「あきげしき」は宣伝の札とともに棚の目立つ位置に陳列されている=2日、熊本県城南町の「SHEE’S 城南店」、磯部写す
地元でしか飲めないお酒を造ろう。熊本県城南町の酒造メーカー「美少年酒造」がそんな思いを込めた新製品の清酒「美少年 熊本限定 あきげしき」が、事故米問題のとばっちりで極度の売れ行き不振に陥っている。米も水も酵母も県産素材を使って事故米とは関係ないが、別の酒用に仕入れた米に農薬に汚染されたものが混じっていたためだ。地場メーカーの意欲的な試みを頓挫させまいと、手を差し伸べる店も出てきた。
「あきげしき」は、同社の緒方伸太郎副社長(33)の発案。地元素材にこだわり、米は熊本県山都町産の酒米「あきげしき」、酵母は「熊本酵母」、水は阿蘇山系の伏流水。07年暮れに完成し、少し甘めでのど切れがよい。「まさに望んだ味だった」という。
7月7日、720ミリリットル換算で1万本を熊本県内限定で発売した。「7月は清酒の需要時期には早いが、取引先の反応は上々だった」と同社。12月までに初回分を完売し、9月に第2弾の仕込みを始める計画だった。ところが、9月に事故米問題が発覚し、状況は暗転した。
事故米混入の可能性があるのは、破砕米などで醸造し安価で売る「経済酒」。健康被害の恐れがないことも、公的機関の検査で明らかになった。だが、同社が三笠フーズ(大阪市)の関連会社から仕入れた米などで造った酒3万本の回収を決めたところ、返品された中に事故米と関係ない「あきげしき」が含まれていた。売れ行きも激減し、出荷数は計画の10分の1にとどまる。
窮状を見た地元酒店や酒卸問屋が、応援を始めた。美少年酒造に隣接するスーパー「SHEE’S 城南店」の酒類仕入れ担当、山本千枝子さんは「香りに副社長のこだわりが出ている。地元が味方にならなくて誰がなるの」。商品を売り込む札を作り、商品棚に張っている。熊本市の酒卸問屋「坂本国分」も「熊本で生まれたお酒を下火にしたくない。積極的にもり立てたい」と後押しする。
緒方副社長は「応援はありがたい。『あきげしき』を普及させ、熊本土産にしたい」と意を強くしている。(磯部佳孝)