NPOやボランティアが自家用車で高齢者や障害者を有料で送迎する「福祉有償運送」。従来は「白タク行為」として禁止されていたが、06年10月の道路運送法改正で合法化され、県内では現在55事業所が運営、利用者は推定約4000人に上る。ただ、利用者が急増している浜松市の一部地域では、タクシー業界から「営業が成り立たなくなる」と反発する声も出ており、福祉とビジネスのはざまで制度運用の難しさが浮き彫りになっている。【平林由梨】
高齢者や障害者の介護のためには、対象者を車両で運ぶことが必要。ところが、介護業者は有償運送の許可を持っておらず「白タク行為」になってしまうため、福祉有償運送が合法化された経緯がある。
浜松市内では、市民や利用者、ボランティア団体、タクシー業界などで構成する協議会の承認を経て15事業所がサービスを提供している。市のガイドラインで、利用者は介護保険の要介護または要支援認定を受けた人、あるいは障害者と同伴者に限定されている。事前の会員登録や前日までの予約が必要など制約はあるものの、料金がタクシーの半額程度で済むため、人気を集めている。
同市西区の雄踏町と舞阪町で同サービスを提供するNPO「雄踏フレンドリィ」は、04年に会員数27人からサービスを始め、現在は約15倍の418人に急増した。同NPOの宮崎芳幸理事長は「何もしなくても会員は増えてきた」と話す。
ただ、同NPOによると、利用者の約1割は、ガイドラインに該当しない人たちだという。「市街地からはずれた地域から浜松医大までタクシーで往復すると1万円以上かかる。バスの本数も減り、多くのお年寄りが困っているのに放っておけない」として、宮崎理事長の判断で“特例”の利用を認めているという。
04年から同NPOのサービスを利用する同区雄踏町の坂下正二さん(84)は目が悪いが介護認定は受けていない。月3万2000円の年金暮らしで、月に最低2回はこのサービスで町外の病院に通う。「車中ではボランティアさんとおしゃべりもでき、楽しい。本当に助かっている」と話す。
一方、市内のタクシー業界は危機感を持っている。市タクシー協会の小高泰明会長は「利用者をどんどん増やすのは法の趣旨にそぐわない。我々は膨大な安全投資が必要とされるのに不公平だ」と話す。業界も福祉対応に力を入れており、市内には車いすが利用できる福祉タクシーが20台走り、需要に応じて増やしてきた。先月の協議会で小高会長は、NPOの利用者が増えている理由として挙げられた「公共交通機関の不足」について、具体的なデータを示すよう、市に要望した。
一方で、NPO側も「現在の規定では利用できない人が多すぎる」として、ガイドラインの見直しを市に求める方向で、他の事業者にも賛同者を募っている。
市福祉総務課は「利用者全員について、ガイドラインに該当しているかをチェックするのは現状では不可能」と、福祉と業界の板挟みで対応に苦慮。「事業者にガイドラインをきちんと伝えたい」としている。
毎日新聞 2008年10月7日 地方版