉に行くのに、これまでのような顧問的な立場では通用しない」と、新たに「取締役の名刺」を作成しました。
このT役員(A出版元社長)は20年近く出版社を経営してきたので、取次に対して「私が面倒を見ているから大丈夫ですよ」というアピールができます。
また、会社の経営方針や今後の出版計画などについては、社長であるTがまとめました。
実際に取次に行くのは、この3人ですが、その前に何度もミーティングが行なわれ、それには僕も参加しました。
途中、事前の根回しが足りなくてT社(現発売元)の会長を怒らせてしまうなどのトラブルもありましたが、さすがに売り上げ実績を積んできただけあって、取次との交渉はスムーズに運びました。
目標としていた2008年6月の「独立」は、どうやらメドが立ってきたようです。
2月には、Nさんという女性社員がPプレスに入社しました。
彼女は以前、A出版で「経理」を担当していました。
当時、PプレスではT(Pプレス社長)が経理を兼ねていたのですが、これから取次と直接取引を開始するに際して、出版の経理は返品などの関係で非常に複雑なため、どうしても経験者が必要になります。
NさんがA出版にいた期間は1年足らずでしたが、彼女の真面目な働きぶりを高く買っていたA出版の元経理部長(女性)が、T役員を通じて推薦したのです。
面接を終えると、T(Pプレス社長)はNさんに「こちらとしては、すぐにでも来ていただいて結構です」と連絡を入れました。
このようにして、A出版時代の同僚がPプレスに先行入社したことは、僕やY課長にとって非常に心強く感じられました。
3月には、それまで「有限会社」だったPプレスが、増資を行なって「株式会社」に移行。
それに伴い、T役員も「出資金」を増額させました。
4月に入ると、「事務所移転」の準備が始まりました。
それまでは編集のみで、わずか5人(社長含む)の小所帯だったPプレスですが、独立に向けて急激に人数が増えるため、今の事務所では手狭になってしまうからです。
編集業務で毎日、夜遅くまでお忙しいT(Pプレス社長)や編集の方々に気遣って、引越業者の手配などは、ほとんど新入社員であるNさんが行ないました。
まだ日常業務にも慣れていないのに、引越しの手配までしなくてはならないのは大変だろうと思い、僕とY課長は仕事の合間を縫って手伝いに行きました。
Tがギリギリまで物件選びにこだわったため、移転先の事務所が決まったのは4月14日(月)。
4月20日(日)の引越し当日まで、たったの1週間という強行軍です。
引越し前夜の18日(金)、夕方過ぎに僕とY課長がPプレスに行ってみると、予想通り、業者から送られてきた段ボールが、まっさらな状態のまま置かれていました。
我々は、お仕事でお忙しい編集部の方から指示を受け、片っ端から段ボール箱に荷物を詰めました。
しかし、夜遅くまで掛けても全ての準備は終わりません。
仕方がないので、僕とY課長は19日(土)も作業をすることになりました。
お仕事でお疲れの編集部の方々に無理はお願いできないので、我々だけで作業をするつもりでいたら、Nさんもやって来て、「あまりに申し訳ないので私も手伝います」と言ってくれました。
20日(日)は、さすがにPプレスの社員全員が出勤して引越し作業を行ないました。
終了後、駅前の「白木屋」で飲んだビールは格別の味でしたね。
この二日間、他の社員の方々と違い、僕とY課長は入社前なので完全な「ボランティア」でしたが、これからお世話になる会社であるし、女性社員だけで男手がないのは大変だろうと思っていたので、特に不満は感じませんでした。
むしろ、引越しが終わった後の事務所を見渡した時には、「6月から、ここで働くことになるんだなあ」と、感慨深かったくらいです。
そして4月末、取引口座開設を申請していた取次(本の問屋)のうち、最後の1社から「OK」という連絡が入りました。
これでPプレスは2008年6月より、「発行・発売元」の出版社として独立できることが正式に決定したのです。
5月下旬になると、T社の人たちが僕とY課長の送別会を開いてくれました。
T社出勤の最終日となった5月30日(金)、僕とY課長は、「短い間でしたがお世話になりました。あまりお役に立てず申し訳ありませんでした」と会長(T社)に挨拶をしました。
すると会長は、「いや、いいんだよ。出版のことがいろいろ勉強できて、こっちも助かったよ。Pプレスに入ったら、あなたたち二人が営業の中核なんだから、頑張りなさいよ」と励ましてくれました。
会長には厳しく叱られたこともありましたが、この言葉を聞いて、「人間味のある人なんだなあ」と感激しました。
長年に渡って会社を経営してきた人は、やはり人間的にも器が大きいようです。
6月2日(月)、僕とY課長は晴れやかな気持ちでPプレスに初出社しました。
これまで、会社の倒産に見舞われるなど、さんざん浮かばれない思いをしてきましたが、それらはさっぱりと水に流し、我々には「今日から心機一転、この会社で頑張るぞ!」という決意がみなぎっていました。
その時は、まさか1ヵ月あまりで二人とも辞めてしまうことになるなどとは、思いも寄りませんでした。
~つづく~
■いつも拝見しています。
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