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【社説】

1万円割れ リストラ口実にするな

2008年10月8日

 東京市場の株価が一時、一万円の大台を割った。世界的な金融危機と景気後退を反映しているが、日本経済は欧米に比べれば余力がある。企業はリストラや報酬カットの口実にすべきではない。

 株価下落の嵐は地球を一周して、米国に舞い戻った。ニューヨーク市場の株価は続落して、ダウ工業株三十種平均が終値で一万ドルを割った。嵐の勢いはやまず、東京市場でも日経平均株価は続落し一時、四年十カ月ぶりに一万円の大台を割りこんだ。

 金融危機は米国から欧州に波及した。欧州各国は預金の全額保証や信用不安が起きた金融機関への公的支援に動いている。

 実体経済も急激に落ち込んでいる。米国では、雇用削減が金融業界だけでなく建設、製造、小売りなど他業種にも広がった。欧州も個人消費や設備投資の低迷から景気減速懸念が強まっている。

 経済環境を見渡すと、悪材料ばかりが多く、株価はどこで下げ止まるのか、底が見えない展開だ。企業や家計が不安心理を高めたとしても当然だろう。 

 とはいえ、ここは過度に悲観せず、冷静に受け止めたい。

 日本は基本的に、欧米に比べて金融危機の打撃が限定的だ。日本の金融機関も住宅ローン関連の損失を出したが、経営の根幹を揺るがすほどではない。三菱UFJフィナンシャル・グループが苦境にある米証券大手モルガン・スタンレーに巨額出資を決めた例が、端的にそれを示している。

 中小企業の資金繰り難を心配する声が出ているが、銀行は外資救済に動くくらいなら、間違っても「貸し渋り」と疑われる行為は慎むべきだ。政府系金融機関が融資する場合でも、民間融資の肩代わりによって、貸し渋りを助長してはならない。

 輸出型製造業は欧米の景気減速に円高加速も加わって苦しい環境にある。だからといって、安直に期間契約工員や非正規社員を削減してほしくない。正規、非正規を問わず雇用維持を大前提にして、業務の効率化に知恵を絞るべきだ。

 外需に頼らぬ理想的な内需型経済に移行するためには、個人消費が鍵を握る。消費を支えるのは雇用と賃金である。

 企業業績は春まで好調を続けてきた。先の見通しは楽観できないが、雇用や賃金、ボーナスを削減して家計にしわ寄せすれば、日本経済全体が縮小再生産に陥りかねない。危機に便乗したリストラ策の再来は願い下げにしたい。

 

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