10月から毎日新聞と毎日jpで始まる「勝間和代のクロストーク」。 勝間さんに連載の狙いや、読者の皆さんへのメッセージなどを語ってもらった。 【聞き手・塚田健太、まとめ・嶋野雅明】
●「私の意見」が大事●
--連載の狙いを。
例えば年金問題なら、今の制度を継続できないのは明らか。継続したらこういう状況になる、しないとしたらこういう選択肢がある。どれを選ぶかという議論をしたいです。あと公教育の問題もある。日本の公教育の対GDP比率は先進国で最低水準に近い。家庭の負担がすごく重くなり、少子化や、格差社会の固定化を招く。だったら税金が上がっても公教育につぎこむという選択をするのか、あるいはどこの部分を削って教育を強化するか、あるいはこのままでいいのか 。
新聞だけでは、ディスカッションはできませんが、ウェブを使うことで、問題提起したあとで意見を募り、次の回までの2週間の間に、たまった投稿を眺めて皆でもう一度話を持ち帰る--といった循環ができればいい。それを通じて、ふだん新聞しか見ない人はもっとウェブを見てほしいし、逆にウェブしか見ない人はもっと新聞を見てほしい。新聞とウェブの「クロス」も狙いたいと思っています。
--議論を通じて新たな解決のフレームワーク(枠組み)を見つけていくということですね。どんな意見を期待するのでしょう。
◆実際に読者としてなぜその考えを持つのか、根拠を持つのか、「素人マーケター」と私は呼んでいるのですが、第三者がそう思うからでなく自分自身の意見を聞きたい。「私は、こういう家族構成で、こういう仕事で、こういう地域だとこのように必要だ」と。政策というものは一人一人の個人のためでなければいけないが、どんなに統計を見てもわからない。草の根の人たちが何を考えて何を望んでいるかという集約の場にしたいです。
--そうした発想はブログを運営されて生まれてきたのでしょうか?
◆私は男女共同参画問題を中心に、11年間「ムギ畑」というコミュニティ(ワーキングマザーとその予備軍のための無料会員制サイト)を主宰していて、そこでの知見を政府の審議会や専門委員会で発言したり、意見書も提出してきました。その意味で男女共同参画に関しては、ここ10年でずいぶん進んできた。その「力」の一部を私たちが担えていたのかなと思っています。同じように意見を集約して「声を上げる」結果を、実際に「資源配分」する官僚や政治家に届けるというのが大事だと思っています。
--個人個人で思っているだけでは政策決定者に届かない。議論の場を設けて積み上げるのが必要ですね。
◆そうです。その際には「私はこう思う」だけでなく、フレームワークを設定したり、費用対効果に落としこむ作業が必要だと思います。一通り議論が終わったときには私もまとめのコメントを入れたい。問題提起した翌週の金曜日に「毎日jp」で掲載するほか、新聞本紙でも状況を説明したい。
●ワクワクできる日本を●
--新聞とウェブ両方でやる意義は。
◆二つのメディアにはメリットとデメリットがある。ウェブの最大の難点は電源と端末がないと見られない。新聞はすぐ見られる。ウェブはたくさんの情報を残せるが、読者にとっては探さなければいけないということと同義。新聞は少ししか情報が載せられない分、読者にとって検索が早いし容易だ。両方を「いいとこ取り」してそこをクロストークで生かしたい。
--読者の意見が大事ですね。
◆ウィズダム・オブ・クラウズ(衆人の知恵)という発想ですが、意見が多様でそれぞれ違った考え方の人が、それぞれしっかりとした意見を言えば言うほど、総合的な意見は優れたものになるんですね。逆に一方で衆人はリスキーシフトというのですが、集団で発言してディスカッションすればするほどリスキーな方向に結論が行くという別の議論もある。多様な意見がいかに集められるかがポイントで、そこは皆さんの投稿に期待しています。
--読者からの投稿は基本的に実名でお願いしますが、その狙いは
◆匿名になると攻撃性が高まり、自分の本当の意見より過激になりやすいんです。実名にすることによって、自分のアイデンティティーを示しながら責任を持った意見にしてほしいということです。匿名にするだけで、自分が思ってもいない意見とか、第三者の意見をいかにも自分の意見のように言ったり、あるいは自分がそこまで過激に思っていないのにこれもリスキーシフトが起こり、より過激に言ってしまうということが起こりがちです。これについては、いろんな実証研究があります。
--勝間さんはコンサルタントやアナリストとして、資本主義の最先端で成果を上げてきた。貧困や格差問題など資本主義のマイナス面を大きく取り上げようとしているのは興味深いですね。
◆私が一番気がかりなのは、子供たちの世代へどういう資本主義を残すかということです。私は子供が3人いるので、成人したときにどういう社会になっているだろう、ワクワクできる社会か、このまま閉そく的になっているのかと。自分たちが日本に生まれて良かったなあとか、もっともっと日本で自己実現できるではないかという感覚を持ってほしい。残念ながら今の若年層がそういう感覚を持っているかというとかなり厳しいと思うんですよ。 若者が明るくない国は将来が暗い国ですから、そこの明るさを取り戻してほしい、そのためには今、仕組み的に疲労しているところはどこであるか見つけて、そこを直していくのは年上の私たちの役割だと思っています。逆に今の若者が年取った時には同じことをしてほしいんです。 経済分析をして、効率や資源配分を考えれば考えるほど、社会のゆがみは見えてくる。経済学や金融政策を研究していて、貧困とか格差問題に気づかない方がおかしいと思うんです。