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2008年10月8日

 急逝した俳優の緒形拳さんは、大衆演劇「新国劇」出身である。「王将」の坂田三吉が当たり役の辰巳柳太郎さんに弟子入りした

テレビ出演で人気が出た緒形さんは、辰巳さんの反対を押し切って退団し、劇団は衰退の道をたどる。「顔も見たくない」と、辰巳さんは弟子の訪問を拒む一方で、緒形さんの「王将」公演にひそかに足を運び、「あかんわ」と、伝えたという。愛憎半ばの師を尊敬し、緒形さんは「下手は役者にとっては褒め言葉」として、小器用な振る舞いを戒めたという

厳しい師を芸のこやしにした緒形さんの訃報が届いた日、日本人3人のノーベル物理学賞受賞の朗報が飛び込んできた。湯川秀樹、朝永振一郎博士に始まる日本の素粒子物理学研究が、また大輪の花を咲かせた

6年前に受賞した小柴昌俊博士が、「私の研究を継いで、あと2人は受賞者が出る」と話したことを思い出す。2人との予言は3人に増え、素粒子研究の系譜が脈々と受け継がれていることを、世界に示した

学問と芸。分野は異なるが、優れたものを脈々と受け継ぐ師と弟子のきずなの深さを思う。


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