家庭内で65歳以上の高齢者が暴行などの虐待を受けたと判断された件数が、平成19年度は1万3273件にのぼったことが6日、厚生労働省の調査で分かった。調査が初めて行われた18年度に比べて704件(5%)の増。うち27人で高齢者が死亡していた。各自治体で相談窓口整備などの虐待防止に向けた取り組みが進む一方で、高齢者虐待が減らない実態が明らかになった。虐待の加害者は息子や夫が多く、被害者の8割が女性だった。
調査は高齢者虐待防止法が18年に施行されたことを受けて実施されたもので、2回目。全国の自治体を対象に行った。
介護支援専門員や家族や本人から自治体に寄せられた相談や通報は1万9971件(前年比8%増)。うち1万3273件が虐待と判断された。
虐待の種別(複数回答)では「暴力など身体的虐待」が63%、次いで「暴言など心理的虐待」38%、「食事を与えないなど介護放棄」28%、「財産を勝手に処分するなどの経済的虐待」25%だった。
高齢者が死亡した27件の死因をみると、殺人13件、介護放棄による致死7件、心中4件、他3件だった。
全体の被害者の7割が、介護が必要という認定を受けた人。虐待をしているのは息子40%、夫15%で娘、嫁、妻と続いた。
また、特別養護老人ホームなどの施設側が加害者となった虐待も、379件(前年比106件増)の相談や通報があり62件(同8件増)が確認された。
把握された虐待のうち35%で高齢者を施設に別居させる措置がとられ、他もケアプランの見直しなどの対応が取られている。
一方、虐待防止法施行を受けて整備が進められてきた「対応窓口設置」は99%の自治体が整備済み。半面、虐待に対して保健医療福祉サービスが介入するための仕組みづくりは38%しか整備していなかった。
厚労省では「相談や通報の体制整備が進んだことが、前年以上に虐待を把握することにつながったと考えている。さらに体制強化することで虐待件数減少につなげたい」としている。
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≪老老介護で悲劇も≫
全国で年に1万3000件も発生している高齢者虐待。自治体を通じて把握できないケースもあり、「氷山の一角」という指摘も。
平成19年9月には、前橋市で息子(53)が歩行困難で病弱な母(77)の介護を「面倒を見るのに疲れた」と放置死させる事件が発生。北海道旭川市では同年10月、89歳の夫が、認知症だった81歳の妻を絞殺する“老老介護殺人”の悲劇も起きている。
施設での虐待も後を絶たず、岡山県津山市のグループホームでは、入所する認知症高齢者全員の体重が異常に減るという事態も起きた。
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