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2008年10月8日

◎厚生年金会館の入札 ホール維持での参加を歓迎

 石川厚生年金会館の売却問題で、北陸電力が十二月の一般競争入札に参加する方向で検 討を始めたことは、ホール維持を前提にしているという点で歓迎すべき動きである。石川県や金沢市は、ホール事業の継続を条件に財政支援する方針を明らかにしているが、入札参加者の動向に目を配りながら支援策の具体的な中身を詰めてほしい。

 大ホールを持つ厚生年金会館は全国で七施設あり、売却決定後、各地で存続を求める運 動が広がった。石川厚生年金会館の場合、昨年十月に金沢経済同友会が谷本正憲知事との意見交換会で、ホール機能の必要性を指摘した。その後、各種団体が県、市への要望や署名活動を展開し、貴重な文化施設を失うことへの危機感が一気に強まった。北電の今回の判断も急速に盛り上がった存続運動と無関係ではないだろう。

 厚生年金会館のようなイベントホールを含む施設を企業が運営するのは決して容易では ないが、電力会社は電力供給を通じて地域と密接に結びつく公益企業であり、北電が取得に動くことは、経済合理性を追求するだけでなく、地域に貢献するという「企業市民」の理念にも沿った判断といえる。

 石川厚生年金会館売却後のホール維持は入札条件に含まれていないが、入札参加者が自 らの意思でそれを受け入れるのは好ましいことである。入札へ向け、存続の流れが定着することを期待したい。

 ホール付き厚生年金会館として八月に初めて入札が行われた「愛知」の場合、名古屋市 がホール存続を条件に固定資産税相当額を五年間補助する措置を打ち出しながら、住宅メーカーなどの共同企業体が落札し、マンションが建設される方向となった。一方、来月に入札が予定される「北海道」は札幌市がホールを含む施設部分、札幌商工会議所が駐車場部分の入札に参加する見通しである。

 それぞれ立地環境や地域の文化施設の集積度が異なるにせよ、ホール存続をめぐり自治 体の温度差も浮き彫りになっている。県や市は購入を見送ったからには足並みをそろえ、ホールを支える熱意を支援策でしっかり示してほしい。

◎東証1万円割れ G7で資金供給拡充策を

 日経平均株価が一時一万円を割り込んだ。ニューヨーク株式もダウ平均が一万ドルの大 台を割り、世界同時株安が止まらない状況になっている。リーマン・ショックから三週間もしないうちに、楽観論は跡形もなく吹き飛び、世界規模の大不況の足音に市場の緊張は高まるばかりである。

 米国が金融危機対策の法律を成立させ、欧米各国も経営難の金融機関を国有化するなど 火消しに努めているにもかかわらず、金融市場の動揺が収まらない。大きな要因の一つは、金融機関の資金繰りが改善しないためであり、十日に米国で開かれるG7(先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議)で、日米欧がどこまで踏み込んだ危機対応策を打ち出せるかが問われることになろう。

 その際、日本は資金の供給者としての役割を求められる。米国やドイツの国債を担保に して巨額の円資金を貸し出す資金供給の枠組みができれば、金融機関の泣き所である流動性不足の問題は大きく改善するだろう。為替や債券のリスク管理などの問題点をよく整理したうえで、円資金のさらなる供給に道を開いてほしい。欧米各国は公的資金の積極的な投入に踏み切る必要がある。

 金融機関の破たんや経営悪化が米国から欧州に飛び火し、先行き不安から株が売られて いる。投資ファンドは解約に備えて現金を用意する必要があり、株や債券を売り、下げが下げを呼ぶ図式になっている。サブプライムローン問題の影響をあまり受けていないはずの東京市場で株価の下げが止まらないのは、世界経済の先行きの不透明感に加えて、外国人投資家や投資ファンドが換金の必要性に迫られているためである。

 世界的な信用収縮が収まらぬ限り、株式や為替市場は安定しない。グローバル経済のな かで、欧米だけを切り離すのは不可能であり、豊富な円資金を持つ日本の存在感がこれまでになく高まっている。

 G7で日米欧は金融不安解消に向けた具体策を示さねばならない。日本は潤沢な資金供 給を、欧米各国には公的資金のさらなる注入や利下げが求められよう。


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