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【主張】ノーベル物理学賞 日本の理論研究の底力だ
しばらく遠ざかっていたノーベル賞が一挙に日本に戻ってきた。
京都大学名誉教授の益川敏英さん、高エネルギー加速器研究機構名誉教授の小林誠さんと米国籍でシカゴ大学名誉教授の南部陽一郎さんの3人に、今年のノーベル物理学賞が贈られることが決まった。
6年前の小柴昌俊さん(物理学賞)と田中耕一さん(化学賞)のダブル受賞以来の朗報である。
日本初の受賞者、湯川秀樹博士の生誕101年にあたる今年、日本の基礎科学の研究力が正当に評価されたことを喜びたい。
益川さんと小林さんは、物質の根源を探る素粒子物理学の分野で大きな成果をあげた。あらゆる物質は基本粒子「クォーク」で構成されているが、2人が研究に取り組んでいた1970年代の初期には、何種類のクォークが存在するのかもわかっていなかった。
2人は、物質と反物質の差を示す「CP対称性の破れ」という現象によって、われわれの宇宙が存在していることに注目し、対称性の破れが生じるためには、物質を構成するクォークには、少なくても6種類が必要であることを示したのだ。
この「小林・益川理論」は、2人が京大理学部の助手であったときの共同研究だ。35年ほど前のことである。南部さんは、60年代に素粒子を扱う場の量子論で「対称性の破れ」という理論を提唱していた。
今とは異なり、パソコンなどは存在しなかった時代の研究だ。
まさに紙と鉛筆による研究で、現在の素粒子物理学の骨格をなす「標準理論」の一角を築き上げたのだから、その創造性は驚きに値する。巨額の研究費が投じられることが当たり前になりつつある今日の自然科学の在り方に一石を投じる受賞であろう。
日本が輩出したノーベル賞受賞者は、これで計15人となった。自然科学では12人で、うち7人が物理学賞である。
また2000年以降の日本人科学者のノーベル賞は、7人に達した。自然科学分野の若手研究者には、この快進撃を励みとして、ますます独創的な研究に取り組んでもらいたい。
ただし、国が進める研究強化策では競争力を重視するあまり、若手研究者の身分が不安定になっている。当時のように研究に没頭できる環境も必要である。