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【社説】

ノーベル賞 誇るべき物理の三頭脳

2008年10月8日

 南部陽一郎、小林誠、益川敏英三氏のノーベル物理学賞の受賞決定を祝福したい。日本人の受賞は二〇〇二年以来で、三人同時の受賞は初めて。日本の理論物理学研究のレベルの高さが評価された。

 南部氏は「自発的対称性の破れ」を素粒子の場の理論に導入したこと、小林、益川両氏は物質の究極の素粒子「クォーク」が少なくとも六種類あることを予測したことなどがそれぞれ評価された。

 南部氏は質量の起源を解明する理論の基礎をつくり「小林・益川理論」に引き継がれた。「小林・益川理論」はその後、加速器の実験結果で証明され、現在では素粒子物理学の標準理論として受け入れられている。

 いずれも順当な受賞といえる。

 物理学賞受賞はわが国では、故湯川秀樹氏以来、南部氏(米国籍)らも含め七人だが、このうち五人が素粒子理論物理学の研究での受賞である。この分野でわが国が世界をリードしていることが内外に示されたことは喜ばしい。

 日本は長い間、応用研究中心で基礎研究が弱いとされてきたが、基礎研究に取り組む実力のある研究者がいないわけではなかった。今回の受賞はそれを示した。

 応用重視の風潮の中にあっても優れた基礎研究が脈々と行われてきていたのである。

 心配なのは、わが国の科学技術政策である。

 科学技術研究の司令塔である「総合科学技術会議」は〇六年度からの「第三期科学技術基本計画」の中でライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料を「第二期」に続き「重点推進四分野」と位置付けている。

 「国家的・社会的課題」の研究に優先的に投資するのもいいが、相対的に基礎研究への取り組みが弱いことは否定できない。

 資源が乏しいわが国が将来とも科学技術立国を目指すならば、成果がすぐに期待できる研究や、時流に乗った研究に偏るべきではない。若い研究者が長期的な基礎研究に腰を据えて取り組めるように環境を整備することが強く求められる。

 基礎研究は息の長い地道な努力が求められ、目先の成果を求めていては生まれないことを共通の認識としたい。

 世界のノーベル賞受賞者の受賞対象となった研究業績は、二十代後半から三十代後半のものが多い。既成概念にとらわれずに取り組むことができるからだ。

 若い研究者は今回の受賞を励みに大いに奮起してほしい。

 

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