国会は六日から、衆院予算委員会に舞台を移し、総合経済対策などを盛り込んだ二〇〇八年度補正予算案の基本的質疑に入った。次期総選挙をにらみ、与野党の攻防は一段と激しさを増しそうだ。
麻生内閣発足後、初の本格的な論戦の場である。この日、与野党の対決として注目されたのが民主党の長妻昭政調会長代理による質問戦だ。長妻氏は厚生年金の標準報酬月額の改ざん問題を取り上げ、「改ざんの疑いがあるのは最初一件だったのが百四十四万件へと膨らんだ。このうち改ざんや不適切な処理は何件あるのか」とサンプル調査の実施を迫った。
これに対し、舛添要一厚生労働相は「サンプル調査よりも改ざんされた可能性が高い人から直接確認するのが最高のやり方だ」と拒んだ。
長妻氏は、さらに野党が各省庁へ資料要求した際に自民党が提供前に相談するよう指示していた問題で、中止するよう求めた。麻生太郎首相は「議院内閣制の下での政府、与党の関係を踏まえると、情報提供を行うことは特別問題はない」と述べ、平行線をたどった。
一方、与党側では自民党の保利耕輔政調会長が、麻生首相の所信表明演説に触れながら、「ねじれ国会」での与野党の合意形成ルールづくりや衆院解散日程などについて見解をただした。
首相は「景気への先行き不安が国民の最大の関心事だ」とし、解散より補正予算案成立を最優先させる考えをあらためて示した。「ねじれ国会」への対応では「政党間協議は成熟した民主主義、議会制民主主義の中では当然やるべきだ」と民主党をけん制した。
公明党の北側一雄幹事長は、金融危機など状況の変化を踏まえ、補正予算に続く追加的な経済対策をただした。麻生首相は「必要と判断するなら、それなりの対応は避けられない」と、前向きな姿勢を示した。
民主党が自らの政策や取り組みをアピールして迫れば、与党側は質問の中に民主党への批判を込め、麻生内閣の政策の正当性を強調する。応酬の激しさの割に論戦の中身は目新しさに乏しく、選挙モードを色濃くにじませた。
米国発の金融危機が世界に広がりつつある。国内景気が減速する中で、中小零細企業の厳しさが増している。国民生活も伸びない所得や物価高にあえぎ、食の安全など不安や不信が募る。次期衆院選は刻々と迫っている。聞きたいのは緊張感ある政策論争だ。有権者の目線を忘れてはならない。
米サブプライム住宅ローン問題の影響で資金繰りが悪化していたドイツ不動産金融大手ハイポ・リアル・エステートを救済するため、ドイツ政府が民間銀行団などと合同で最大五百億ユーロ(約七兆一千七百億円)に上る支援に乗り出した。
総資産四千億ユーロ(約五十七兆円)のハイポが破たんすれば広範囲の影響が懸念されていた。欧州での金融危機拡大をとりあえず防いだ形だが、ハイポの経営危機自体、欧州最大の経済国ドイツでもサブプライム問題の影響が深刻化していることを浮き彫りにしたといえる。
これに先立ち、危機対応のため欧州主要四カ国首脳の緊急会合が開かれた。フランスは公的資金による銀行救済などを狙った基金構想を検討したとされるが、負担押しつけを嫌ったドイツが反対し、抜本策を打ち出せなかった。失望が広がり、ハイポ支援策が出ても六日は東京市場などで株価が下落した。
ハイポ救済では最大三百五十億ユーロ(約五兆円)の当初の支援策が撤回され、増額された経緯がある。欧州の市場関係者が批判する通り、対応が後手に回っている印象はぬぐえない。
経済統合を果たした欧州では金融機関の活動は国境を越えて広がる。半面、各国それぞれに事情が異なり、金融機関の監督や危機への対応で足並みをそろえることは簡単ではない。
緊急会合は、金融機関の監督と国際協力を担う機関を欧州連合(EU)に設けることなどを盛り込んだ声明を発表した。実現と有効な働きが期待されるところだが、やはりフランスが検討したとされる基金のような仕組みが必要ではないか。
統合を弾みに欧州経済は最近まで比較的順調にきた。ピンチを迎え、連携の真価があらためて問われている。
(2008年10月7日掲載)